親が認知症と診断され、症状が進行していくと日常生活が心配になり、介護保険を利用し外部サポートによるサービスを検討されると思います。
しかし認知症の場合だと、利用者さん自身が「認知症である」ということを自覚していないことや、認知機能障害の影響で介護の必要性が理解できないという理由で、ヘルパーやケアマネージャーなどの外部サポートを含めた介護を拒否するケースは珍しくありません。
「認知症の親の気持ちを尊重したいけれど、適切な介護で安全な日常生活を送って欲しい」という気持ちで悩まれる方も多いのではないでしょうか。
本記事では、介護拒否への対応と、デイサービスやヘルパーなどの外部サポートを上手く取り入れるコツをご紹介します。
認知症と介護拒否
「認知症」とは、後天的な脳の病気や障害など様々な原因により、脳の神経細胞の働きが徐々に低下し、日常生活に支障をきたす状態をいいます。
認知症の中でも種類や原因が複数あり「アルツハイマー型認知症」を筆頭に「脳血管性認知症」「レビー小体型認知症」「前頭側頭型認知症」の4種類が代表的です。認知症はこれらの種類を問わず、年齢を重ねるほど発症のリスクが高まると言われています。
認知症の症状で有名なのは「物忘れ」ですが、加齢による物忘れとは少し異なります。
—例えば、スポーツ観戦に行った場合
加齢による物忘れ:試合内容は忘れてしまったが、スポーツ観戦に行ったことは忘れていない
認知症による物忘れ:スポーツ観戦に行ったこと自体を忘れてしまう
このように、出来事の一部ではなく全てを忘れてしまうのが特徴です。
認知症の主な症状は大きく2つに分けられます。
【認知機能障害】
・記憶障害
・時間や場所などが分からない見当識障害
・判断力や理解力の低下
・料理や後片付けができない実行能力の低下
【行動心理症状】
・暴言や暴力
・物を取られてしまうなどの妄想
・排泄トラブル
・昼夜逆転
・徘徊
また、認知症が進行するとあらわれる症状のひとつに「介護拒否」もあります。
介護拒否とは、その名の通り被介護者が介護を拒否することで、
・食事拒否
・入浴拒否
・トイレ拒否
・着替え拒否
・外出拒否
などの日常的なお世話の拒否に加え、薬を吐き出す、診察やリハビリなどの外部サポートを拒むなど、病気の治療に関わることも拒否することがあります。そのため、介護拒否に悩まれる家族の方も多く、介護拒否には対策が必要となります。
なぜ介護を拒否するのか、気持ちと理由を考える
介護拒否の理由や原因は人により様々ですが、考えられる原因を大きく4つに分けてご紹介します。
①恐怖心
認知機能の低下により、何をされるか分からないという気持ちが生まれます。何をされるか理解できていない状況で、入浴や着替えなどを介助すると恐怖心で思わず拒否してしまうこともあるでしょう。
②自尊心があり、自分で行いたい
年齢を重ねても「自分のことは自分でしたい」「誰かにお世話されたくない」と考えている方も少なくありません。また、入浴や排泄の介助には羞恥心もあります。必要性は分かっていても内心では嫌だと感じ、我慢しながら介護を受けている方もいるでしょう。この我慢ができなくなると拒否に繋がります。
③これまでの生活習慣と異なる
長年生きていると「食事の前にお風呂に入る」「食事は野菜から食べる」など、小さなことでも生活の中でのこだわりがでてきますよね。認知症になるとこだわりが強くなる方も多く「生活習慣を守りたい」という強い気持ちから拒否が生まれてしまいます。
④疲労
認知症の方は脳が疲れやすいともいわれています。そのため、いつもより疲れている場合もあるでしょう。特に入浴介助は年齢を重ねると、身体的にも負担が大きくなるといわれています。実は体調が悪かったというケースも考えられるので、いつもと違う様子ではないか確認しましょう。

その他、認知症を診断されて間もない方の場合、そもそも自分が認知症だと認めることができず、これから始まる介護自体を受け入れることができないケースも珍しくありません。
本人が認知症だと認めていなくても、治療やリハビリ、デイサービスの利用は可能です。そのため、診断されたからといってすぐに受け入れることや、無理に認めさせることはしなくても良いでしょう。
認知症の方が、安心して穏やかに生活を送ることを第一に考え、言葉かけや環境設定を工夫することから始めていくことが重要です。
また、認知症が進行している方の場合は認知機能障害の影響で理解力も低下しています。そのため「なぜ介護が必要なのか」ということが理解できず様々な介護を拒んでしまいます。
例えば「お風呂に入ると清潔になり気持ち良い」ということを忘れてしまっていると、服を脱がされるということに恐怖を感じることに加え、自分の身体を見られることに強く抵抗し、入浴拒否をするなど、様々な介護拒否に繋がります。
このように、理由もなく介護を拒否しているのではなく、認知症の方にも介護拒否をしてしまう理由があるということを忘れないようにしましょう。
介護拒否されたときの対応
介護を拒否されてしまうと、家族の方も焦ってしまったり、腹が立ってしまうこともあるでしょう。しかし、どの介護拒否であっても無理強いをするのは禁物です。介護を強要すると、認知症の方は介護に対してネガティブなイメージを持ってしまい、逆効果になる可能性が高く、家族の方も疲弊してしまいます。
実際に介護拒否をされたときの接し方のポイントを3つご紹介します。
①目線に気を付ける
認知症の方に接するときは、目線の高さは同じ、もしくは下から合わせることを徹底しましょう。忙しくしていると、つい立ったまま声がけをしてしまう場合もありますが、実は目線の位置はとても重要です。
②態度を振り返る
拒否をしている人に、強気な態度で対応しても拒否が強くなる可能性があります。相手によっては、強気な態度で対応して動いてくれる人もいるかもしれませんが、信頼関係を壊さないためにも笑顔で優しく対応することを心がけましょう。
③ボディタッチを取り入れる
言葉以外のコミュニケーションとして、上手にボディタッチをすることで安心を提供することができます。優しく触れられることで「オキシトシン」という心身をリラックスさせる脳内物質が分泌されるというデータもあります。しかし、人によっては触られることに抵抗感を持つ場合もあるので、様子を見つつ取り入れるようにしましょう。もちろんいきなり強く触れるなどは厳禁です。一般的には「優しく手を握る」などがおすすめです。
続いて、具体的な声がけ方法のポイントを3つご紹介します。
①指示ではなく提案
「ご飯を食べよう」「薬を飲もう」でなく、「ご飯食べようか?」「薬を飲もうか?」など、提案型の言葉かけにすると柔らかい印象になり、拒否感を和らげることができます。伝えたい用件の最後に「~か?」とつけると自然と柔らかい印象になるのでおすすめです。
②はじめにしてほしい動きを具体的に言葉にする
例えばご飯を食べて欲しいときに「ご飯を食べて」ではなく「お箸を持って、口へ運ぼうか」など、動きを言葉にすると認知症の方が自分に求められている動きが分かりやすくなります。
③本人にとって嬉しい情報を伝える
食事拒否をしている場合は「今日は好きな具材のお味噌汁があるよ」など好きなメニューを具体的に伝えるのも良いでしょう。入浴拒否の場合は「1番風呂だよ」「今日の入浴剤は身体を温めてくれて腰の痛みが和らぐよ」などお風呂に入るのが楽しみになる伝え方もおすすめです。
外部サポートを得やすくなる準備や対応
介護拒否への対応も含め、認知症が進行していくと家族のサポートだけでは精神的な負担がかかってしまいます。そのため、デイサービスやヘルパーなどの外部サポートを利用することを考える方も多いと思いますが、認知症の方が外部サポートを拒否してしまうことも珍しくありません。
外部サポートを拒否する場合は、ヘルパーやケアマネージャーに認知症の方の状況を伝え、一緒に介護プランを考えてもらいましょう。焦らずに自宅にきてもらい、少しずつ信頼関係を築くことが大切です。
また、認知症の方はデイサービスやヘルパーでどのようなことをする(される)のか分からないという恐怖心から拒否をしている方もいます。
まずは、本人の気持ちを聞き、願いや要望があればしっかりと話を聞きましょう。
例えば「健康に生活を送りたい」ということであれば「デイサービスやヘルパーを利用することで、清潔や安全が保障され、通常よりも健康的な生活を送ることができる」など、健康状態が維持できるというメリットを分かりやすく伝えるのもいいかもしれません。
認知症の方にも、しっかりと筋道を立てて説明すると外部サポートの必要性を理解してもらうことができます。また、説明は口頭だけではなく、紙に図を書くと理解してもらいやすいのでおすすめです。
特に自分で選んでもらうとより納得して外部サポートを受け入れてもらえる可能性が上がるでしょう。
デイサービスやリハビリなどの外部への通所は最初の一歩が難関と言われていますが、一度通い始めるとスムーズに通うことができるケースが多いようです。
また、それまで外部サポートを受けることができていたのに突然拒否が始まった場合は、何かトラブルがあったのかもしれません。その場合は両者の話をしっかりと聞き、解決に努めましょう。
認知症と診断されると病気の影響で今までとは違う一面が出てきてしまい、強い拒否をする様子に家族の方が戸惑ってしまうのは当然のことです。そのような場合でも拒否には理由があるということを忘れず、気持ちに寄り添った介護をすることが鍵となります。
認知症と介護拒否についてご説明しましたが、拒否への対応方法や外部サポートを取り入れる準備については、認知症以外の方の介護拒否にもご活用いただけると思います。
特に外部サポートを活用することで、家族の方の負担はかなり軽減されます。外部サポートを含めた介護拒否に悩まれた際には今回の対応方法を思い出していただけると幸いです。
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