高齢の親の財産を凍結から守る〜認知症が心配な親の預貯金を、適切に管理するには〜

親の入院や在宅介護、高齢者施設への入居など、介護が必要になると親の預貯金を活用できないと困る場面は多くあるのではないでしょうか。
しかし、親が認知症などで認知機能や判断能力が低下した場合、ATMの暗証番号を間違ってしまい生活費が出金できない、また銀行届出印がわからず介護サービスの利用料の引落手続きがスムーズに出来ず支払方法に困っているご相談をよく伺います。
また、判断能力が低下すると詐欺に騙されやすくなったり、日常のお金の管理が難しくなったりと、心配な場面が多くなります。
そういった事態を防ぐためにも、親の財産を適切に管理し、納得できる介護サービスを受けられるよう事前に準備しておくことが大切です。今回は、親の預貯金の管理や、凍結を防ぐために事前にできる準備についてご紹介します。

判断力が低下する前にできる対策

判断力が低下する前であれば、さまざまな財産の管理方法や資産の使い方を親子で検討することができます。在宅介護や高齢者施設への入居など、今後どのように生活していきたいのかを含めて、家族で話し合う機会を持ちましょう。

たとえ認知症と診断されていても、軽度な認知症で判断能力があると認められる場合は、金融機関によっては預金が凍結され使えなくなるということはありません。たとえば、定期貯金の解約や振込送金なども判断力があると認められると認知症ご本人でも手続きをすることが可能な場合もあります。

預貯金をまとめる

口座がたくさんあるといざというときに窓口での手続きに、時間や手間がかかります。
口座をまとめておくことで、銀行印等の管理や今後の手続きがシンプルになります。

「代理人カード」(「家族カード」)を作る

親自身のキャッシュカードとは別に、親族が使うキャッシュカードを作成することができます。

「代理人カード」(「家族カード」)のポイント

親の判断能力が低下したあとは、代理人カードでの取引を制限する金融機関もありますので、確認が必要です。

「任意後見制度(成年後見制度)」を利用する

参考:厚生労働省|成年後見制度(https://guardianship.mhlw.go.jp/

「成年後見制度」は、親が認知症などで判断能力が十分でなくなった後に、財産の管理や医療福祉などの契約や履行が適切に行われるよう、法的に保護し支援するための制度です。

「成年後見制度」は2つに分かれており、このうち「任意後見制度」では、親の判断能力があるうちに財産の管理や医療福祉などの契約行為をだれに任せるか、任意後見人の代理権の範囲について親の希望をもとに決定し、契約を結んでおくこと親の日常生活を維持し守ることができます。
任意後見受任者は、親の認知機能が低下し、家庭裁判所に任意後見監督人選任申立を行い、家庭裁判所が選任する任意後見監督人の監督のもと、財産の管理などを開始します。

「任意後見制度」のポイント

  1. 契約内容の自由度が高い
    親の希望にしたがって、契約内容,任意後見受任者や報酬を決めることが出来ます。
  2. 報酬が発生する
    任意後見監督人には、弁護士や司法書士が選任される場合が多く、家庭裁判所が定める報酬を支払う必要があります。
  3. 取消権がない
    親が高額商品などを契約してしまった場合に、取り消すことができません。

「家族信託」を利用する

財産の管理を家族に託す制度です。成年後見制度との大きな違いは、家族だけで柔軟な財産管理ができることです。

親の預貯金の中から、委託する額をあらかじめ子名義の信託口座へ移動し、子が「受託者」となることで自宅不動産の管理や売却、預貯金からの支払いや引き出しなどの金銭管理を代行できます。

家族信託を行うためには委託者の親と受託者の子で親の生活の安定や適切な福祉サービスを利用できるようにするなどの目的を定めた資産管理のための「信託契約書」を作成し、不動産の登記や専用の信託口座を作成することが必要です。難解な契約書のため専門家に依頼することが一般的です。

「家族信託」のポイント

  1. 柔軟な資産運用・節税対策
    一旦、信託契約を設定すれば、その後に親の意思能力・判断脳能力の喪失等の事情が生じても、当時の親の意思を維持・尊重した管理・処分が行えます。
  2. 信託した資産について、親は管理する権限を持たない
    「家族信託」が開始すると、委託した資産により利益を受けることはできても、親本人が直接管理することはできなくなるため、心理的抵抗を感じる方もいます。
  3. 監督機能の弱さ
    親が委託した資産を受託した子が管理するため手続きが煩雑になることもあり、監督機能がない場合、受託者である子が困ることがあります。単独での信託事務が行われることがないように監督機能を持たせることをお勧めします。
  4. 他の親族(特に推定相続人)が納得の出来る仕組み作りが必要
    委託者である親の逝去後、受託者である子と他の相続人との遺産相続争いを誘発する契約は、せっかく設定した信託契約も本末転倒です。家族でよく話し合いをし、納得した信託契約を設定することが理想です。

この他に、信託銀行の認知症サポート商品の活用も事前の準備として、有効な場合があります。

判断力が低下した後には…

「法定後見制度(成年後見制度)」を利用する

判断力が低下した後には「成年後見制度」のうち「法定後見制度」を利用することで、預貯金を管理できます。

家庭裁判所の監督のもと、財産を守ることや、介護サービスの手続きを行うこともできます。取消権があるため、本人が詐欺などの契約を結んでしまっても、取り消すことができます。

「法定後見制度」のポイント

  1. 成年後見(保佐、補助)人の決定に時間がかかる
    家庭裁判所に、さまざまな書類の作成・提出が必要です。また後見開始までに2〜3か月必要です。
  2. 親族が成年後見(保佐、補助)人になれないことも
    家庭裁判所が後見人を選任することになるため、親や家族の意志で決めることができません。親の財産額によれば専門家(弁護士、司法書士等)でないと選ばれないケースもあります。
  3. 報酬が発生する
    成年後見(保佐、補助)人に専門家などが選ばれた場合、報酬を支払う必要があります。
  4. 遺産分割や、資産処分が可能
    親が被相続人となる相続手続きについては制度利用によりスムーズな遺産分割を進めることが可能です。また、親の医療介護費用の捻出のための資産処分についても対応が可能です。

親の意思を尊重し、日常を維持する財産の管理方法を検討するために一番大事なことは、親の判断能力が低下する前に、家族で今後のライフプランについてよく話し合いをし、それぞれの家族に適した方法を選ぶことが大切です。
ただし、どの手続きも、法律の知識が必要になってくるため経験豊富な弁護士や司法書士などの法律の専門家や、役所の窓口に相談して、それぞれの家族にあった適切な制度を選ぶことが重要です。

また、親の日常に身近に関わっている看護や介護の専門家と、今後の生活のあり方を相談することも、それぞれの家族に適した財産の管理を考えるときに役立ちます。

どんな小さなことでも家族だけで抱え込まず、さまざまな専門家とチームを組んで取り組んでいきましょう。

監修者:稲岡 万貴子(いなおか まきこ)/司法書士法人ゆずりは後見センター

神戸の弁護士事務所にてパラリーガルとして勤務。2012年に司法書士法人ゆずりは後見センター(旧:司法書士法人おおさか法務事務所)に転職。現在、副所⾧として法人後見業務に従事。
福祉に携わる多職種向けの研修や、地域住民の方向けのセミナー講師を担当。専門用語をあまり使わない「お茶の間感」「親しみやすさ」が特徴。一方で認知症情報学会、日本相続学会の研究大会等、学術的な場でも登壇。
「認知症」当事者や「障害」のある方など生活上の課題を抱えるご本人、家族・関係者の不安や課題に対し、⾧年にわたる相談業務や後見業務で得た総合的な知見を活かしジェネラリストとして支援。

介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。

介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。

「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。

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