突然のケガや病気は、だれの身にも起こり得ることです。そして「介護」もほとんどの場合、突然やってきます。分かってはいても、私たちはどこかで「自分だけは」「自分の家族だけは」と思い、「考えたくない」と後回しにしてしまいがちです。
今回は突然やってきた「介護」の実例をご紹介。老老介護の実態や家族の役割分担、介護保険制度、備えておきたいことなど、少しでも慌てないための大切な情報をお伝えできたらと思います。(この記事は、「わたしの看護師さん」運営スタッフが、その実体験を記事にしています)
「介護」は突然やってくる!
忘れもしない今年の3月30日。昼休み中の私のもとに1本の電話が……母からでした。
「お母さん骨折してしまってなあ、救急車で運ばれて今病院にいるわ。」
ただただ唖然とする私。母は、家で転倒し大腿骨を骨折、入院するとのことでした。
電話を切ってから、すぐにスマホで「大腿骨 骨折」で検索。出てくるのは、長期入院、歩けなくなる、寝たきり、車椅子などのワードでした。私は居ても立ってもいられなくなり、仕事を休んで病院へ向かいました。
病院に着くと、母はベッドの上でぐったりしていました。骨折箇所が痛いらしく全く動けない母。母の様子と看護師さんのお話から長期入院を覚悟しました。
その後、精密検査を行い、先生から家族に今後の治療計画、入院計画などのお話がありました。大腿骨骨折といっても、折れた箇所、折れ方により手術方法が異なります。母の場合は、大腿骨の接続部を取り除き、人工骨を入れる手術となりました。手術後はリハビリを行い、1ヶ月ほど経過を見て、入院が継続して必要な場合はリハビリ病院に転院、経過が順調なら家に帰ってリハビリ病院に通院になると言われました。また、最悪の場合、車椅子生活になるとの医師の宣告。父はショックで泣いていました。
すぐに兄弟3人で集まって家族会議が行われました。病院からもらった入院、リハビリ計画を見ながら母がどういった経過をたどり、最悪どういった状態になるかの認識を家族で一致させました。そして、やらなければならないことを明確にし、個々の分担を会議。決めなければならないことが山積みです。
家の家事分担、リハビリ病院の選択、介護保険制度について調べる、退院までに準備しておくもの、祖母の世話、祖母の病院付き添い、高額医療や保険の手続き、畑の管理、加えて間の悪いことに実家の改修工事を行なっている最中で諸々の手続き、それらを兄弟で分担しようということになりました。
日常の家事は、朝夕実家に通い、洗濯、食事、買い物、お風呂、掃除などを曜日ごとに分担することに。
しかし、洗剤の場所、ゴミの収集日はいつか、印鑑や文書の保管場所など何も分かりません。しょうがなく入院中で動けない母に毎日電話して確認することから始まりました。
祖母の介護から見えた、老老介護の問題点と解決策
私の実家では、93歳になる祖母も暮らしており、母が祖母の全ての世話を担っていました。その介護者が不在になった今、一番の問題は祖母の世話を誰がするのかということでした。
祖母はあらゆることを母に任せきりだったため、自分がどの薬を何錠飲んでいるのかさえ把握していなかったのです。そして、祖母は買ってきた惣菜などはほぼ口にせず、何を料理して食べさせたら良いのかも分かりませんでした。
他に大変だったことが、母がいなくても以前と同じように生活したいと祖母が普通に考えていることでした。祖母は母に準備してもらい、玄関に花を飾り、仏壇に御供物のご飯を供えることを日課としていました。それらをダメだと言うこともできず、私たちは毎日、花を畑から摘んできて玄関に飾り、母に聞きながら昼夕の祖母のご飯、仏壇に備えるご飯を準備して持っていきました。
他にも、話し相手になったり、足の悪い祖母の買い物に同行したり、調子が悪い時は入浴介助も行いました。
それまで何も感じていなかったのですが、母も60代後半、まさに老老介護です。介護する側が急にいなくなる。その現実も突然やってくるのだと改めて認識しました。
「老老介護」とは、65歳以上の高齢者を65歳以上の高齢者が介護する状態を表した言葉です。高齢化が進む日本では、高齢者が高齢者を介護する老老介護が問題視されており、身体面・精神面の負担が大きく、共倒れしてしまうケースも多いようです。では、老老介護の問題点はどこにあるのでしょうか。
体力面の問題点
体力が低下した高齢者による介護では、身体面への負担が深刻化しやすく、特に頻度の高い「入浴介助」「排せつ介助」「移動・移乗介助」では、足腰への負担は大きくなります。
体力がないことで1度の介護に膨大な時間を要し、精神的なストレスにつながることもあります。
精神面の問題点
介護に要する時間が増えると、他者との交流や外出機会が減ります。外部の助けを借りることができなくなるため、1人で解決しなければならないというストレスにつながりやすくなります。また、リフレッシュする時間や自分の時間を捻出できず「介護うつ」につながってしまうケースも多くあります。
老老介護の解決策として
① 地域包括支援センターへ相談する
② 介護サービスの利用を検討する
③ 施設への入居を検討する
があげられます。母は退院しても、今まで通りに祖母の世話ができなくなるでしょう。もしできたとしても体力がないことで精神的負担に繋がりかねません。母が帰ってきてからの祖母の世話については、母に任せきりにするのではなく、いろいろな解決策を検討しながら、兄弟で分担して母の介護による負担を軽減する対処が必要だと感じました。
介護保険制度でできること
病院からいただいた書類の中に、介護保険制度の案内がありました。
退院してからの状態にもよりますが、介護保険制度でできることを事前に調べておくことは重要です。自宅のリフォーム(手すりをつける、バリアフリーにするなど)が必要か、福祉用具(介護ベッド、車いす、杖など)をレンタルするかなどは、事前に調べ決めておくと退院してから慌てずに進められるのではないでしょうか。また、入院中でも退院のめどがついたら要介護認定の申請ができるので、入院中に申請しケアマネジャーも決めておく準備があるとよいのかもしれません。(申請した日までさかのぼって利用できますが、入院中は医療保険の適用になるので介護保険は利用できません。)
では具体的に、介護保険制度で一体何ができるのでしょうか?
要介護認定されると、ケアプランの作成、家族の相談対応などの居宅介護支援、自宅に住む人のためのサービス(居宅サービス)、施設に入居するサービス、福祉用具に関するサービス、住宅改修などのサービスが受けられます。
・自宅に住む人のためのサービス(居宅サービス)
<訪問型サービス>訪問介護(ホームヘルプサービス)/夜間対応型訪問介護(要支援の人は利用できない)/訪問入浴介護/訪問看護/訪問リハビリテーション/居宅療養管理指導など
<通所型サービス>デイサービス/デイケア/認知症対応型通所介護
<短期滞在型サービス>ショートステイ
・施設に入居するサービス(施設サービス)
特別養護老人ホーム(特養)/介護老人保健施設(老健)/介護療養型医療施設
・福祉用具関係のサービス
介護ベッド、車イスなどのレンタル/入浴・排せつ関係の福祉用具の購入費の助成
・住宅改修サービス
手すり、バリアフリー、和式トイレを洋式にといった工事費用に補助金が支給
「病院付き添い」もしできない場合は?
母は幸い、リハビリもうまくいき、1ヶ月後無事に退院することができました。杖はまだついていますが、普通に生活できるまでに回復。しかし、車は運転することができず、リハビリ病院への通院には、家族の病院付き添いが必要となり、加えて、祖母の通院にも母が付き添うことができなくなりました。私たち兄弟は実家の近距離で生活しているため、母と祖母の病院付き添いは兄弟と父で分担し行うことになりました。
このように近距離であれば家族がケアできるケースもあります。しかし、県外などで生活し遠距離の場合は、なかなか難しいのが現実です。自分の家庭や仕事、住んでいる場所などで病院付き添いしたくてもできないケースもたくさんあると思います。そこで「自分一人で抱え込まない」病院付き添いをやりくりする鍵を3つご紹介します。
①ヘルパーを頼る(介護保険の通院介助を使う)
介護保険を利用する場合、介護度によって得られるサービスは変わってきます。一般的には、『決まった曜日、一時間以内に帰ってこられる通院』であれば、介護保険により、ヘルパーに通院介助(病院の外来受付まで)をお願いすることは可能です。
②まわりの家族を頼る
自分一人で抱え込み潰れてしまわないためにも、介護の支援体制について家族と相談しておくことが必要です。さまざまなケースに対応できるように、要介護者の状態について頻繁に情報を共有し、家族全員が、他人事だと思わない環境づくりを行うことが大切です。
③介護保険外サービスを使う
病院付き添いなど、介護保険の制度からこぼれ落ちる介護は「家族がすべき」と考えられていることも多く、一方で遠距離介護や仕事、家事・育児のために「やりたくてもできない」方も多くいらっしゃいます。
そこで家族に代わって介護を提供する「介護保険外サービス」があります。わたしたちが行う「わたしの看護師さん」もその一つです。
※詳しくは以前ご紹介した記事「親の病院付き添いを上手にやりくりするコツ」をご覧ください!
突然の介護、備えておきたいこと
今回の母の入院で一番困ったのが、ありとあらゆるものの「所在が分からない」ということでした。母とは電話で連絡がとれたので確認できましたが、連絡が取れないケースもあります。また、突然認知症を発症するケースもあるかと思います。日用品の保管場所までは把握するのは難しいかもしれませんが、薬は何を飲んでいるか、また通帳と印鑑、各種証書類やカード類の保管場所を可能なら事前に聞き出し、家族もその情報を知っておくことが望ましいと感じました。
また、高齢者には祖母のように長年続けている日常生活のパターンがあることが多いと思います。突然の介護が始まる前に、起床、就寝時間、食事時間や家事、大事にしている日課などを把握し、介護を必要としても本人の生活リズムをなるべく崩さず介助を行うことも大切だと痛感しました。
もう少しでお盆がきます。実家に帰省される方もおられるのではないでしょうか。家族で集まる、家族と話しをする機会がある方は、親や兄弟姉妹で、介護について話し合い、お互い負担にならないようにする事前の備えを行なっても良いかもしれません。
介護が始まる前に親と話しておきたいこと
介護はする側、受ける側の双方にとって少なからずストレスとなります。
親が元気なうちから、「どのような老後を送りたいのか」「要介護状態になったらどうするか」といった話し合いを家族間で進めておくことが大切です。
兄弟姉妹間で確認しておきたいこと
介護を続けていくうえでは、家族同士で支え合うことが重要です。兄弟姉妹がいる場合は、協力体制を作っておくことも必要なので、それぞれの役割について一度確認しておくとよいと思います。介護者となる人が一番大きな負担がかかるので、それをほかの兄弟がちゃんと認識し、負担が偏らないようにほかの部分で引き受けることがないかを話し合っておくことも大切です。
今回の私の実家のように、高齢家族が家にいる、家族が老老介護をしているなどの場合は、突然介護が始まる可能性が少なからずあると家族で認識することも重要ですね。
介護といっても、どのようなスタイルの介護になるかはケースバイケースだと思います。在宅介護の場合でも、介護者と要介護者の距離により、近距離介護、遠距離介護、同居介護の3種類のスタイルがあります。
どの介護にもメリットとデメリットがありますが、現実には介護者の仕事や家族状況、親の意向等により、自分たちの介護スタイルを決めていくことが大事なのではないでしょうか。
今回の介護で感じたこと。それは、介護者になるかもという未来から目を背けるのではなく、介護が始まる前に、家族の現状や家の状況をちゃんと自分ごととして捉えること。そして突然始まる介護を受け入れる体制を少しでも整えておくことが大切だと感じました。