近年、ビジネスケアラーや遠距離介護を行う方が増えています。介護と仕事の両立による肉体的、精神的な負担は大きく、遠距離介護中であれば交通費などの介護費用が多く発生します。
介護者の共倒れのリスクを回避するためにも、外部の支援を上手く活用することが大切です。しかし、「社会保障制度がよくわからない」「どのようなサポートが受けられるの?」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
今回の記事では、公的な社会保障制度である介護保険サービスについてご紹介します。介護が始まったときに慌てないために、事前にサービスの内容、利用方法について理解を深めておきましょう。
介護保険制度・介護保険サービスとは
介護保険制度は平成12年にスタートした制度で、40歳以上の全員が被保険者として加入します。65歳以上の方は第1号被保険者、40歳から65歳未満の医療保険に加入している方は第2号被保険者に分類されます。
介護保険サービスは、介護保険制度の加入者で条件を満たした方が利用することができます。各自治体の窓口に要介護認定の申請を行い、要支援・要介護と認定を受けることが必要です。
要介護認定とは
申請後、認定調査員が本人やご家族と直接面談を行う認定調査を行います。加えて主治医の意見書などを元に「介護認定審査会」で介護区分を決定します。申請を行ってから、原則30日以内に結果が通知されます。
※要介護認定についてさらに知りたい方は、以下のコラムをご覧ください。
・要介護認定とは?介護保険サービスを利用するためにまずは申請を〜申請方法をご紹介〜
介護保険サービスについての相談窓口
地域包括支援センターは、高齢者の暮らしに関する相談窓口として各自治体に設置されています。介護についての情報提供をはじめ、要介護認定の申請方法、介護保険サービス利用の手続きについて教えてくれます。介護が始まる前に、親の住む地域のセンターに問い合わせてみましょう。
介護保険サービスQ&A
Q1.介護保険サービスは、だれでも利用できるの?
65歳以上の方(第1号被保険者)と、40歳から65歳未満の医療保険に加入している方(第2号被保険者)とでは受給要件が異なります。
・65歳以上の方(第1号被保険者)
要介護・要支援と認定された方全員が介護保険サービスを利用できます。
・40歳から65歳未満の医療保険に加入している方(第2号被保険者)
介護が必要となった原因が介護保険の対象となる16種類の特定疾病の場合のみ、要支援・要介護と認定され介護保険サービスを受けることができます。
Q2.介護保険サービスは、希望すればすぐに利用できるの?
介護保険サービスは、通常は要介護認定を申請してから利用することが原則となっています。
緊急の場合は申請前でも利用することができますが、後日認定が受けられないと判明した場合や、介護度によって決められている利用限度額を超えて利用したサービスについては、全額自己負担となります。
Q3.月にどのくらいサービスを利用できるの?
介護保険サービスを利用した場合、原則として利用料の1割を支払います。ただし、一定以上の所得がある方は、2〜3割の負担になるため確認が必要です。
また、要介護度で1か月あたりの利用限度額が決まっており、限度額を超えた部分は、自己負担となります。
・自宅でサービスを利用する場合の利用限度額と自己負担額(令和6年9月現在 )

利用できる介護保険サービスの内容
要支援1〜2では「介護予防サービス」、要介護1〜5では「介護サービス」を利用することができます。介護度によっては、一部利用できないサービスがあります。代表的な3つのサービスと、1か月の利用計画例をご紹介します。
代表的な介護保険サービス
1.居宅サービス
・訪問介護
ホームヘルパーが自宅を訪問し、食事や入浴などの身体介護、食事の準備、掃除、洗濯などの生活支援を行います。
・訪問看護
看護師や保健師などが自宅を訪問し、医師の指示書に従って医療的サポートを行います。
・通所介護(デイサービス)
日帰りで施設に通い、食事や入浴、レクリエーションなどのサービスを受けます。送迎はサービスに含まれているため、介護者の負担を軽減できます。
・通所リハビリテーション(デイケア)
施設に通い、食事や入浴など日常生活の支援を受けます。理学療法士、作業療法士とリハビリテーションを行います。
・短期入所生活介護、短期入所療養介護(ショートステイ)
生活介護は日常生活の支援を中心に、療養介護は24時間体制で介護、看護を受けることができます。介護者が外出するときや介護疲れを軽減するために利用するとよいでしょう。ただし、希望者が多いため早めの予約が必要です。
・福祉用具貸与や特定福祉用具の購入
車いすやベッドなど、在宅介護に必要な福祉用具のレンタルが可能です。また、腰掛便座などの直接肌に触れる福祉用具を原則1割(所得に応じて2〜3割)の負担で購入できます。全額支払ったあと、介護保険から払い戻されます。指定業者から購入する必要があるため、まずはケアマネージャーや地域包括支援センターに相談しましょう。
2.地域密着型サービス
原則、事業所の所在する市町村に居住する人だけが利用できるサービスです。
・夜間対応型訪問介護
夜間に定期的に巡回を行い、オムツの交換や体位変換を行う「定期巡回」と、夜間の緊急時にホームヘルパーを呼んで介助を受ける「随時対応」の2種類のサービスがあります。
3.施設サービス
介護保険サービスで利用できる公的施設は、主に次の3つです。こちらの施設は、要支援の方は利用ができません。民間施設の介護付き有料老人ホームなどは、施設によっては要支援の方も入所可能です。
・介護老人福祉施設
特別養護老人ホームとも呼ばれており、原則要介護3以上の方が対象の施設です。要介護1、要介護2の方については、特別な事情がある場合のみ入居可能です。
・介護老人保健施設
病院を退院した方が、介護を受けながらリハビリを行う施設です。自宅で生活することを目的としているため、入所期間は原則3か月です。
・介護医療院
医療ケアと介護サービスの両方を必要とする要介護者が長期療養できる施設です。看取りやターミナルケアも行います。
介護保険サービスの利用事例
中国地方在住、在宅介護の90代Aさんは、自分の足で歩けるようになりたいとリハビリができるデイケアへの通所を希望しました。介護度は、要介護3です。
Aさんの1か月のサービス計画例
デイケア通所 12回
訪問看護 4回(看護師)
訪問介護 8回(ヘルパー)
福祉用具レンタル(ベッド・歩行器具・手すり)
毎月、ケアマネジャーに相談し、利用計画を立ててもらっています。以上のAさんの利用計画は、要介護3の利用限度額内に収まる計画となっているため、自己負担を抑えてリハビリを続けることができます。
加えて介護者の体調などを考慮し、在宅介護が難しい期間はショートステイを利用することもあります。追加してショートステイやデイサービスなどを利用し、所定のサービス量を超えると、その部分の費用は全額自己負担になります。
費用については、担当のケアマネジャーに相談し、試算してもらうとよいでしょう。高齢者ご本人が適切な介護を受けられ、介護者の負担も軽減できるよう介護保険サービスを上手に利用したいですね。
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これまでは、介護は家族が行うものという考え方が主流でした。しかし、核家族化が進み、家族の形態が変化する中で、その価値観には限界が来ています。家族だけで介護を行うことは、介護者の負担を増やし共倒れのリスクを高めます。また、親孝行で始めたはずの介護で、親子関係が悪化することは避けなければなりません。
介護保険サービスなどの公的な社会保障制度を活用することは、介護者の負担軽減につながります。特に遠距離介護では、親のもとに通うための交通費も必要になるため、介護保険制度を利用して自己負担額を減らせることは大きなメリットです。
少しでも親の様子に変化を感じた際は、早めに地域包括支援センターに相談することをおすすめします。介護保険サービスを上手く活用しながら、無理のない介護を行っていきましょう。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
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