働きながら家族の介護も担っている人を「ビジネスケアラー」といいます。「仕事と介護を両立するのは体力的にも厳しい。仕事は好きだけど、介護のためにいつか辞めないといけないかもしれない……」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
ビジネスケアラー個人の努力だけでは、仕事と介護の両立は難しく、国の支援や勤務する企業の協力が重要となってきます。まずは誰もがビジネスケアラーの問題を知ることが大切です。
今回の記事では、ビジネスケアラーの実態、国や企業が進めている対策、ビジネスケアラーご自身が心がけておくと役立つポイントをご紹介します。
ビジネスケアラーの実態
近年、高齢化の進行に伴い、日本全体でビジネスケアラーが増加しています。介護離職者は毎年10万人となっており、仕事と介護の両立が、いかに難しいかが分かります。
2030年には約318万人もの方がビジネスケアラーになると推測されており、家族介護者のうち約4割が仕事と介護を両立しているということになります。仕事と介護の両立が困難になった場合、労働生産性は低下してしまい、これによる経済損失は約9.1兆円にまでのぼるとされています。
介護による労働損失の影響は甚大なものです。ビジネスケアラーの問題は、個人だけではなく、国や企業が率先して取り組んでいかなければならない社会問題となっています。けれど、社会全体の介護についての理解はまだ少ないのが実態です。現代では、当事者になるまで介護に触れる機会が少なく、職場でもなかなか話題にならない側面があります。
参照:経済産業省「経済産業省における介護分野の取組について」
国が進めているビジネスケアラー支援
ビジネスケアラーの問題に対して、国はさまざまな対策を進めています。主な施策を3つご紹介します。
1.ガイドラインの周知
経済産業省が作成した「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」は、仕事と介護の両立について、企業が取り組むべき対策を具体的に示しています。各企業の担当者は、このガイドラインに基づき、社内環境の整備にあたることをおすすめします。
2.実証事業
・中小企業の介護環境整備を支援する実証事業
経済産業省は、仕事と介護の両立に取り組む中小企業を支援する実証事業を進めています。2024年8月から12月までの期間に実施され、仕事と介護の両立に関する相談窓口、担当役員の設置や、社内体制の整備を支援します。また、中小企業のビジネスケアラーの実態調査も同時に進めることとなっています。
・家事支援サービス福利厚生導入実証事業
働く人が直面するライフイベントとキャリア形成を両立することを目的として実施する、福利厚生導入実証事業です。経済産業省により採択され、2024年にスタートしました。
この事業では、家事支援サービス提供事業者と、子育て・ビジネスケアラー・介護支援、女性登用の推進に課題を持っている各地域の中小企業等が連携して、従業員の家事負担を軽減させる環境を整えることを目的としています。
・両立支援等助成金(介護離職防止支援コース)
「両立支援等助成金」とは、働きながら子育てや介護などを行う労働者の雇用の継続のために、環境整備に取り組む事業主に対して支給される厚生労働省による助成金です。
6つのコースに分かれており、介護に関しては「介護離職防止支援コース」が用意されています。中小企業事業主が、従業員と面談をして作成した「介護支援プラン」に基づき、介護休業の取得・職場復帰が円滑に進むよう取り組んだ際や、短時間勤務・時差出勤など介護のための就労形態の制度を従業員が利用した際、一定の条件のもとで支給されます。
参照:経済産業省「仕事と介護の両立支援に関する経営者向けガイドライン」
参照:厚生労働省「両立支援等助成金のご案内」
企業が行うビジネスケアラーへのアプローチ
仕事と介護の両立は、企業側の協力もとても重要です。企業が具体的に取れる施策を3つご紹介します。
1.ビジネスケアラーが利用できる制度の導入
・介護休業制度、介護休暇制度の導入
仕事をしながら介護をするビジネスケアラーのために、休みを取りやすい環境を整えることが必要です。
<介護休業制度>
介護のための長期的な休み(介護が必要な家族1人につき年3回まで、通算93日)を取得できる制度です。
<介護休暇制度>
病院付き添いをするとき、ケアマネジャーとの相談時などに、短時間の休暇(介護が必要な家族が1人の場合は、年間5日まで。介護が必要な家族が2人以上の場合は、年間10日まで)を取得できる制度です。1日または、時間単位での取得が可能です。
・短時間勤務、フレックスタイム制度などの導入
時短勤務制度やフレックスタイム制度を導入すると、時間を有効に使った働き方ができるため、従業員が介護と仕事に余裕を持って取り組める場面も増えるでしょう。
事業主は、短時間勤務制度、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、介護費用の助成措置またはそれに準ずる制度のうち、いずれか1つ以上の制度を設けるよう育児・介護休業法で定められています。
・在宅勤務
リモートワークを導入することで、自宅で介護をしながらでも仕事を進められる環境をつくることができます。在宅勤務には、介護が必要な家族の体調不良時にも対応しやすくなるメリットがあります。フレックスタイム制度と組み合わせると、より柔軟な働き方を推奨でき、介護離職を防ぐことにもつながります。
2.介護相談窓口の設置
ビジネスケアラーが相談しやすい職場風土をつくることも重要です。介護に関する相談窓口の設置や、介護に詳しい担当者を配置するなど、相談場所を分かりやすく従業員に周知しましょう。
3.介護についての情報提供、研修の実施
企業が研修などの場を設け、介護についての情報を従業員に提供し、すべての従業員が介護についての知識を共有していることも大切です。弊社が行っている「わたしの看護師さん」も企業向けのセミナーを担当し、介護とはどんなものか、親の心身の変化を感じ始めた時にしておいたほうがいいこと、介護保険制度の知識などを専門家の視点からお伝えしています。
研修を通じて知識を身につけ、どのような制度を利用できるのか、どうすれば仕事と両立できるのかを知る機会があれば、ビジネスケアラーが一人で悩み離職してしまうことも防げるでしょう。現在はビジネスケアラーでない方も、自身の将来のキャリアプランを再考するきっかけになります。
企業全体が介護へ意識を向けることで、介護休暇が取りたい時に相談をしやすくなる、サポートし合える体制を作りやすくなど、ビジネスケアラーがいきいきと働く環境につながります。
参照:厚生労働省「そのときのために、知っておこう 介護休業制度」
介護と仕事を両立するために、ビジネスケアラーが心がけておくこと
慣れない介護や遠距離介護が突然始まると、とまどう場面も多いと思います。ここでは、ビジネスケアラーが介護負担を減らすために、心がけておくとよいポイントを紹介します。
・専門家に相談する
ケアマネージャーや地域包括支援センターなど、介護の専門家に相談してみましょう。介護についてほとんど知識がない場合は、市役所や町役場の窓口にたずねてみると、必要なルートを示してもらうこともできます。
仕事が介護の息抜きになっているという方もいると思います。どんな不安や悩みでも気軽に相談してみてください。介護保険サービスや給付金など、それぞれのご家族に合った制度を紹介してくれ、介護の負担を軽減させることができます。少し勇気を出して悩みを話してみることで、環境が大きく改善することもありますよ。
・会社に相談する
家族の介護をしていることを会社に伝えましょう。しっかり伝えていれば、介護による遅刻や急な休みがあっても周囲に事情を理解してもらうことができ、職場で気疲れを感じる、人間関係がうまくいかないなどのストレスを軽減できるでしょう。
また、従業員が介護によって働けずに離職してしまうことは、会社にとっても大きなダメージです。介護について会社に相談し、介護休業制度や時短勤務など、自分に合った働き方を一緒に考えてみてください。
・家族に協力してもらう
一緒に暮らす家族に相談し、自分の悩みを分かってもらいましょう。家事を分担するだけでも負担の軽減になります。
また、近くにきょうだいや親戚がいなくても、遠距離介護という形で協力を仰ぐこともできます。「高齢の親の近くにいる自分だけが介護をしなくてはいけない」という考えは無くして、遠方にいる家族にも介護の現状を理解してもらえるよう相談してみてください。ひとりで抱え込まずに、身近な人と協力して、仕事と介護の両立をする道を探してみましょう。
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ビジネスケアラーに対する国や企業の対策はまだ十分とはいえませんが、近い将来、介護は多くのビジネスパーソンが直面する問題です。今後も、企業側は介護に関して知識を深め、ビジネスケアラーに寄り添う努力を続けることが大切です。
少しでも多くの方が、介護をしながらでも仕事を続け、ご自身のキャリアを諦める必要のない環境であってほしいと願っています。そのために、ビジネスケアラーが抱える問題を社会全体の課題として関心を持っていただけたらと思います。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
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