【胃ろう×在宅介護】――「胃ろう」造設後も在宅介護を続けるために大切なこと――

高齢の親の介護での悩みに「食事」をあげる方も多いのではないでしょうか?在宅介護では、栄養バランスや、咀嚼のしやすさ、ご本人の食の好みなど、毎食ごとに考えながら食事を用意しなければいけません。そして、体力や体の機能の低下によって口からの食事の摂取が難しくなったとき、どのように介護していけばいいのかと不安を抱えているご家族もいらっしゃるかもしれません。

口から栄養を摂れない場合に検討されることの一つが、「胃ろう」の造設です。「胃ろう」という言葉を耳にしたことがあっても、どのようなもので、どのようなケアが必要なのかはイメージが湧きにくいものです。今回は胃ろうの基礎知識と、「胃ろう」手術後の在宅介護についてご説明し、実際に「胃ろう」造設後、在宅介護を行ったご家族の体験談をご紹介します。

「胃ろう」の基礎知識と特徴

「胃ろう」とは、人工的に作った栄養をとるための経路の一つです。老化や、脳卒中・認知症などの病気のために口から食事ができなくなった時、胃に通じる小さな穴をおなかに開ける手術を行うことがあります。この手術によって作った穴を「胃ろう」と呼びます。

「胃ろう」にカテーテル(管)を通して栄養を胃まで送り込みます。「胃ろう」の特徴を4つご説明します。

1.免疫機能を保つことができる

点滴で栄養をからだに入れる手段と比べ、「胃ろう」は胃や腸の働きをうながすため、体の持つ働きを活かすことができ、免疫力が保たれます。

2.安全に栄養補給ができる

嚥下障害があると、口に入れた食べ物が肺に入り誤嚥性肺炎を起こしてしまうことも考えられます。「胃ろう」は脳卒中や脳出血などにより嚥下障害を発症した場合でも、栄養を安全に摂取できる手段の一つです。

3.手術後も、基本的な生活習慣を変える必要がない

「胃ろう」を造設しても、入浴したり、リハビリや軽い運動、外出をしたりすることもできます。

4.からだの状態が回復すれば、口からの食事も可能

リハビリによって嚥下障害に改善が見られた際には、口からの食事と「胃ろう」を併用することができます。また状態によっては、口からの食事に戻すこともできます。

「胃ろう」において気をつけること

次に「胃ろう」を検討する際や、造設後の日々の生活で気にかけておくポイントについて触れておきます。

1.手術のリスクを理解する

「胃ろう」は手術を必要とするため、医師とよく相談し、予後も含めてリスクを考慮することが不可欠です。

2.日常のケアに気を配る

食事前後には「胃ろう」のまわりのスキンケアに気を配ったり、カテーテルを清潔に保ったりすることが大切です。

3.「胃ろう」への栄養剤の注入は医療行為

在宅介護では「胃ろう」への栄養剤の注入をご家族が行うことができます。ただし医療行為であることから福祉施設においては、医師・看護師以外が行うことはできません。そのためショートステイなどで福祉施設を利用する際は、医師や看護師の勤務体制を確認するなど、施設の担当者やケアマネージャーと相談しておくことが重要になります。

4.カテーテル交換のために通院が必要

古いカテーテルから新しいカテーテルに入れ替えるために、どの医療機関でいつ交換するのかあらかじめ計画を立てておきます。カテーテルの種類によって1〜2か月に一度、もしくは4〜5か月に一度の交換が必要です。

「胃ろう」と在宅看護を考える

ここからは当事者の方の声から「胃ろう」と在宅介護について考えてみます。「胃ろう」を造設した高齢のお母さんを、在宅で介護したTさんにお話をおうかがいしました。Tさんはケアマネージャーとして、在宅介護をするご家庭の支援を行った経験もお持ちです。

Tさん_食事でむせたり誤嚥してしまったりすることがあり、病院を受診しました。食べられるようにリハビリを計画していたのですが、思うように回復せず医師のすすめで「胃ろう」の手術を行いました。

―在宅介護をする際に気を付けていたことは何ですか?

Tさん_1日に3回、栄養剤を毎回30分ほどかけて注入していました。注入する際に逆流が起きないように、体の向きや角度に気を付けていました。床ずれができないように気を配ることや、「胃ろう」まわりの皮膚のケアも重要なポイントですね。

そして本人の「食べたい」という気持ちを叶えたかったので、医師に相談したうえで、口から摂れるやわらかいものを少し食べられるように介助することもありました。ケアマネージャーとして関わったご家庭の中には、口に入れるとすぐに溶けるアイスクリームなどを食べさせる方もいらっしゃいました。

―「胃ろう」や食事の介護について不安を感じている方に、アドバイスはありますか?

Tさん_認知症などで本人の判断力が低下した状態だと、医師と家族との話し合いで「胃ろう」を造設すると決めることがあります。でも家族としては、本人の思いが分からないのでジレンマを感じてしまいますよね。本人の意思を尊重するためにも、食べられなくなった時にどうするか事前に家族で相談しておくことが大切だと思います。

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ケアマネージャーとしてさまざまな豊富な経験を持つTさん。専門家であるTさんであっても、悩んだり試行錯誤したりを繰り返し、お母さんの体のケアはもちろん、心のケアをすることも大事にしながら介護をされた様子が伝わってきました。Tさん、貴重なお話をありがとうございました。

「胃ろう」造設後に大切なこと――「食べたいという思い」を叶えるために

誤嚥を起しやすくなると、栄養が摂りにくくなるため体が弱ってしまいます。また、ご本人のペースに合わせて、食べ物を咀嚼し飲み込めるよう食事介助に時間をかける必要があり、ご家族の負担が増大してしまいます。

そこで「胃ろう」が選択肢として検討されるのですが、「胃ろう」で栄養を摂るようになっても、ご家族の「口から食べさせてあげたい」という気持ちや、ご本人の「食の楽しみを感じたい」という思いは大切なものです。リハビリやケアによって口からの食事を目指すことも忘れてはいけません。

「胃ろう」によって栄養をきちんと摂ることができていれば、体も回復しやすくなり、その上で口から食べられるものを少量でも試すといった方法を考えることができます。ご本人やご家族の思いを大切にしながら、「胃ろう」を栄養補給するための手段として上手に活用することが、在宅介護に必要なことなのではないでしょうか。

食事についてもご家族だけで悩みを抱えず、医師やケアマネージャー、訪問看護スタッフなどの専門家に相談すると解決策が見つかることがあります。介護保険サービスの有効な活用や、遠隔介護などご家庭の環境によっては介護保険外サービスを組み合わせることで、ご本人・ご家族の納得のいく介護を行っていきましょう。

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