地震や水害などで自宅が被害にあった場合、私たちは避難所で生活を送らなければなりません。特に高齢の親にとっては、慣れない場所での生活は心身の負担が大きくなります。
災害が直接の原因ではなく、災害によるケガの悪化やその後の避難所生活による健康への負担で亡くなる「災害関連死」は、大半が65歳以上の高齢者であると言われています。では、高齢の親をどのようにして災害関連死から守ればよいのでしょうか。
また、遠距離介護中の家族に災害が起こったとき、「高齢の親が、一人で避難することができるの?」と不安に感じたり、車椅子や寝たきりで避難することが難しい場合「何かサポートを受けることはできる?」ともしものときの情報が知りたい方もおられるでしょう。
そこで今回は、高齢の親が避難所生活を送る際に気を付けることを、3つのポイントに絞って解説していきます。また、特別な配慮が必要な方が利用できる避難所や、サポートについてもご紹介します。いつ起こるか分からない災害に、今から備えていきましょう。
避難所生活で気を付ける3つのポイント
まず、高齢の親が避難所生活を送るうえで気を付けることを、「食事」「健康管理」「環境・設備」の3つのポイントに分けて説明します。
1.食事で気をつけること
・誤嚥性肺炎を防ぐ
避難所では、普段とは違う食事をとることになります。飲み込む力(嚥下機能)が衰えている人は、誤嚥性肺炎を引き起こす恐れがあります。そのため配給される食べ物は、食べやすさや柔らかさを意識してアレンジしましょう。例えば、弁当のおかずは細かく刻む、袋に入れてつぶすなどして、誤嚥を防ぐことが大切です。
2.健康管理で気をつけること
・いつも服用している薬がなくなったときの対処法
高齢の方は、例えば、高血圧や糖尿病などの何らかの疾患のために、薬を服用しているケースが多くあります。避難所生活が長期化すると、薬がなくなることが想定されます。薬がなくなった場合は、医療スタッフに申し出て処方を受けるようにしましょう。その際に、おくすり手帳を提示するとスムーズに薬を受け取ることができます。
・エコノミークラス症候群を予防する
避難所生活では、同じ場所に同じ姿勢で長時間いる場合があります。十分に水分を摂取せずに座り続けていると、下肢が圧迫されて血行不良が起こり、血液の固まり(血栓)ができます。血栓は、立ち上がったときに血液の中を流れて肺動脈に詰まり、呼吸困難で死に至る場合もあります。
エコノミー症候群を予防するためにも、こまめに水分を摂取し、なるべく身体を動かすようにしましょう。座ったままでも、かかとの上げ下ろしをしたり、ふくらはぎを軽くもんだりすると効果的です。
3.避難所の環境・設備で気をつけること
・感染症の流行(コロナウイルス感染症・感染性胃腸炎・食中毒など)に注意する
密集した環境と、断水などによる衛生状態の悪化で、感染症が発生しやすくなります。高齢者は避難所生活で体力、抵抗力が低下している場合が多いため、感染すると重症化のリスクが高まります。
それらの感染を予防するためには、定期的に手洗い、うがいを行いましょう。避難所内ではマスクを着用し、トイレのあと、食事の前には必ず手洗いをしてください。手洗いができない場合は、消毒液で手指の消毒を行います。また、袋入りの食べ物は、袋のまま食べるようにし、消費期限が過ぎた食品は食べないように気を付けてください。
・利用できるトイレを確認する
避難所ではトイレの数が不足し、断水で不衛生になる場合が多くあります。そのためトイレを我慢する人が増え、体調悪化の原因となります。
高齢者の場合は、トイレに対する不安を減らすためにも、避難所内のなるべくトイレに近い場所を確保し、過ごすようにしましょう。避難所のトイレの使用が困難な場合は、避難所の保健師などに福祉避難所の利用ができるか相談する、または災害に備えてお住まいの自治体に福祉避難所の利用について相談しておくことをおすすめします。
高齢者の避難所体験談
ここでは、高齢者が実際に避難所生活を経験して、どのようなことに困ったのか、4つの事例に分けて紹介します。
1.環境の問題
「寒さやプライバシーの確保に苦労した」
避難所には、多くの人が押し寄せていて、身動きができずに雑魚寝生活を送りました。他者との仕切りがないため、プライバシーの確保ができず、着替えにも苦労しました。
また、氷点下まで冷え込む日には、暖房器具があっても防寒着を着て寒さをしのぐことも。寝具が足りず、段ボールやカーテンを寝具の代わりにしている人もいました。
2.衛生面の問題
「トイレやお風呂に困難を感じた」
避難所ではトイレが不足し、段ボールやバケツで作った簡易トイレを使用することに。また、断水によってトイレが詰まり、不衛生な状態が続きました。
周りの高齢者の中には、トイレを使用するときに人の手を借りなければならないため、避難所を出る方もいました。また下着の替えがなく、何日も同じ紙おむつを着用する方もあったようです。簡易風呂が用意されていましたが、身体的に障害のある方は入浴できない状態でした。
3.食事の問題
「単調な食事に耐えるしかなかった」
避難所での生活が始まって食料が届くまでに3日かかり、着の身着のまま避難したのでじっと耐えるしかありませんでした。その間は、わずかな食料を分け合いながら、生き延びるためにおにぎりや菓子パンなどの単調な食事を食べ続けました。
4.心身のケアの問題
「体の不調やストレスを感じた」
慣れない食事で胃腸の調子を悪くしたり、環境の変化で十分に睡眠がとれなくなったりしました。また倒壊した家に補聴器を置き忘れたため、相手の声が聞こえにくく、大きな声で話してもらうことや周りに迷惑をかけてないか気にしながら会話することにストレスを感じました。
災害は、被災者から家や土地を奪い、喪失感をもたらします。さらに、長引く避難生活のストレスと、今後の生活への不安から、食欲不振や不眠、持病の悪化など心身の不調が起こりやすくなります。高齢になると環境の変化に対応しにくく、より大きな負担を感じる方も多くおられるでしょう。孤立しないように周りの方がサポートし、高齢者が一人で抱えこまない環境を作ることが大切です。
特別な配慮が必要な高齢者は、「福祉避難所」へ
みなさんは、福祉避難所をご存知でしょうか。福祉避難所は、特別な配慮が必要で一般の避難所では生活が困難な方を受け入れる避難所です。ここでは、福祉避難所の利用対象者と利用する手順を説明します。
福祉避難所とは
福祉避難所に指定されている場所は、各市町村とあらかじめ協定を締結している高齢者福祉施設や障害者福祉施設などの施設です。バリアフリーの施設や、支援者を確保しやすい施設が重点的に選定されており、災害発生時に各市町村が施設に受け入れを要請し開設されます。どの施設が選定されているかは、各市町村のホームページから確認することができます。
利用対象者は
避難所での生活で特別な配慮が必要であるが、身体等の状況が特別養護老人ホーム又は老人短期入所施設等へ入所するには至らない程度の方とその家族が対象です。
利用するまでの流れ
1.事前に各市町村に確認をする
令和3年5月に「福祉避難所の確保・運営ガイドライン(内閣府)」が改定され、あらかじめ福祉避難所ごとに受け入れ対象者の調整等を行い、福祉避難所へ直接避難できるように各市町村に求めています。しかし、人数の把握や調整に時間がかかるため、直接の避難ができない市町村が多くあります。お住まいの市町村の避難方法はどうなっているのかを、事前に確認しておくことが大切です。
2.直接避難ができない場合は、まずは一次避難所に避難する
直接避難ができない場合は、従来どおり一次避難所に避難しましょう。福祉避難所の受け入れ態勢が整った後、「保健師の健康調査等」などにより、順次対象者の受け入れを行っていきます。
遠距離介護中の方へ 離れて暮らす親の避難をサポートするには
みなさんの中には、遠距離介護をされている方も多くいらっしゃると思います。いざ災害が起きた時に、離れて暮らす親や一人暮らしの親がサポートを受けられるように、あらかじめ準備をしておきましょう。
1.避難行動要支援者名簿に登録する
避難行動要支援者名簿に登録することで、 自主避難が困難な高齢者や障害者等は避難をサポートしてもらえます。避難行動要支援者の対象については、市町村によって異なりますので、お住まいの市町村にご確認ください。
2.地域包括支援センターに相談する
各市町村に設置されており、介護や福祉などの相談が無料で行えます。65歳以上の高齢者の方と介護に携わっている方が利用できます。専門スタッフが必要なサービスを紹介して、適切な介護事業者や医療機関、行政機関などへの調整や橋渡しを行います。
3.近隣の方、地域とつながる
住民同士の交流が多い市町村では、災害時に死者が少なかったという事例が報告されています。このことからも、周りの方からのサポートを受けられるように、日頃から地域とのつながりをもっておくことが大切です。
私の父は82歳、母は72歳を迎えました。私の自宅から車で10分のところで、二人暮らしをしています。近年、災害が多く発生していることを受け、実家では避難バッグなどの備えの見直しを行っています。同時に、高齢者が避難所生活で直面する問題に対処するために、避難所生活に対する備えも必要であると改めて感じています。
みなさんもまずは、災害発生時にどのように避難するのか、配慮が必要な場合は福祉避難所に直接避難できるかなどを各市町村に確認しましょう。また、遠距離介護中の方は、親の住んでいる市町村に相談して、サポートが受けられるように準備しておく必要があります。高齢の親を災害関連死から守るためにも、災害を他人事ではなく自分事として受け止めて、今日から行動を始めましょう。
介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
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