「親の介護」について家族と話し合う、事例と話し合いのポイント

介護は突然やってくる。

ある日、母が突然倒れた。
母が病気で入院することになった。
父が自分の名前が分からなくなった。

いつ、どこでやってくるのか予測がつかないあのが介護です。そのため、自分の親の介護について事前に話し合っておくことはとても大切なこと。

けれど、介護について話し合うといっても何から始めたらよいのか良くわからない人が多いのも事実です。話し合うことが大切だとわかっていても、今まで話す機会が持てなかった人も多いのではないでしょうか?

いま、新型コロナウイルス感染症の影響もあり、家族とおうちで過ごす時間が増えたという人も多いと思います。家族と向き合うことができる今こそ、親の介護について話し合いをしてみませんか?

今回は、親の介護について家族で事前に話し合う必要性やポイントを紹介します。

親の介護の話し合いって?

そもそも、親の介護について話そうと思っても、いつ、どんな内容を話せばよいのでしょうか。

最近では介護のキーワードとして、「人生会議」という言葉が認識され始めています。とはいえ、「人生会議」といっても延命治療などの終末期医療について話し合うようなイメージを持っていると、話すきっかけがつかみにくいのではないでしょうか。

そこで、もっとそれ以前の「親がどんな将来を送りたいと思っているのか?」といった「親の晩年の暮らし」を知ることができれば、子どもとしても安心できるし、親の介護にも備えやすいと思います。

親の考え方はそれぞれに違うのは当たり前です。それでも、どんな状態であれ、本人が望んでいる暮らしは必ずあるはずです。

ですので、介護について話し合おうと意識しすぎるのではなく、まずは「これからやってみたいことはある?」と、お父さんやお母さんに夢や生きがいについて尋ねてみるのも良いのではないでしょうか。

自分の親は、わたしたちが思っている以上に終活に向けてやりたいことや考えていることがあるものです。

聞いてみると、「本当は田舎でゆっくり暮らしたい」とか「旅行をいっぱいしてみたい」と、案外驚かされる発見があるかもしれません。

「これって、人生会議なの?」と疑問に持つ方もいるかもしれませんが、「人生会議」といっても必ずしも「死」にまつわるような話だけではありません。

まずは、親とのコミュニケーションを取る目的であったり、最終的には介護の話に持っていけるような“話のきっかけづくり”に着目してみてはいかがでしょうか。

親がこれからの人生をどう生きたいのか、未来について話し合うことはとてもいいことです。自分の親と何を話したらよいのかが分からない人こそ、まずは明るい未来の話から会話してみましょう。

そもそも、人生会議とは?

現在世界的に流行している新型コロナウイルスに高齢者が感染すると、周囲と十分にコミュニケーションが取れなく恐れがあります。その現状を踏まえ、日本老年医学会は、終末期にどのような治療を受けたいのか、家族や信頼できる人とあらかじめ話し合う「アドバンス・ケア・プランニング(ACP)」を早めに行うように呼びかける提言を発表しました。

ACPとは、高齢化が進み多死社会を迎える中、厚生労働省が「人生会議」の愛称で以前から普及が進められているもの。学会は、「最善の医療とケア」を受ける権利を保障するべきだと強調しています。早期からの本人と家族、医療やケア従業者が話し合うことで、しっかりと準備態勢を整えて、できるだけ納得のできる最期を迎えられることを目的としています。

「ACP」の定義は、人生の最後に自分がどういった医療やケアを受けたいのか、本人や家族、医療チームの三者で繰り返し話し合いをしておくこと。そして、2018年11月13日に「人生会議」という愛称を国が決定し、推進されています。

人生会議のメリット

人生会議のメリットとして次のようなことが挙げられています。

1.病状の急速な変化の下でも患者本人の意思を尊重できること。
2.患者自身の健康や治療に対するコントロール感が高まること。
3.事前に病状を前向きに捉えられるためメンタル面での落ち込みの影響を受けないこと。

最近の調査では、終末期に意思表示ができなくなる患者の割合は、約7割にもなるといわれています。そのため、できる限り早い段階から「人生会議」を開いて明確な方向性を決めておきたいと思うのも自然なことです。

過半数の人が自分の最後について話し合うことことができていない


ところが、
家族で人生の最終段階について考え、話し合ったことがある人の割合が低いことも問題となっています。

厚生労働省が発表した、「平成29年度 人生の最終段階における医療に関する意識調査結果」によると、終末期のケアについて、これまでに家族や医療関係者と「話し合ったことはない」と回答した人は半数を超える55.1%でした。理由として挙げた要因の中で最も多かった意見は「話し合うきっかけが無かったから」とされています。

さらに、そもそも「人生会議」について知らない人が多いといった認知度の低さも指摘されています。まだまだ社会で「人生会議」を積極的に実施する流れにはなっていないのも今後の課題であると考えられています。

人生会議をやりたいと思っても、ついつい後回しにしてしまう理由


人生会議をやりたいと思っても、なかなか行動に移せない。その理由や原因とは一体何なのでしょうか?

人生会議ができない理由として「親の死について考えたくない」、「親に気を遣ってしまう」、「恥ずかしい」などが挙げられます。このほかにも、親が自分にとって「毒親」のような存在であったりして、関係を遠ざけているケースもあるかもしれません。

なぜ人生会議ができないのか?を突き詰めいくと、「家族と話をしても分かり合えるイメージができない」といったことがあるのではないでしょうか。特に、デリケートな話題であるだけに「自分のせいで親を傷つけることは避けたい」と感じている人も多いかもしれません。また、親との不仲が原因で、お互いの意見が衝突し合って収拾がつかなくなったり、口論に発展してしまうことを危惧している場合も考えられます。

ではどうすれば、もっと親と分かりあうことができるのでしょうか?

人生会議をうまくすすめる方法

ここでは、実際に人生会議を進めていく上でのポイントや、取り組み方について簡単に紹介してみます。

まず、自分自身の見方を変えてみるということを意識してみてはどうでしょうか。いざ話し合いをしてみると、話題がどんどん進むにつれて、意見の食い違いや相手に対して否定的な態度で構えてしまうこともあるかもしれません。そんなとき、感情的になってしまったり、相手のせいにしてしまいたくなることがあります。

そうした中でも、自分から一歩引いて冷静になってみることは話し合いをする上でとても大切なことになります。

このように、相手の言動の意図を汲み取ろうとしてみる、自分のコミュニケーションの取り方や話のタイミングに問題はないのかなどを自問自答してみることで、よりスムーズに話し合いができるはずです。そうやって見方が変われば、考えも柔軟になって相手への接し方のアイデアも湧きやすくなるでしょう。

親の介護の話し合いの事例ケース

それでは実際に、家族と「お父さんとお母さんの将来について」というテーマのもと「人生会議」をやってみた事例を紹介します。(スタッフが、父と母を相手に人生会議をやってみた体験談です。)

切り出し方

話し合うにあたり、どういった形で切り出すのかイメージしづらい人も多いのではないでしょうか。

まず、親に対して「人生会議って知ってる?聞いたこととかないかな?」と抽象的に優しく聞いてみることにしました。わたしの両親は「知らない」ということでしたが、初めて聞く言葉にすぐに興味をもってもらことができました。

そのため、「人生会議ってどういうものなの?」と聞き返されるというように、これから話を展開しやすい流れに持ち込むことができました。

実際に「人生会議」を通じて話し合った内容

今回は項目別に、実際に話し合った内容を紹介します。

ー最初は、明るい話からはじめてみようー

――最後の晩餐に食べたいものは何ですか?

→『妻の作った豚汁』
→『大好きなパン屋さんのチーズクロワッサン』

――将来やってみたいことはありますか?

→『妻との二人の時間をゆっくり楽しみたい』
→『今よりももっと住みやすい街で快適に暮らしたい』

ーもしもの話し合いもしてみようー

――終末期において大切にしたいことは何ですか?

→『延命治療は望まないけど、薬ばかりに頼るのではなく最後は自然に任せたい』
→『延命治療は望まないけど、癌などの病気に侵された時に痛いのは嫌だ。そのため、痛み止めなどを服用することは希望する。理由は、痛みに苦しむ姿を家族には見せたくは無いから』

――どこで終末期の治療やケアを受けたいですか?

→『その時になってみないと分からない』
→『最後の最後は、予期せぬことが起こりやすいのを危惧して、すぐに医者が駆け付けられる環境で過ごしたい。また、家族に負担をかけたくないという思いがあるので、やはり病院で過ごしたい』

――あなたの気持ちや価値観を良くわかってくれる人(代理人)はいますか?

→『子供にはあまり負担をかけたくないという思いが強いので、信頼できる医者や専門家などの第三者的存在にあたる代理人を立てて、事務的にケアをしてほしいと思っている。その上で、自分の見えないところで代理人と子供たちが自分の運命について話し合うことがあっても良い。それでも、もし自分の子どもがお世話したい、手伝いたいと言ってくれるのであれば、任せたい』
→『正直、誰に頼っていいのか分からない。だけど、本心としては自分の子どもにサポートしてほしいと思っている。もし、誰か知らない介護士にお世話されるとなると仕方がないかもしれないとは理解しつつも、やっぱり不安だから』

ー今、思うことってなんだろう?ー

――自分の希望や思いは?

→『これまで、自分の死について普段考えることがあまりなかったためいろいろ考えさせられた。やっぱり自分が弱ってきたときにその姿を家族に見られたり、苦労をかけたりするのは嫌だと思う。自分に介護が必要になるときのことを考えると、「家族に迷惑がかかるんじゃないか」と気にしてしまう』
→『将来、医療が発達して、また人生の最期に対する関心が社会的にも大きく変わるなど今よりもっと自由な選択肢が広がってほしいと思う。今の日本では、倫理的に厳しいとは理解しているものの、それこそ「安楽死制度」のような苦しい思いからすぐに解放される手段があったらなぁと考えてみたりもしてしまう』

ー今回、「人生会議」をやってみての感想ー

→『今回、普段話し合うことができていなかった自分の将来のことや「死」について考える機会ができたことは良かった。これまでは、「先のことだし、重たい問題だし」と先延ばしにしがちだったため本心を誰かに相談することもなかった。けれど、家族で自分たちの思いが共有されることで、もしもの時に安心できることが分かったのは良かった。
振り返ってみると、自分は「家族に迷惑をかけたくない」という思いが強いので、極力家族に介護してもらうのではなく、専門機関での適切なケアを望んでいることを伝えられたことも良かった』
→『いつか考えないといけないと思っていたけど、いざ深く話し合ってみると考えさせられるものがあった。一方で、家のことや仕事のことがあるから、まだ死ぬことができないなという思いと、具体的な将来については分からないことも多いなと感じた。今回だけの一回きりの人生会議で終わるのではなく、継続的な人生会議の実施をすることもよいのではないかな』

スタッフ→『今まで自分の家族と共に、人生会議をやることはなかったため始める前は少し緊張していました。けれど、最初の質問から最後まで、今まで親から聞いたこともない思いや考えを知ることができたので良かったと思います。特に、両親ともに「子どもに迷惑をかけたくない」という思いが強くあるのだと知って驚きました。

これまで親の介護はわたしがするものだと考えていましたが、これからは信頼できる医療従事者の手助けを借りることも視野に入れていこうと思いました。もちろん、自分の親のサポートはできる限りしたいという思いはあります。その上で、両親の思いを理解し、自分たちに見合ったサービスを利用することは良いことなのだと思えました。もしもの時のためにも、今後も介護の話や人生会議を積極的にしていきたいです。』

まとめ

今回のテーマは、親の介護の話し合いについてわたしたちができることとは何なのか。といったものでした。

最近では、新型コロナウイルス感染症の影響により、今まで以上に家族と一緒に過ごすことができる人が増えたと思います。また、遠距離介護のため、滅多に帰省ができなくなったという方も、親の介護をはじめ「これからの話」を「人生会議」という形で、家族で話し合ういいきっかけを掴むことができたら嬉しく思います。

一方で、すべての人が人生会議をしなくてはならないというわけではありません。『人生会議とは?』のWebページにも、

“あくまで、個人の主体的な行いによって考え、進めるものです。知りたくない、考えたくない方への十分な配慮が必要です。”
(引用元:https://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/about/index.html))

と記載があるように、「自分は、自分たちの家族はどうしたいか?」を考えて選択されるものです。

そのことをしっかり理解したうえで、「人生会議」を重ねることで、もしもの時に冷静に行動できたり、自分の親が最期まで人生を楽しむことができる。そんな介護の形をつくっていけるはずです。

参考記事:ACP 人生会議 https://www.med.kobe-u.ac.jp/jinsei/about/index.html

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