「介護の負担は誰がする?」行政書士に聞いてみた

みなさん、親や自身の将来の介護費用について悩んでいませんか?

今後、介護が必要となった場合、「介護費用は誰が払っていくのだろう」とか「兄妹姉妹で分担する場合はどのような手続きをしたらよいのだろう」など、お金に関する悩みをお持ちの方は多いと思います。誰にも相談できずよくわからないまま手続きを進めてしまい、トラブルになるケースも多々あります。

しかし、事前にどのような準備が必要かを知っていれば、家庭内での金銭トラブルを防ぐことができます。

今回は、「介護費用は誰が負担する?」をテーマに、具体的な契約や手続き前の準備・注意点について、「わたしの看護師さん」の代表である神戸貴子が行政書士の岡村奈七江さんと一緒に徹底解説していきます。

まず、介護費用にまつわるよくある問い合わせや実際にあったトラブルについてお話します。

この記事の内容は、Youtube配信をもとに記事化しています。

音声でお聞きになりたい方は、こちらのYoutubeをご覧ください。

認知症が原因で銀行口座が凍結

岡村:私のところへ来られるお客様の相談で一番多いご相談としては「お母さんが認知症になってしまい、介護費用を支払うためにお母さんの預貯金を解約しようと一緒に銀行に行ったけれどお金が下ろせなかった。どうしたらいいですか?」というものです。

神戸:えー!銀行の口座って止まるんですか?

岡村:そうですね。よくあるのが「認知症なので」とその場で言ってしまった場合、銀行から「お母様に確認させていただきたいことがございます」と言われ、ご本人の意思で下ろされるのかどうかの意思確認をされます。

その際に認知症の症状が見受けられた場合は預貯金は下ろすことができません。その場で凍結されることになります。

神戸:ということは、受付カウンターで“認知症”という言葉を出すと危ないですね。

岡村:そうなんです。かと言って“認知症”と言わないまでも、お母さんと同行してお金を下ろしたいと申し入れたら、「ではお母様に確認させてください」と言われます。やはり高齢者の方に誰かが付き添って来られるということは、自分ひとりではできないから一緒に来られてるというふうに銀行は見ますので、お母さんが認知症かどうかの確認をされることが多いです。

神戸:びっくりです。よく“凍結”って話になるとお亡くなりになったことが銀行に知らされ止められましたという話はよく聞きますけど、今は認知症でも止まるんですね。

岡村:そうなんですよ。亡くなった場合だけが凍結するのではなくて、認知症でその方の判断能力が低下していると銀行が認識したら、その場合も口座は凍結することができます。

銀行からは、「法定後見人を決めて、もう一度お越しください」と言われることがありますね。

神戸:聞いたことあります。後見人ね!

岡村:「法定後見人を家庭裁判所に専任してもらってからまた手続きに起こしください」と言われ、お金を下ろすことができずに帰らざるを得なくなってしまいます。

認知症になる前に備えておきたいこと・任意後見制度とは?

神戸:先生に質問です。先程、「裁判所を通じて法定後見人さんを連れてきてください」というお話がありましたけど、他に方法はないんですか?裁判所に行くのはちょっとドキドキしますよね?

岡村:そうですね。これは、そうなってしまってからの方法であれば法定後見人という方法しかないことになりますが、実は判断能力がある内にご本人が自分の老後の生活費を自分で負担していくために必要な手続きとして例えば、法定後見人でなはくて“任意後見人制度”という方法があります。

ご自身の判断能力が低下したときに任せる人を予め法律行為で“契約”という形で“任意後見契約”を定めておくことで、判断能力が低下したときには自分の代わりに例えば娘さんに後見受任者となって、銀行の手続きをすることができるように定めておくという手続きがあるんですね。

お母さんがお元気なときに事前に契約をされていたら、こういった困ったことにはならなかったのかなと思います。

神戸:確かにそうですよね。自分が使いたいとき、例えば認知症になってきてどこかの施設に入りたいんだけど、子どもたちが入居費用を工面できない・払う予定がないとなったときに親御さんの通帳からって言っても凍結してしまったら大変ですよね。

岡村:そうなんですよ。大変なことが起きて私のところに「どうしたらいいですか?」となるとですね、これは法定後見しか手続きができないですね。お母さんの口座を解約手続きできるのは法定後見人しかできないと伝えています。

ただ、法定後見人が家庭裁判所から専任されたとしても、必ずしもお母さんの財産を処分することに関して、後見人が勝手に口座から下ろすことはできないんです。元々、“法定後見制度”というのは、その方の財産を守ることが目的の制度なので、預貯金を解約するとなれば家庭裁判所の許可がないと処分の手続きも行えないということになります。

神戸:聞いたことあります!領収書1枚1枚保存して裁判所に届けないといけないとおっしゃっていたご家族がいて、大変だなってびっくりしたことがありました。

岡村:年に1度、法定後見人の方は家庭裁判所に報告する必要がありますので、実際に何に使ったのかという証明書類を提出することになります。

神戸:いやー、簡単に後見人制度にいかないように、その手前で皆さんがお元気なうちにきちんと終活の準備をしていかれるのが良いのではないかということですよね。

岡村:そうですね。必ずしも法定後見人の制度を使うのが面倒だからやめたほうがよいということではなくて、やはり制度を使うほうが良い場合、もしくは制度を利用するしかない方もいらっしゃるのも事実です。

岡村:例えば、お子さまがお母さんのお金を預けられて、毎年家族で旅行に行く費用はお母さんが持って家族旅行をするというのがお母さんの希望でやっていたと。だから、法定後見人となった娘さんがお母さんの預貯金から旅行費用だけじゃなくてご家族の費用までも下ろした場合にはダメなんです。後見人を解除される事態となってしまうので。

神戸:えー!難しいですね。

岡村:そうなんです。やはり難しくなるんですね。

これまでできていたことが全て家庭裁判所の判断が必要になってくるので、任意後見であればご自身が任せたい人に契約の判断をしてもらえるといったところでは、お元気なうちに任せたい人に任せるための任意後見契約を結ばれておくのも一つの方法かなと思います。

任意後見人契約は簡単?

神戸:任意後見契約したいと言って先生のところに訪ねて来られる方もいらっしゃるというお話でしたけれども、簡単にできるものなんですか?

岡村:そうですね。誰に何を任せるかを任意後見契約書というもので公証人役場へ行って公正証書を作成することで契約書が発行されますので、決して難しいことではありません。

ただ、判断が低下した後であれば任意後見契約ですが、例えば”見守り契約”が必要になってきた、それから判断能力が低下する前や体力的に歩くことが厳しくなったなどにより自分の手続きのことを人に任せたい場合にする“生前事務委任契約”があります。

場合によっては、ご家族がいらっしゃらない方は、亡くなったあとの事項についても契約で交わしていきたいとおっしゃる方も最近は多いなと思っています。

よく聞く“家族信託”と“任意後見契約”の違い

神戸:あと、最近は“家族信託”もよく聞くんですが、任意後見契約とはどう違うんですか?

岡村:とても良い質問ですね。

まず、先程の話にもありました任意後見契約というのは“判断能力が低下して亡くなるまでの契約”です。判断能力が低下した場合、自分の資産の管理・処分についてはAさんに任せますよという契約ですね。

任意後見をつけられる方は合わせて遺言書を作られたほうがいいですね。亡くなるまでの管理や事務は誰に任せるのか、亡くなったあと葬儀費用や納骨費用など全てを支払った残りがあった場合には誰に相続していただくのか、などを決めるのが遺言書です。大体、任意後見人契約と合わせて遺言書を作られる方が多いです。

対して、家族信託というのはいわゆる民事信託、信託法による手続きなんですが、これは「今から亡くなった後」までのことを事前に公正証書で信託契約書を作成することで、今から判断能力が低下しても受託者に自分の財産管理や主導権、それから運用について任せますよという契約です。

家族信託は任意後見制度や法定後見制度と違って、あくまでその方の財産を守る・維持することが目的の制度ですので、基本的に処分や運用、財産の組み換えができる制度ではありません。

神戸:ということは、家族信託はより“自由に”親の価値観に沿った形で子どもたちや親戚が運用していけるということですか?

岡村:そうですね。先程の話では「家族旅行がお母さんの希望でこれまでは費用を払っていたけれども、後見制度ではお母さんの希望であったとしても財産から家族の旅行費用までは支弁はできない。」というのがルールでした。ですが、家族信託、民事信託契約であれば娘さんが受託者になれば、娘さんの判断で“お母さんのために”信託財産を活用・運用することができる事になっています。

ただ、家族信託はあくまで財産管理としては画期的な制度であり、やはり一番大事なのはお母さんの心情保護、どんな生活を望んでおられて、それに必要な福祉介護サービスや施設や病院など希望に沿った環境を揃えてあげられるのかということなので、必ずしも家族信託だけが良いのではなくて、任意後見制度や遺言制度などその方にとって必要な制度を使っていくべきかなと思います。

親や家族の介護に必要な費用は“契約”という決め事を作っておくことで、家族や親戚内でのトラブルを防ぎ、大切な人・資産を守ることができます。制度や契約と聞くとどうしても難しそうで敬遠してしまう気持ちがあるかと思いますが、正しい知識を得て事前に話し合うことは、“前向きに介護と向き合える”一歩となるかもしれません。

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