介護人口が増加しつつあるいま、突然親の介護が必要になることが多くあります。そして、ひとくちに「介護」といっても「親の認知症が始まった」「親が寝たきりの状態になった」など、さまざまなケースがあります。
そのような介護が必要になったとき、親と離れて暮らしている場合や、子どもの婚姻状況、同居の有無などによって家族間でトラブルが起こりやすくなっています。
トラブルに発展する理由は、大きく分けて2つが考えられます。
・誰が介護するのか
・誰が介護費用を負担するのか
介護は、精神的・身体的に負担が多いイメージがあるかもしれません。介護に関わる家族の負担が少しでも減らせるように、ぜひお互いに協力しながら乗り越えていきたいものです。
今回は、介護費用の問題から家族間で金銭トラブルを起こさないための方法をご紹介します。
親の介護、どれくらいの費用が必要になるか知っていますか?
公益財団法人生命保険文化センターが行った2021年度の調査によると、介護に必要な費用と期間は次のとおりです。
・費用
・月々の費用:平均8.3万円
・住宅改造や介護用ベッドの購入費など一時的な費用:平均74万円
・介護期間
・平均5年1カ月(61.1カ月)
これらを合計すると、8.3万円×61.1カ月+74万円=約582万円です。
施設介護、住宅介護で金額は変わってきますが、親の介護にかかる費用は、思っていた以上に大きな負担になることが分かります。
親の介護費用でトラブルに?家族内金銭トラブルについて
おおよその介護費用がわかったところで、これらをいったい誰が負担することになると思いますか?
一般的に介護費用は、親の年金や資産から準備していきます。それでも介護費用が足りないときには、民法によると子どもや親の兄弟姉妹が負担することが定められています。ほとんどの場合、いざ介護が始まってから、親の資産から介護費用がカバーできないことがわかり自分たちが負担しなければならないことを知ります。
また、介護が始まるころには、親の兄弟姉妹もすでに高齢であることがほとんどで、子どもが費用を負担するケースが増えています。突然、「義務があるから介護費用を負担しなければならない」と言われてもすんなりと受け入れづらいのではないでしょうか。
介護費用は自分の生活費にプラスして用意することになります。そのため、十分な金額が準備できないかもしれません。介護の経験がある人が少ないことや介護に関する知識があまりないことから「介護は大変だ」というイメージになりがちです。そのマイナスなイメージから、親だからといって「介護をしたくない」と考える人もいるのではないでしょうか。マイナスなイメージを持ったまま「近居・同居」「長男だから」と介護の押し付けあいが始まってしまうのは絶対に避けたいところです。
しかし、残念ながら介護費用の負担に関する家族内金銭トラブルは実際に起こっています。
次に家族内金銭トラブルで考えられるケースをみていきます。ぜひ、自分の家族状況・年齢・居住地などと当てはめながら読んでみてくださいね。
家族内金銭トラブルで考えられる事例
ここでは、介護に必要な費用が親の資産では足りない場合のモデルケースをみていきます。
【介護に関わる状況】
・Aさん夫婦:地方在住。70代。年金と退職金のみで生活をしており、資産運用・預貯金はない。
・長女:既婚、県外在住。子どもがいる。
・次女:既婚、県外在住。子どもがいる。
姉妹は今後の子どもの学費などまとまった費用が必要。マイホームの住宅ローンも返済中。
お父さんの認知症が進行し、介護をしなければならない状況になりました。在宅介護を考えましたが、お母さんも高齢で持病があるため、家族間のなんとなくの話し合いで施設に入居することに決めました。お母さんは、認知症でもサービスが手厚い介護付有料老人ホーム、またはグループホームに入れたいと考えており、比較的費用の安いグループホームを希望しています。ところが条件の合うところはどこも空きがなく順番待ちの状態でした。
施設に入居するためにかかる費用については、初期費用はお父さんの退職金でカバーすることができました。しかし、施設の月額費用については、お父さんの年金をほとんど使ってしまうため、お母さんの年金だけではお母さん自身の生活が成り立たないことがわかりました。お父さんの兄弟姉妹はすでにいない・高齢で収入がない状態のため、頼れない状況です。結果的に子どもである姉妹が足りない介護費用を負担することになりました。
しかし、姉妹もそれぞれの住宅ローン、子どもの学費など自分たちの生活で余裕があるとはいえません。折半を考えましたが、大きな金額のためなかなか折り合いがつきませんでした。また、お互い介護に関する知識があまりなく、相談先もわからないため、介護に対する不満はつのるばかりです。お父さんの認知症が日に日に進行する中、条件にあう施設も決まらず前に進まない介護について、二人の間に不満が溜まり姉妹仲が険悪に。最終的には、費用負担について弁護士を間に入れて話し合いをしなければならないほどの仲になってしまいました。
今回は介護費用負担の問題から「兄弟姉妹仲に亀裂が入ってしまった」ケースでした。
このほかにも親自身が受けたい介護とその介護費用の問題により子どもとの意見が相違し「親と子の関係が悪化」してしまう場合もあります。
このような家族間トラブルを避けるためにも、家族内金銭トラブルに発展させないための解決策をご紹介します。
家族内金銭トラブルに発展させないためにできることは?
家族内金銭トラブルに発展させないためには、次の方法があります。
1.介護方針を決める
まずは、介護の方針を決めることが重要です。
介護が必要な方の体の状態によりますが、方法としては主に3つあります。
在宅介護・・・老人ホームなどの施設に入居せず、自宅で介護を受けること
施設介護・・・老人ホームなどの施設に入居して、介護を受けること
遠距離介護・・・介護する人が住む場所を変えず、遠距離から介護が必要な方のサポートをすること
どの方法で介護するかによって、必要な介護費用が変わってきます。
この段階から家族間で意見の違いがでることがありますので、介護に関わる家族みんなが集まって、じっくりと話をする機会を作りましょう。
2.親の年金や資産からカバーすることができるのか確認する
介護方針が決まったところで、次に介護が必要になった親の年金額、資産額を確認しましょう。おおよその介護費用については記載しましたが、その介護費用を親の年金、資産でカバーできるのかを知ることが重要です。カバーするのが難しい場合には、次の方法があります。
3.利用できる制度を調べる
介護費用についても、さまざまな助成制度や支援があります。
・介護保険制度
・高額介護サービス費
・高額医療・高額介護合算療養費制度
・確定申告での医療費控除
このほかにも、各自治体や医療機関が独自で助成金を出しているものもあります。
悩んだり迷ったりしたら、お住まいの自治体窓口や地域包括支援センター、かかりつけの医療機関に聞いてみると良いでしょう。
4.じっくり話し合いができる場を作る
介護方針を決める際、話し合いで確認しておきたいことは次の5つです。
・介護方針を決めておく(在宅・施設・遠距離など)
・親の資産や年金額を把握しておく
・主な介護者を決めておく
・資産管理者を決めておく
・親の資産や年金額で介護費用をまかなえない場合の負担割合を決めておく
トラブルを回避するためにも、まだ介護が始まっていない段階でも事前に話をしておくことをおすすめします。
親の介護には、体力・精神面、金銭面で大きな負担がかかります。どんなに仲が良い家族でも、介護が原因で関係に亀裂が入ってしまうこともあります。できれば、親の年齢が60歳を超えたら、家族間で相談する場を作りましょう。何回相談しても問題はありません。
一番大切なのは、お互いの負担を少しでも減らしていくことです。家族間での話し合いのなかで、悩んだり迷ったりしたら、ぜひ親の住んでいる自治体や地域包括支援センター、かかりつけの医療機関へ相談してみましょう。きっとトラブルを未然に防ぐ解決策が見つかるはずです。
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