認知症の家族の介護|体験談から考える、介護のポイント

「人の顔や名前を忘れてしまう」
「身近な家族のことすらも忘れてしまう」

みなさんは「認知症」と聞くと、そのような状態を想像するのではないでしょうか。

ただ「認知症の家族と関わった経験」や「認知症の方」のお話を聞くと、人によって症状は様々で、冒頭の様子は認知症のほんの一面しか表していないということが分かります。

認知症の第一人者であり、自身も認知症であると公表した医師の長谷川 和夫さんは、“その日の予定や家までの帰り道。当たり前にできていたことが「できなくなる」ことが何より辛い”と、“認知症の本質は「暮らしの障害」”だと著書で語られていました。

身近な家族が認知症になったとき。あなたは、どう関わりますか。

この記事では、「認知症の家族と関わった経験談」や「認知症の方」のお話から、「色んなことを忘れてしまう病気」という理解からもう一歩踏み込んで、認知症について「知る」こと、そして「関わり方」を考えていきたいとおもいます。

認知症になった祖母と親戚の介護体験談

「認知症」は、ただ物事を忘れるだけではありません。そのことについて分かる、認知症になった祖母と親戚についての体験談を紹介します。(スタッフが、認知症になった祖母と叔母を介護する母に話を聞いた体験談です)


――おばあちゃん(祖母)や親戚のおばちゃん(祖母の妹)が認知症になった時は、実際どんな状態だったの?

:その2人だけでも、全然状態が違って。オバちゃんは時々普通に戻るのよ。私が行くと「◯◯か!」って気がついて。でも私が「おばちゃん!」って話かけた瞬間、「ボーっ……」て。また認知症に戻ってしまうような感じだったね。

――ずっと忘れている状態ではないんだね。

:おばあちゃん(祖母)は、1番ひどかった時は家に帰ったらいなくて、探しても見つからなくて。しばらくして横浜の親戚から、「警察から電話があった」と連絡があったの。その親戚の電話番号だけ思い出したらしいのよ。

警察に行くと、おばあちゃんは仰々しく「どうもありがとうございます」って。私のことは忘れていて。家に連れて帰って、「あの、私、『◯◯』というんですが」と話しかけたら、「◯◯名前、、◯◯、、◯◯?◯◯!」って、私の名前を呟いてるうちに思い出してくれたのよね。

―― 認知症の人と関わる時は、どのようにしていたの?

:老人ホームを見学したことがあって、介助する人が(どうせ、わからないだろうと)ぞんざいな態度をすると、その後で認知症の方が暴れたり、ヒステリックになったのを見たことがあって。

頭の中ではわからなくても、邪険にされたことは認知してるから、だと思ったの。だから、「わからないから」と考えずに、優しく対応していますね。


いかがでしょうか。認知症になった瞬間に全てを忘れるのではなく、日によって思い出すことが出来たり、思い出せることと思い出せないことがある。「物事を忘れる」だけではない認知症の状態について、イメージいただけたのではないでしょうか。

認知症の歴史|僅か数十年の歴史

認知症の診断には、患者さんがどの様な状態かを確かめるための物差しとして「長谷川式スケール」が活用されています。これは、冒頭に紹介した認知症医療の第一人者、長谷川和夫さんが開発されました。

長谷川さんは、戦後間もない頃に精神科医となり、40代で認知症を専門とするようになったそうです。今では65歳以上の約16%が認知症だと推計されていますが、この頃はまだ、認知症が「痴呆」と呼ばれ、差別や偏見の対象となっていました。

当時は「ボケたらおしまい」という認識が一般的で、認知症の人は「何も分からなくなった人」としてひどい偏見を持たれていました。そのため、認知症についての具体的な診断基準すらありませんでした。

そうした状況の中、長谷川さんは記憶力などをテストする「長谷川式簡易知能評価スケール」を開発しました。日本で初めて、認知症の早期診断を可能にしたのです。

さらに、認知症の人の尊厳を守るために、2004年に病名を痴呆から「認知症」へ変更することを提唱し、実現させました。86歳まで第一線で診療を続け、2017年には、自ら認知症であることを公表。その後もメディアや講演などを通して、認知症の当事者となってわかったことを伝え続けています。

(参考:ボクはやっと認知症のことがわかった 自らも認知症になった専門医が、日本人に伝えたい遺言

認知症は「日常生活に支障が出る」病気

認知症は、さまざまな原因で脳の神経細胞が破壊・減少するために起こる症状や状態を言います。進行すると、理解力や記憶力が低下し、日常生活に支障が出てくるようになります。

認知症の種類は様々あり、

・アルツハイマー型認知症(通称アルツハイマー)
脳にあるアミロイドβやタウと呼ばれる特殊なタンパク質が蓄積されることで起こる

・脳血管性認知症
その他、脳梗塞や脳出血、くも膜下出血をきっかけに発症する

・レビー小体型認知症
神経細胞にできる特殊なたんぱく質のレビー小体が脳の大脳皮質や脳幹にたくさん集まったことで発症する

これら3つは三大認知症として、認知症全体の約85%を占めています。

認知症の具体的な症状は、

  • 記憶障害:直前の行動を忘れる、覚えていた人や物の名前が思い出せなくなる
  • 見当識障害:自分のいる場所や状況、生年月日、周囲の人間との関係性などがわからなくなる
  • 判断能力の低下:料理の手順がわからない、服のコーディネートができなくなる、善悪の区別ができなくなる等です。

またこれらの症状に、個々の性格や環境の変化などが加わることで、

  • 徘徊(はいかい)や弄便(ろうべん)
  • 暴力・暴言、幻覚、物盗られ妄想、せん忘、異食、失禁・排尿障害、不眠・睡眠障害
  • うつ症状といった行動・心理症状(BPSD)

が現れる場合もあるそうです。

「その人を中心」とする、認知症の介護の考え方

認知症患者は不安になると症状が悪化するため、認知症特有の行動に対してきつく叱ったり、話しかけずに先へ先へ進めようとすることは、不安を煽り症状を悪化させることにも繋がってしまいます。

長谷川さんは認知症患者との関りにおいて、『パーソン・センタード・ケア』、つまり『その人中心のケア』という考えを実践してきました。

“その人のいうことを何でも聞いてあげるということではありません。その人らしさを尊重し、その人の立場に立ったケアを行なうということです。”(前述書籍より引用)

「すべての人に掛け替えのない人生があり、それは認知症になっても決して変わることがないという長谷川さんの信念が根底に流れる考え方です。

その中でも特徴的なのが認知症患者の思いを『聴く』ということです。

認知症の方は、自分が言いたいことを、言えなくなってしまう状態にあります。これまでならできたこと、言えたこと、伝えることができたこと。それが簡単にできず、歯がゆい思いがある。

ですが周囲の関わる人は、その気持ちを汲み取れず、つい先回りして準備をしたり、「何も話さない、どうせ分かっちゃいない」と言葉かけをすることを辞めてしまいます。

長谷川さんは、認知症の方と同じ目線に立つために、「今日は何がしたいですか?」「何がしたくないですか?」と気持ちを聞いてあげることが大切だと言います。

聴くこと、待つことは、介護の日常の中で決して簡単なことでは無いかもしれません。

“「聴く」というのは「待つ」ということ。そして「待つ」というのは、その人に自分の「時間を差し上げる」ことだと思うのです。認知症はやはり、本人もそうとう不便でもどかしくて、耐えなくてはいけないところがあるから、きちんと待って、じっくり向き合ってくれると、こちらは安心します。”

と、長谷川さんは『聴く』こと、『待つ』ことの大切さを伝えてくれます。

認知症の予防は、日常生活の小さな取り組みから

認知症は、食生活の改善や運動によって、脳を健康な状態に保つことで予防に繋がります。頭を使うことも予防になるため、趣味やゲームを楽しんだり、人とのコミュニケーションを取り続けることも大切です。

例えば、歌や音楽を使ったレクリエーションも予防法に有効です。懐かしの音楽を使うことで昔を思い出して気持ちが若々しくなったり、精神を安定させたりする効果も。過去を思い出して言葉にすることで脳を活性化し、歌を歌うことで肺を使うので、心肺機能の向上・維持に繋がります。これによって、脳の健康状態を保てて、認知症予防になります。

また、散歩をしながら、昨日や今日の出来事を思い出したり、ラジオ体操をしながら一人しりとりをする、コグニサイズという認知症予防を目的とした取り組みがあります。

国立長寿医療センターが開発した運動(エクササイズ)と認知課題(コグニション)を組み合わせた取り組みで、例えばコグニサイズの一つである「コグニステップ」は、左右の脚のステップに合わせて数字を数え、3の倍数になったら手をたたくというものです。やってみると難しいのですが、自宅でも簡単に行うことができます。

手指を使う知的活動も脳によい刺激をもたらします。同時に複数のことを考える脳トレやゲームは、複数の脳の部位を同時に使うことができるため、有効な予防法とされています。

自分の好きな読書や手工芸、コンピューター作業、趣味や家事、住民会への参加などの社会活動。それから、身近な日常でも、買い物の計算や間違い探し、ゲームソフトを用いた脳トレ等が予防法として有効です。

このように、大きく生活習慣を変えたりするのではなく、日常生活の小さな心がけや取り組みに、認知症予防ヒントがあります。認知症のご家族を介護する場合も、自分自身や当の本人の無理なく、状況に合わせて取り入れていくことが長続きするポイントです。

身近な家族が、自分の名前を忘れたり、これまで出来ていたことが出来なくなる。

介護を行う方にとっては、そんな家族に向き合うことすらが苦痛だということも想像に難くありません。

自分自身に余裕があれば、認知症の家族を中心に考えることが出来ても、日常の慌ただしさの中では「その人を中心に考える」ことをやりたくても、出来ない瞬間だってあるはずです。

介護する方自身が「自分のこと」を考えることが出来ずに、認知症の家族を中心に考えることは出来るでしょうか。

「本当はもっと家族に寄り添いたいけど、出来ない」
「家族にも申し訳ないし、そんな自分にも不甲斐なさを感じる」

そう感じる方はきっと、自分自身のことにも耳を傾ける時間が必要です。

認知症の家族の介護を全て一人で、家族だけで抱え込むのではなく、担当のケアマネジャーさんや施設の方、介護相談を行う事業者、保険外サービスを提供する事業者など、まわりの方を頼ることも、より良い介護の提供を考える上で大切だと思います

ぜひまわりの方を頼ったり、少し立ち止まる時間があれば、長谷川さんの著書も手にとってみてください。

介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。

介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

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