ビジネスケアラーの介護離職を防ぐ〜企業で介護支援制度や福利厚生を充実させるには〜

家族の介護を行いながら働くビジネスケアラーは、年々増加しています。一方で、経済産業省の調査によると、2020年はおよそ7万人が介護離職をしたとの報告があります。企業が実態を把握しきれず、実は介護が理由で離職をしていたというケースも。大事な人材を失うことは、企業に大きな影響を及ぼします。政府も法律を改正するなど、介護と仕事の両立支援の強化を進めています。

企業の担当者の中には「従業員の介護を支援する制度を導入したいけれど、何が必要なのか分からない」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。

今回の記事では、会社内で働きやすい環境づくりと従業員の心のケアの両面から、企業が介護との両立を支援する方法をご紹介します。ビジネスケアラーが、介護と仕事を両立できる仕組みづくりの参考にしていただければと思います。

参照:経済産業省|介護政策

介護にまつわる福利厚生を充実させる理由とは?

なぜ今、企業の介護にまつわる福利厚生の充実が求められているのでしょうか。ビジネスケアラーの現状と悩み、経済損失のリスク、企業が福利厚生を充実させるメリットについて解説していきます。

ビジネスケアラーの現状

経済産業省の調べでは、2030年には家族介護者833万人のうち、約4割をビジネスケアラーが占める見込みです。また年代別にみると、2020年時点で40代後半から50代が多く、企業の中核を担う人材が介護との両立を行っています。

ビジネスケアラーが抱える悩み

1.肉体的・精神的負担
介護と仕事の両方を担うビジネスケアラーは、睡眠不足などで日々の疲れが蓄積していくものです。また「同僚や上司に迷惑をかけている」という気持ちから、精神的な負担を感じる場合も多いでしょう。

2.経済的負担
遠距離介護中であれば、帰省する費用が高額になることも懸念材料の一つです。介護サービスの利用頻度が増加することで、介護費用も多く発生しますが、介護のために仕事を減らすことで、収入が減少するといったジレンマを感じる方も多いのではないでしょうか。

仕事と介護の両立困難が経済損失につながる

介護と仕事を両立することが難しいと、職場でのパフォーマンスが低下するなど労働で生み出される成果は減少し、介護離職にもつながるため、経済損失が発生すると考えられています。その額は、2030年時点で推計約9.1兆円。経済損失につながる主な原因2つについて詳しく見ていきましょう。

1.パフォーマンスの低下
ビジネスケアラーは、仕事の合間に介護を行うため、十分な休息をとることが難しい場合も。睡眠不足などで介護疲れが蓄積すると、集中力が低下し業務の遅れやミスが起きやすくなります。

介護と仕事を両立することの難しさによって、従業員1人が1時間にどれくらいの利益や価値を生み出したかを表す労働生産性は大きく減少してしまいます。

2.介護離職
重要な責任を担う管理職や優秀な人材が介護離職した場合、企業の死活問題に発展する可能性もあります。少子高齢化の影響で今後は新しい人材を補充することが難しくなることも予想され、採用後の育成のコストも考えなければいけません。

企業が福利厚生を充実させた際のメリット

1.介護離職の防止、人材確保につながる
介護に関する福利厚生の充実は、介護離職の防止になり、将来の介護についての不安を抱える社員も安心感を持ちながら働くことにつながるでしょう。また両立支援の取り組みを広くPRすることで、この会社で働きたいと思う新しい人材の確保につながります。

2.従業員の満足度があがり、生産性が向上する
企業への満足度が増し、従業員のモチベーションがアップします。またビジネスケアラーが担っている業務の分担を考えることが、従来の作業手順を見直すきっかけになり、属人化を防ぐこともできます。不要な業務が減り、生産性の向上を見込めるでしょう。

参照:経済産業省|介護政策 「令和4年度ヘルスケアサービス社会実装事業 (サステナブルな高齢化社会の実現に向けた調査)」

柔軟な働き方ができる環境づくり

介護との両立を支援するためには、働きやすい環境づくりが大切です。「介護育児介護休業法」では両立するための支援制度を定めています。介護育児介護休業法とは何かや、柔軟な働き方ができる短時間勤務制度、介護のために取得可能な休暇についてご紹介します。

介護育児介護休業法とは?

介護を行う従業員が「介護休暇」などを柔軟に取得できるよう、主に6つの制度や制限が定められています。

1.介護休業制度
要介護状態にある対象家族を介護する従業員が申請を行った場合、休暇を取得させる制度です。取得日数は、対象家族一人につき3回まで、通算93日です。介護休業期間中は原則無給ですが、会社の就業規則によっては支給される場合もあるので確認して対応を行います。ハローワークから支給される、介護休業給付金についても説明を行いましょう。

2.介護休暇制度
労働基準法の年次有給休暇とは別で、対象家族が一人の場合は年5日まで取得させることができます。企業が有給か無給かを決定します。

3.短時間勤務制度の措置
会社は、次のうち、いずれか1つ以上の制度を設ける必要があります。

①短時間勤務の制度
1日の所定労働時間、週または月の所定労働時間や日数を短縮する制度です。
②フレックスタイムの制度
総労働時間を決めた上で、日々の始業・終業時刻を自ら決めることができる制度です。
③ 始業又は終業の時刻を繰り上げ又は繰り下げる制度(時差出勤の制度)
④労働者が利用する介護サービスの費用の助成など

4.所定外労働の制限(残業免除)
介護するために残業ができないと申請があった場合、所定外労働を免除する必要があります。

5.労働時間の制限
従業員から申し出があった場合、会社は、1か月に24時間、1年に150時間を超える時間外労働をさせてはいけません。

6.深夜業の制限
介護のため深夜に働けないと従業員が申し出た場合、深夜に働かすことは禁止されています。

介護育児介護休業法の改正について

育児介護休業法の改正法が国会で可決・成立し、令和7年4月1日施行予定です。企業に義務づけられているポイントを確認しておきましょう。

・介護休業などの制度を利用したいと申請しやすくなるよう、「研修の実施」「相談窓口の設置」「社内での介護休業取得や支援制度利用の事例を集め提供する」「介護休業・支援制度の利用をうながす方針を周知する」のいずれかを行うこと。

・介護を行う従業員が申し出をした場合に、両立支援制度などに関する情報を知らせ、意向確認すること。

・介護に直面する前の早い段階の従業員に両立支援制度などに関する情報を提供すること。併せて介護保険制度について周知することも望ましいとされています。

このほか、介護休暇の勤続6か月未満の労働者の労使協定除外の仕組みは廃止することや、努力義務として、介護をするビジネスケアラーがテレワークを選択できるようにすることも明記されています。従業員が働きやすく、この会社で働いて良かったと感じる環境になるよう導入を進めていきましょう。

参照:厚生労働省「介護休業制度」
参照:厚生労働省「令和6年度改正育児・介護休業法」

従業員の心のケアを行うために

介護離職を経験した方の多くが、企業が設けたビジネスケアラーに役立つ制度を利用せずに離職しています。仕事と介護の両立について相談しやすい環境と、介護に関する情報を積極的に提供する場を整えることが重要です

1.介護の現状を把握する

介護休業を取得する従業員が少ないことで、企業が実態に気がつかない場合があります。また「キャリアアップに影響するのでは」と、従業員が介護についての情報を周囲に知らせない事例も多いです。社内でアンケートなどを実施し、介護の現状を把握する必要があります。

2.相談しやすい環境を作る

介護について相談しやすい職場環境作りとして次の3つのことを実施するとよいでしょう。

・面談を実施する
アンケート結果をもとに、面談を実施します。今後の働き方についての希望、配慮が必要なこと等の確認を行うことが重要です。

・社内のコミュニティを立ち上げる
ビジネスケアラー同士のコミュニティを立ち上げ、不安や悩みを共有する場を設けることも効果的です。

・産業医、外部の専門家と連携して相談窓口を設置する
産業医や外部の専門家と連携して、相談窓口を設置することも大切です。気軽に専門家に相談できることで、従業員の安心につながります。

3.情報提供を積極的に行う

・企業の取り組みを発信する
企業のビジネスケアラーをサポートするための制度について理解をしていない従業員も多いため、介護と仕事の両立支援についての情報発信は重要なポイントです。介護休業の取得、時短勤務などの説明を積極的に行いましょう。企業全体で介護の問題に取り組んでいることを伝えることで、介護について話しやすい雰囲気づくりができます。

・セミナーや研修の実施
専門家の話を聞く場を作ることは、従業員の介護に対する意識を変える機会になります。弊社「わたしの看護師さん」代表の神戸も企業向けにセミナーを担当し、介護について不安を持つ方に、ビジネスケアラーが仕事と介護を両立できるよう必要な備えを伝えています。

「介護とは何か」「介護が必要と感じ始めた時にどうしたらいいのか」「介護保険制度の紹介」などの話を通じて、社員にまずは知識を得てもらうことが、ビジネスケアラーが働きやすい職場づくりにつながるはずです。

参照:厚生労働省「仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」

ビジネスケアラーが介護との両立が困難で離職した場合、本人にとっても企業にとっても大きな経済的なダメージが残ります。そのため、不本意な介護離職は避けなければなりません。特に、遠距離介護中の方は、両立ができるかどうか大きな不安を抱えていると思います。

まずは、企業内でアンケートを実施するなど、介護の現状を把握することが必要です。働きやすい環境が整うことで、従業員はキャリアを続けることができ、企業の生産性も維持できます。従業員の介護の問題を企業の問題と捉え、福利厚生の見直しを進めていきましょう。

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