日本の認知症患者数は、2025年に約700万人となる見込みで、65歳以上の高齢者の5人に1人にのぼると厚生労働省によって推計されています。そのため最近では、認知症の症状の一つである「徘徊」に悩まれる方が多くなりました。
在宅介護の場合、仕事や買い物、家事などを行っている際、ちょっと目を離した隙に親が出て行ってしまったという、ヒヤッとした経験をした方は少なくないはずです。これが「深夜徘徊」となるとどうでしょう?夜間も心配が尽きず、遠距離介護ならなおさら親の安全が気になりますよね。
今回は、高齢者の深夜徘徊の原因や、深夜徘徊への対策についてご説明します。
高齢者の深夜徘徊とは?
「徘徊」は認知症の「周辺症状」と呼ばれる症状の一つで、本人にとっては何かしら意味のある行動であることが多く、自力で歩ける限り、誰にでも起こりうる症状の一つです。自宅のトイレを探して、迷って歩き回るなどの症状が見られたら、外出する際には、親の姿を見失わないように注意した方がいいでしょう。
「深夜徘徊」は、日中に比べ、保護されるまでに時間がかかってしまい、目撃者の数も少ないため、行方不明に繋がりやすいといえます。深夜にトイレに行こうとして場所がわからなくなり、外へ出てしまうケースも多くあります。
深夜に家の外を徘徊してしまうと、交通事故など、命に関わる事故に巻き込まれやすく、弱して体調が悪化する場合や、暗い場所での転倒などによる怪我、熱中症や凍死など、さまざまな危険に遭遇する可能性もあるため、早急な対策が必要です。
加えて、「深夜徘徊」は介護者の負担も大きく、深刻な社会問題になっています。介護者で「睡眠不足」に悩まされている方は45.7%にのぼります。在宅介護をする介護者には、深夜徘徊を気にしてぐっすり眠れないという方も多いのではないでしょうか。
深夜徘徊につながる要因
認知症に限らず、高齢になると視交叉上核(しこうさじょうかく)の働きが弱くなります。視交叉上核とは、人の目の奥にある神経細胞の集まりで出来ている核のことで、生活リズムを調整する役割を担っています。
認知症になると、この視交叉上核の働きがさらに弱くなることで、昼夜逆転生活になりやすく、深夜に徘徊する大きな要因となります。また、睡眠相後退症候群(午前2時~4時などにならないと寝付けない、眠りに入る時間が後ろにずれてしまっている状態)や、不規則睡眠・覚醒リズム障害(決まった時間に睡眠できず、細切れな睡眠が不規則に起こる状態)などの睡眠障害を引き起こす可能性もあります。
そのほかにも、人によって深夜徘徊につながるさまざまな理由が考えられます。
<深夜徘徊につながる理由とは>
・引越し後の新しい環境に馴染めず、前の家に戻ろうとする
・途中で目的を忘れ、歩き回る
・トイレに行こうとしたが、場所がわからなくなる
・家族が留守にした時など、一人であることに不安を感じ、うろつく
・慣れない場所や人ごみに不安を感じ、そこから逃れようとして、歩き回る
・家族の顔など忘れることで不安になり、安心できる居場所を求めて外へ出てしまう
・感情のコントロールが効かなくなり、現実逃避で外出してしまう
・最近の記憶がなくなる一方で、若い頃などの記憶がよみがえる記憶障害の影響で、実家などに帰ろうとする。しかし周囲の様子が変化していることで戸惑ってしまう
・夜間せん妄により、幻覚や妄想、見当識障害などの症状が現れ、不安を覚えやすく、逃げようとして外出してしまう
夜間せん妄の場合、幻覚や妄想により不安や焦りで興奮状態に陥っていることが多いため、徘徊している時に興奮している様子だったり、話が全く通じなかったりする状態であれば、一度医師に相談してみてください。
親が深夜徘徊しそうだと感じた時の対応方法
深夜徘徊する理由や目的を考えてみる
高齢者は変化に対応することが苦手です。例えば、部屋の模様替えなど、私たちにとっては些細なことでも、高齢者にとっては脅威になることも。慣れ親しんだものが急に変わってしまったと感じ、そこから逃げ出そうとする場合があります。
親の様子が変だなと感じたら、最初に「何か以前と違うことをしていないか」を思い出すようにしてみるといいかもしれません。
深夜徘徊させないためにできることは?
できるだけ昼間の活動量を増やし、夜はきちんと眠れる習慣をつけるようにしましょう。また、孤独感の解消も重要です。認知症について理解、支援のある場所を活用するなどして、他者とのコミュニケーションをとることで、「ここから逃げ出したい」というような気持ちを持たせないようにしましょう。
やってはいけない対策や対応とは?
・一方的に押し付ける、できないことに怒ってしまう
認知症の高齢者は、相手の感情の動きに驚くほど敏感です。相手が怒れば、同じように興奮して怒る場合もあり、常に静かな気持ちで接することが重要です。また、身内であっても、高圧的な態度は、高齢者にとっては恐怖の対象でしかありません。
・外から鍵をかけて部屋から出られないようにする
親が「閉じ込められた」と感じ、かえって不安になってしまう恐れがあります。抑えられていた感情が爆発し、普段絶対にとらないような行動(たとえば、窓などから飛び降りようとするなど)を突発的にしてしまうこともあり、危険です。
・靴を隠す
家族への不信感が高まり、一層の不安を強めてしまう恐れがあります。また、裸足で出かけてしまうこともあります。
実際に深夜徘徊が発生したときには
いざ、親が深夜徘徊して行方がわからなくなっても、「周りに知られたくない」、「大ごとにしたくない」と考え、家族だけで探そうとして手遅れになる場合も少なくありません。できるだけ早い段階で警察に捜索願を出すことが賢明です。
また徘徊の恐れがある場合は、交番に徘徊の可能性と身体的な特徴など、必要な情報を共有しておくと、いざという時に安心です。
親の深夜徘徊を防ぐ対策と具体例
深夜徘徊を防ぐための対策は、自分で工夫してできることから市販の商品を使ったものまで多岐にわたります。しかし、高齢者自身の操作が必要な商品などは、扱いが難しい場合もあります。特に遠距離介護ならば、介護者がそばにいてサポートできないことも考えられますので、徐々に慣れてもらうようにしましょう。
自分でできる徘徊対策
思い立ったら比較的すぐにできることも意外と多くあります。親の認知症の症状が軽いうちに、できそうなものから取り入れてみてはいかがでしょうか?
・トイレに行こうとして、場所がわからなくなることを防ぐために、トイレまでの廊下の明かりをつけておく、トイレのドアに大きく「トイレ」と書いた紙を貼るなどして迷わない工夫をする
・玄関に鈴やセンサーなどを取り付け、ドアを開けたら音がするようにしておく
・玄関に本人が興味や関心があるものを置いておくことで、すぐに外に出てしまうことを防ぐ
・出かける時間帯や歩くルートをあらかじめ把握するようにする
・洋服の裏側に名前や住所を書いておく
・バックやポケットに名前や住所を書いた紙を入れておく
・GPSの付いた靴を活用する
ただ、一度に新しいことを試すことは、高齢者にとっては負担が大きいので、親の様子をみながら取り入れてみましょう。これらの対策によって「絶対大丈夫」というような過度な期待は持たないようにし、親の状態に合わせて試行錯誤することや、常に注意することを忘れないようにしましょう。
また離れて暮らしていても、見守りカメラの設置やビデオ通話のサポート、病院・外出先への付き添い等の介護保険外サービスを利用し、親を見守ることもできます。
※詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
「離れて暮らす親が認知症かも?と思ったときに考えておきたいことと活用できる介護サービス」
ほかにも遠距離介護に介護ロボットを活用し、両親が徘徊していることが分かると、契約している介護スタッフに連絡して、探してもらうようにしていたというご家庭もあります。
※詳しくは、こちらの記事をご覧ください。
「離れて暮らす親の見守りをIT化!事例やポイント、おすすめ機器を紹介」
こういったサービスを利用して、深夜徘徊の危険を未然に防ぐことも一案です。必要に応じて適切な介護サービスを利用すれば、在宅介護や遠距離介護の負担も軽減できそうです。
認知症は、もはや珍しい病気ではありません。「徘徊」という言葉は、どうしても、認知症に対するネガティブなイメージを与えてしまいがちですが、「徘徊」を 「ひとり歩き」 などの言葉に言い換える自治体も増えてきました。実際、認知症の方にとっては、普通の外出と同じ感覚だといいます。「なぜ徘徊するのか?」ではなく、「どうしてひとりで出かけたくなるのか?」と、親の気持ちを考えることが、深夜徘徊を未然に防ぐヒントになるのではないでしょうか。
そして、認知症に対する制度や取り組み、対策商品の開発なども増加し、介護の選択肢は広がっています。介護サービスを利用することで、親の介護を行うあなた自身も、時間と気持ちの余裕を持つことができます。「他人の世話になるのは、親が嫌がるから」などと躊躇せずに、訪問介護やデイサービス、デイケアなどを積極的に利用するようにしましょう。
また、最近では、介護保険だけではカバーしきれない、きめ細やかな対応ができる介護保険外サービスも注目されています。遠距離介護をする人にも心強い味方になってくれるはずです。大事なことは、あなた一人で全てを抱え込まないようにすることです。家族や介護サービスの担当者、近隣の力になってくれる人にサポートしてもらいながら、深夜徘徊への対応をしていきましょう。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。
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