「ビジネスケアラー」という言葉を聞いたことはありますか?文字通り、働きながら介護を担う「介護と仕事を両立している人」を指します。
少子高齢化、共働き化が進む日本では、他人事ではない社会問題の1つです。
介護と仕事を両立しているビジネスケアラーは「仕事は手放したくないけど、介護との両立は精神的にも肉体的にも厳しい……」と、悩んでいるケースが少なくありません。その結果、離職に追い込まれるという現状も多くあります。
今回の記事では日本におけるビジネスケアラーの現状と、今後、確実に増加していくビジネスケアラーが、介護と仕事の両立とどう向き合っていけば良いのかをご紹介したいと思います。
「ビジネスケアラー」とは何か
ビジネスケアラーとは、仕事をしながら家族等の介護に従事する人、介護と仕事を両立する人という意味です。
急増しているビジネスケアラーの背景には、日本の中で人口ボリュームの大きい団塊の世代が2025年に75歳以上の後期高齢者となる「2025年問題」も大きく影響をしています。
「2025年問題」とは2025年には国民の5人に1人が後期高齢者となり、労働力不足、医療人材不足、社会保障費の増大といった課題が発生する社会問題です。
介護が必要となる要介護者が増加するため、その子ども世代である40代〜50代のビシネスケアラーも同じく増加します。この世代は企業で管理職として活躍する世代であるため、親の介護で仕事をセーブする、介護離職する等で日本経済の生産面に大きな影響が出ることが予想されています。
家庭内で介護を担うだけにとどまらず、日本経済にも影響を与えるビジネスケアラー。これからの日本を生きていくわたしたちにとって、誰もが直面する問題といっても過言ではありません。
「ビジネスケアラー」の現状
2023年3月に経済産業省が公表した将来推計によると、全労働力人口の中のビジネスケアラーの割合は、2012年に約211万人、2020年に約262万人。2030年には家族介護者833万人のうち約4割がビジネスケアラーとなることで、その経済損失額は2030年時点で約9兆円に迫ると推計しています。
つまり、ビジネスケアラーは、本人がどのように仕事と介護を両立していくかという個人の問題ではなく、企業や国全体で取り組まなければいけない社会問題になっています。
また、今後も未婚者の増加、兄弟姉妹の減少、共働きをしているなど、多様なライフスタイルに変化することが予想され、これからはより少ない人数で介護を担っていく社会になることは明白です。そのため介護を中心的に担う現代の40代〜50代のビジネスケアラー、一人ひとりにかかる介護負担も増大します。
人手が足りない場合、その介護負担は孫にまで影響し、社会問題のひとつである「ヤングケアラー(大人が担うべき介護を日常的に行う10代以下の子ども)」の増加にも繋がる可能性もあるでしょう。
「ビジネスケアラー」が抱える課題
ビジネスケアラーが抱える課題は、大きく分けて2つ考えられます。
①肉体的・精神的負担
介護と仕事。どちらかひとつでも心身ともにエネルギーが必要ですが、ビジネスケアラーの場合は両方を担うため、心身への負担はさらに大きくなります。また、子育てと違い介護は突然始まる場合が多く、終わりの見通しがつかないことがほとんどです。
「いつまで仕事と介護を両立する日々が続くのか分からない……」という精神的な不安も心を疲弊させてしまう理由のひとつ。心身ともに疲れてしまい、介護離職を選択してしまう人も少なくありません。
②介護離職による経済損失
ビジネスケアラー急増による経済損失も大きな課題です。
2030年時点で約9兆円に迫るとされている経済損失の大きさから、ビジネスケアラーは個人の課題ではなく、企業・国全体で取り組むべき問題として認識が広がりました。それに対して政府は2023年6月「経済財政運営と改革の基本方針2023(骨太方針)」(内閣府:経済財政運営と改革の基本方針2023)の中で介護と仕事の両立支援を推進する方針を発表。このように国が動くことで、今後企業側のビジネスケアラーへの支援の推進が期待されます。
しかし、「介護していることで今後のキャリアに影響があるのでは」「変に気を遣われたくない」などの思いから、会社に介護を打ち明けることができない「隠れビジネスケアラー」が存在することも忘れてはいけません。
これから先は当たり前のように介護と仕事を両立させる時代となることが想定されるため、介護をしていることを打ち明けられる職場環境や、リモート勤務、フレックスタイム制の導入など、企業側に介護をしていても働き続けられる仕組み作りが求められるでしょう。
介護と仕事を両立させるには
「育児・介護休業法」(厚生労働省:育児・介護休業法について)といって、仕事をしながら育児や介護を担う方に向けた制度があります。
しかし、取得することが一般的となった「育児休業」と比べ「介護休業」の取得率はとても低く、2017年10月時点での介護休業取得率は全体で1.2%、介護休業制度以外の制度(例:短時間勤務制度など)の利用を含めても8.6%しかありませんでした。(2019年 内閣府調べ)
すでに「ビジネスケアラー」として介護と仕事を両立させている方も数多くいますが、そのほとんどの方が制度を利用せずに介護をしているということが分かります。
仕事と介護を両立するには介護離職をしないことがとても重要です。介護を理由に離職してしまうと、介護をする方の人生はその後大きく変わってしまいます。
施設への入所や親との死別により介護をする必要がなくなったとき、いざ再就職しようとしても難しいことが多く、介護離職をした方の正社員としての再就職率は、全体の半数にも満たない数字となっており、4人に1人が仕事をしていない無職の状態にあることが労働者アンケートによって明らかになっています。(2012年 厚生労働省調べ)
すでにビジネスケアラーの方は、「育児・介護休業法」に基づく介護休業・介護休暇の取得や、短時間勤務制度の活用、家族・親戚間での介護分担、加えて福祉サービスを上手く取り入れるなど、なるべく離職せず介護と仕事を両立することを考えましょう。
まだビジネスケアラーではない方も、身近な人の介護に向けて、備えておく必要があります。介護はいきなり始まる可能性もあるため、最低限の知識は学んでおくと将来必ず役に立つでしょう。インターネットで調べることも大切ですが、お住まいの地域の介護セミナーに足を運ぶこともおすすめです。
また、このように事前に介護について学んでおくことが当たり前になれば、職場や企業の介護について理解を深めることになり、介護休業などの取得のしやすさにも繋がっていくはずです。
働きながら介護をすることは、どうしてもネガティブに捉えられてしまいますが、介護を経験することによって得ることのできる経験や知識もあります。
「仕事が介護の息抜きになる」「仕事に行くことで社会との繋がりを感じることができる」「周囲の人の小さな異変に気が付く」など、実際に介護をした経験によって働くことへの意識や、仕事への向き合い方に変化を感じる方もいます。
せっかく両立するのであれば、介護するうえでのポジティブな経験にも目を向けて、仕事にも活かしていきたいですね。
ビジネスケアラーとして介護に携わる際に、介護か仕事どちらかひとつではなく、安心して両立していける社会になるよう個人・企業で取り組んでいきましょう。
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