「高齢の親の財産をどのように管理するか?」誰もが、いつかは直面する問題です。
このような問題でいざというとき困らないように、事前に財産管理の方法を知り準備をしておきましょう。足腰が弱くなったり目が見えにくくなったりして、親が思うように動けない状態になった時にも、事前に知識を得ることで慌てずに済みます。
財産管理には、さまざまな方法がありますが、今回ご紹介するのは、財産管理等委任契約(任意代理契約)です。財産管理等委任契約とはどのような契約なのか、委託できる内容やメリット、デメリットをご紹介します。
さらに、認知症等で親の判断力が低下した場合に備えて、任意後見制度についてもご説明します。
財産管理等委任契約とは?
認知症などの判断能力の衰えはないが高齢や病気などの影響により心や身体の状況に不安がある場合に最低限の範囲で子などの指定した代理人に、財産管理と身上監護の手続きや事務を任せる契約です。
高齢になると体の状態によっては、外出ができず、銀行での年金の受け取りや、さまざまな手続きを、ご自身でできなくなることも考えられますよね。そんなときに、ご本人に代わって預貯金の引き出しや、事務手続きを代理人が行います。
代理人に委任する内容や委任する人を親本人が決めることができるため、親の希望を反映した契約を結ぶことができます。
財産管理等委任契約のメリット
いちばんのメリットは、親の判断力が低下していなくても、財産管理を代理人が行うことができることです。
財産管理の代表的なものとして任意後見制度があります。任意後見の契約は、ご本人の判断能力がある状態で行いますが、任意後見が開始されるのは判断力が低下した後です。
しかし、親が財産の管理に支障が出るのは、判断力が低下した後とは限りません。病気やケガ、心身の不調が増えてくると、財産の管理に関することを代理人に任せたい場合もありますよね。財産管理等委任契約を結ぶことで、親の生活を委任された子などの代理人が手助けすることができるのです。
財産管理等委任契約で、委任できる内容は?
代理人に委任するものの一例をご紹介します。必要な項目を、ご本人の状況に合わせて決めておきます。
・預貯金の保管や預け入れ、引き出し
・銀行口座の変更・解約
・保険の契約・解約
・生活に必要なもの購入
・福祉サービスの契約
・介護施設への入所、病院への入院の契約
・介護費用、入院費用の支払い
・公共料金の支払い
・行政手続き
委任する内容は、契約書に明示しておきます。確かな契約を結ぶことで、代理人が契約以外のことに財産を使うのを防ぎ、ご本人の意志を尊重できる効果があります。
ただし、あくまでご本人自ら行うべきことを一時的に代理をする契約であるため、任意後見契約との併用をおすすめします。
財産管理等委任契約のデメリット
1.監督者を定めていない場合、乱用されやすい
財産管理等委任契約では、監督者を定める必要がありません。そのため代理人を監督することができず、契約の範囲を超えて財産が乱用される恐れがあります。また、判断力が低下した後も、代理人が財産管理を続けて、財産を流用するケースも考えられます。
2.金融機関によっては手続きができないことがある
金融機関によっては、預貯金の取扱いが認められない場合があります。事前に、利用している金融機関に確認しておくことが必要です。
3.財産処分の制限
不動産などの売却については、本人確認および意思の確認が必要です。
4.取消権がない
任意代理人が本人の自己決定権への介入を避けるため、同意見・取消権が付与されていません。そのため、ご本人が誤って結んでしまった契約についても、任意代理人として取消すことができない点には注意が必要です。
財産管理等委任契約を結ぶときのポイント
1.代理人には信頼できる人を
財産管理等委任契約は、家庭裁判所の監督を受けず、代理人がどのように財産を管理しているか監督する人を定める必要もありません。契約の自由度が比較的高いので、親のために適切に財産を管理してくれる人を代理人に選ぶことが大切です。
2.公証役場で公正証書を作成しておく
私文書でも有効とされていますが、信頼性を高めるため公正証書の作成をおすすめします。公証人に作成してもらうことで、契約後のトラブルを防ぐことができます。
判断力が低下したら~財産管理等委任契約から、任意後見制度への移行~
元気なまま過ごしていけるといいのですが、高齢になると認知症やせん妄などが見られ、判断力が低下することがあります。そのような時は、任意後見制度で財産を管理するケースが多いと言えます。
判断力が低下するまでは、代理人が財産管理委任契約で財産を管理し、判断力低下後は任意後見制度を利用するという流れになります。
財産管理等委任契約をむすぶ際は、親の判断力が低下した場合にそなえて、任意後見制度の契約を同時に進めたり、契約の準備をすることを考えておきましょう。
任意後見制度では、判断力がある状態で、ご本人が後見人を選んだり、代理に行ってほしいことを選択したりして契約します。任意後見が始まると、後見人が、契約した内容に沿って財産を適切に管理しているかどうかについて、家庭裁判所や監督人のチェック機能が働きます。
また、複数の子どもが後見人となり、協力して親をサポートすることもできます。ご家族でよく相談しておくことがポイントです。ただし、その際にはその任意後見契約についての
実効性を専門家に相談することをお勧めします。
「もし認知症になったら?」と漠然とした不安を抱いている親にとって、あらかじめ希望する契約を結び、将来、信頼できる子などの後見人に財産を任せることができる状態にしておくことは、安心して生活するポイントになりそうですね。
参考:厚生労働省|任意後見制度
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介護をしていると、福祉制度や法律について分からないことが多く、悩むこともあるのではないでしょうか。
財産管理についても、家族だけで抱え込むことなく、地域の役所や社会福祉協議会に問い合わせたり、信頼できる弁護士や司法書士など法律の専門家に相談したりしてみてください。いくつかの契約を組み合わせて財産を管理するなど、解決の糸口が見えてくるかもしれません。
ご本人とよく話し合い、身体の状態や家族の形態に見合った、適切な財産管理方法を用いて、高齢の親の生活を支えていきましょう。
※財産管理の方法についてはこちらの記事もご覧ください。
監修者:稲岡 万貴子(いなおか まきこ)/司法書士法人ゆずりは後見センター
神戸の弁護士事務所にてパラリーガルとして勤務。2012年に司法書士法人ゆずりは後見センター(旧:司法書士法人おおさか法務事務所)に転職。現在、副所⾧として法人後見業務に従事。
福祉に携わる多職種向けの研修や、地域住民の方向けのセミナー講師を担当。専門用語をあまり使わない「お茶の間感」「親しみやすさ」が特徴。一方で認知症情報学会、日本相続学会の研究大会等、学術的な場でも登壇。
「認知症」当事者や「障害」のある方など生活上の課題を抱えるご本人、家族・関係者の不安や課題に対し、⾧年にわたる相談業務や後見業務で得た総合的な知見を活かしジェネラリストとして支援。
介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
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