嫁という立場から、義理の家族の介護はどこまでやるべき?〜事例から見えてくる介護負担の実態と解決策とは〜

もし夫の親に介護が必要になった場合、その介護はだれがメインで行うのでしょうか。

「介護は女性がやるもの」という考えは現代でもまだ残っており「介護、お願いね。」と夫の親や親族に言われた、という女性も多くいます。
しかし、介護はだれが行うのか性別によって決まるものではありません。

介護を必要とする程度や、家族の事情は個別に異なりますが、女性だけに介護を求めることがないよう家族の中での話し合いや協力がとても重要です。

今回は義理の親の介護について、「嫁」という立場でどこまで受け入れるのか、夫や親族、外部サービスとどのように連携を取っていくのかご紹介します。

義理の家族の介護事例を紹介します

夫の叔父・叔母の介護を全面的に引き受けていたKさんの事例をご紹介します。

当時、まだ幼い子どもの育児をするために仕事をせず、専業主婦だったKさん。
親族から「専業主婦だから一番時間に余裕があるのでは?」と思われていたため、育児に加えて義理の叔父・叔母の介護も担うことになりました。

義理の両親は県外在住、夫も仕事が忙しく介護をする余裕はありませんでした。そのため、親族だけでなく、Kさん自身も自分が介護を担うのが当たり前だと感じていました。

育児と介護のダブルケアの日々は慌ただしく過ぎていき、子どもに少し手がかからなくなってきた頃、Kさんは仕事復帰を考えます。しかし、育児と介護があるため、選択肢は短時間のパート勤務のみでした。
Kさんはパートの仕事を始めて外に出る時間が増えたので、必然的に介護の負担は減るかと思いましたが、実際は育児と介護、そして新たに仕事も加わり、Kさんの負担は以前に比べて増える一方。
負担が増えても、夫や義理の両親を頼ることはできず、疲れはどんどん蓄積していきました。

介護をするなかで最も負担だったことが、介護保険が適用されない、病院受診時の付き添いや救急車の同伴、入退院のお世話など。
施設に入居してからも、ひっきりなしに施設のスタッフから電話がかかってきます。しかし、電話の内容は緊急性の高くない「おむつが足りません」「洗濯物が溜まっています」という内容の電話も少なくありませんでした。あまりに疲れが蓄積していると、思わず居留守をしてしまいたい……と考えてしまうほどでしたが、緊急の電話かもしれないと思うと無視することはできませんでした。

このように、育児のために仕事をセーブして時間を確保している場合でも、「時間に余裕がある」と思われて、介護の役割を担わざるを得ない場合もあります。
また、本当はしっかりと働きたくても、介護があるためにフルタイム勤務ができないという可能性も。

周りに介護ができる家族がいないから、1人で全て引き受けるのではなく、介護負担が集中しない解決策を、親族みんなで考えていく必要があるでしょう。

なぜ嫁に介護の負担が集中してしまうのか

女性に介護の負担が集中してしまう理由は、日本の文化的な価値観が大きく関連しています。

江戸時代より、男性は主に農業や商業などで生計を立て、女性は家庭内で求められる仕事に従事して、家族の生活を支えることが求められてきました。明治、昭和時代と文化は受け継がれ、現代になってもその価値観が根強く残っていると考えられます。

また、日本の家族制度では、長男が家を継ぐことが一般的とされてきました。家を継いだ長男とその妻が一家の中心となってきたため、長男と婚姻関係を結んだ女性には特に家の責任や義務として家事や育児、そして介護が課せられてきました。

しかし、これまで形成されてきた文化的価値観や社会慣行が、全ての家庭に当てはまるわけではありません。そして近年では、女性の社会進出、男女平等やジェンダーの役割分担に変化が生じ、介護においても性別を問わず、公平に分担する世の中へと変わりつつあります。

家族の中には文化的な価値観を大切にする方もいるかもしれませんが、家族内で話し合い、時代の変化に応じて介護に対する考えも変化させていくことがとても大切です。

そもそも介護を行う義務はだれにある?

「長男の嫁なら介護をするのが当然」「義理の親の介護は嫁の仕事」

地方では、核家族ではなく3世代で暮らす家庭が多いこともあり、現代でもこのような考えが残っている傾向があります。
では実際のところ、義理の親に介護が必要となった場合、介護を担う責任は誰にあるのでしょうか?

法律の定義を見てみると「介護の義務」という言葉は明記されておらず、「扶助」「扶養」という言葉を用いて互いに助け合い、協力し合うことが定められています。また、民法上では「実子が扶養の義務を負う」とされているので、義理の親の実子が介護の責任を負うということになります。
つまり、「嫁」である女性に介護の責任が多く求められる、ということはありません。

続いて、統計データをもとに実際の介護者の割合を見てみましょう。
厚生労働省の調査によると、「同居」している家族が介護を行う場合が全体の46%で、そのうち「配偶者」が23%、次いで「子」が16%、そして「子の配偶者」が5%となっています。
「同居」の主な介護者を性別にみると、男性が31%、女性が69%と女性が多い割合になっています。

参考:厚生労働省|令和4年国民生活基礎調査の概況 介護の状況 (https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf

以上の結果から、同居している家族が介護を担当している割合が全体の46%を占め、約半数が家族内で介護を行っているということが読み取れます。そして女性の家族内での介護負担の割合が高いことから、法律上では介護の義務は無くても、実際は同居している「嫁」の立場である女性は、介護を求められる傾向が高いことが分かります。

介護義務が無いとはいえ、家族内での人間関係も大きく関係します。義理の親が元気だったころ、関係が良好で、例えば孫の世話や金銭的支援などをしてもらい感謝の気持ちを持っていると、自ら進んで介護を引き受けるということもあるかもしれません。

感謝の気持ちを持って介護を行うのはとても素敵なことです。しかし、大事なのは介護を行っていて感じる負担感です。自分自身が「しんどい」「つらい」「なんでわたしだけ?」と感じていないか、心の声も聞いてあげてくださいね。

介護の負担が大きい場合は周りや専門家を頼って

義理の親の介護をしていて、すでに強い精神的、身体的負担を感じている方は、自分自身の負担を減らすことを最優先してください。

まずは、周囲に悩みや負担に感じていることを共有しサポートを求めましょう。相談しづらいことかもしれませんが、家族や友人に相談し話を聞いてもらうことで、解決の糸口が見つかるかもしれません。また、感情やプレッシャーを共有することで、心のケアも行えます。
周囲に相談しても解決しない場合は、専門家のアドバイスやサービスを活用することが有効です。各地域に福祉事務所や介護支援センターなど、介護に関する情報や支援を提供している機関があります。

精神的な悩みや負担には、適切なカウンセリングやグループセラピーに参加することも有効でしょう。自分の健康や精神的な面を軽視してしまうと、介護によるストレスが蓄積し、疲れ果ててしまう可能性も。適切な支援機関で悩みを相談する、定期的な休息やリラックスする時間を作るなど、精神的負担を軽減する時間を作るようにすることも大切です。

身体的な悩みや負担には、専門的な支援や介護サービス等のサービスを利用していきましょう。
介護保険サービスを利用し、ケアマネージャーに相談すれば、支給限度額を考えながらケアプランを作ってもらえます。介護を自身が担当する部分、プロに任せる部分をはっきり決めることで介護の負担が軽減できるかもしれません。
また、介護保険サービスで補えない、病院付き添いや家事のサポートなどの負担は、介護保険外サービスを導入することを考えても良いかもしれません。「わたしの看護師さん」でも、医療介護資格を保有しているスタッフが悩みを共有しながら介護保険では手の届かない隙間を保険外サービスで補っていくことができます。

義理の親の介護は、誰にとっても容易な仕事ではありません。しかし、義理の親にとって大きな支えになっていることは間違いありません。
自分自身の健康を守りながら、家族や外部サポートなど、周りに助けを求めてみんなで介護をしていきましょう。

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