在宅介護を続けていると、高齢の親の認知症の進行や体の機能の低下により、在宅では対応しきれない場面や、介護者の身体的・精神的負担の蓄積に直面することがあります。施設への入所が頭をよぎるものの、どのタイミングで施設への入所を決めたらいいのかと悩んでいる方も多いのではないでしょうか?
今回の記事では、施設への入所を考えるタイミングや、高齢者施設への入居条件をご説明します。また、入所への心理的ハードルをいかに乗り越えるのかについても考えていきます。
高齢者施設についての基礎知識
高齢者施設には、さまざまなタイプの施設が存在し、大別すると、民間の施設と公的な施設の2つに分けることができます。また親が日常生活に介護を必要とする場合と、自立して生活できる場合とでは、入居できる施設が異なります。
次の表は、高齢者施設を民間施設・公的施設に分け、介護度別にまとめたものです。
それぞれの施設ごとにサービスの特色があり、介護保険制度の要介護認定・要支援認定が必要かどうかなど入所条件にも違いがあります。
ご本人の体の状態に加え、「病院付き添いサービスのある施設がいい」「定期的に施設の外で散歩をしたい」「体が動くうちは、自分で料理がしたい」など希望を整理しておくと施設選びに役立ちます。
まずは、親にどの施設が適切なのかを、担当のケアマネージャーや、各地域に設置されている地域包括支援センターの窓口などに相談してみてください。
親の施設入所を考えるタイミング
施設入所を判断する基準とは、どのようなものでしょう。ここでは、介護される親の変化と、介護する子の心と体の変化の例について整理してみます。
介護される親の変化
・認知症が進行している。
・火の始末ができなくなった。
・一人でトイレに行けなくなるなど、介護を必要とする場面が増えた。
・転倒するなど、危険を感じる場面が増えた。
・食が細くなり、食べようとしない。
・介護度が上がり、ほぼ終日、介護が必要になった。
介護する子の変化
・高齢となり、体力が続かなくなった。
・病気や怪我を抱え、無理をしながら介護を続けている。
・親の介護度が高くなるにつれ、対応しきれない場面が出てきた。
・心身ともに負担が重なり、介護疲れの状態に陥っている。
在宅介護の限界までがんばりすぎてしまうと、介護者が体を壊すことや、介護中の事故につながる恐れもあります。少しでも心配事があれば早めに、周りの専門家に相談してみましょう。
高齢者施設入所に向けてのステップ
事前に準備をしておくと役立つ3つのポイントをご紹介します。
1. 家族で相談しておく
親が認知症になると、ご本人の意思を確認できないまま施設入所を選択しなければなりません。判断力がある場合でも、急な施設への入所はご本人への負担が大きくなってしまうため注意が必要です。
また介護する側の家族やきょうだい内で、介護の状況を共有し足並みを揃えておくことが大切です。入所が必要になって初めて、考え方の違いが表面化するといったトラブルを防ぐことができます。
2. 施設の情報を得ておく
いくつかの施設を見学し、設備や職員・入居者の様子を直接知ることで、親が快適に過ごせる施設を選択する際に役立ちます。また親も一緒に施設を訪れることができる場合は、親の希望を尊重した施設の選択につながります。
3. ケアマネージャーと連携しておく
普段からケアマネージャーに相談をし介護の状況を共有しておくことが大切です。
ケアマネージャーは、親の状態はもちろん、介護者の体や心の状態にも目を配っており、在宅介護の限界を察知すると「そろそろ入所の時期を考えては」と提案することもあります。第三者の視点から助言を得られることは、施設入所のタイミングをはかり、決断する上で重要な要素となります。
入所後も家族にとっての介護は続く――親の施設入所への心の葛藤を乗り越える――
親の中には、これからも家で暮らしたいと考えている方や、施設での生活を不安に感じている方もいらっしゃると思います。同時に、親を施設に入れることに負い目を感じるという介護者の声を耳にすることもあります。
ここでは、施設入所の際に生じる精神的な悩みへの対処方法を考えていきます。
親の精神的負担を軽くする
施設へ入所することに抵抗を感じている親には、「医療・介護が充実していて安全に生活できる」「快適に暮らせる設備がある」「同世代の交流の場がある」などのメリットを丁寧に説明します。
まずは、「施設の見学をする」「ショートステイなど短期間の入所を体験する」「一日中ではなく、夜だけ入所型施設で生活し、寝泊まりを経験する」など、少しずつ行動することをおすすめします。施設の様子を知り、ご自身が安心して生活できるかを確かめることができ、気持ちに折り合いをつけながら、入所へと移行することができます。ケアマネージャーや訪問介護のスタッフなどの専門家の説得も役立つでしょう。
そして施設入所後も、「体調を崩した際にはすぐに駆けつける」「定期的に親と面会し、つながりを保つ」など、家族にとっての介護は続きます。面会の際に、「体調を把握する」「快適に生活できているかどうかに気を配る」などすることが、親の精神的安定につながります。また、家族会への参加や、施設の職員との良好な関係性を築くことを通して、親が安心して過ごせるようサポートしていきましょう。
施設入所により、ご家族の介護の負担が減ることで、体や心に余裕が生まれ、親にさらに思いやりを持って接することができるようになったという方もいます。離れて暮らしていても、家族であり、親のことを考えていると伝わる関係性が維持できるといいですね。
介護者の精神的な負担に対処するには?
専門家や介護の経験者などによるサポートを活用すると、解決の糸口が見えてくることがあります。
「わたしの看護師さん」代表の神⼾ 貴子も、かつて「介護は家族が行うもの」という思いに苦しみながら介護を続けた経験を持ち、現在は「だれも犠牲になることのない介護」を目指し、ご家族のサポートを行っています。
※詳しくは下記の記事をご覧ください
「専門家だって、親の介護は難しい!無理をしない親の介護を考える」
また、「よだか診療所」の医師の前角 衣美さんは、「介護者が、たった一人で全ての介護をしないといけないわけではない。私たちもあなた達を支えていくと伝えたい」と話し、介護者が気楽に相談できる場の提供を試みています。
※前角 衣美さんと、神戸 貴子の対談記事は下記をご覧ください。
「安心して最後を迎えたい。家族や地域の介護力をあげるために、私たちにできること」
このように、介護者の心のケアをサポートをしてくれる人や、場所も増えてきています。親の施設への入所が必要なタイミングが来たら、家族だけで乗り切ろうとするのではなく、ケアマネージャーや訪問介護スタッフなど周りの専門家のサポートに頼ってみてください。介護される親も、ご家族も納得できる施設入所のあり方を探っていきましょう。
介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。
「介護に関するお役立ち情報」を随時更新しています。ぜひ介護のお困りごとの参考にご覧ください。