遠距離介護中の親が「危篤」になる前に〜慌てないために知っておきたいこと〜

高齢の親を遠距離介護している場合、悩みの種の一つが、何かあった時にすぐにかけつけることの難しさです。特に病院から「危篤になった」と連絡があっても、冷静に対応できる方は少ないのかも知れません。

遠方に住んでいる方の場合、近場に住んでいる方よりも「何を準備しておけばいいのか」「危篤になった時、どうすれば良いのか」と悩むことも多いでしょう。ですが、事前にやるべきことを知っておけば落ち着いて対応することができます。

今回は親が危篤になった際に知っておきたい葬儀やお墓の知識を中心に、遠距離介護中の親が危篤になった時にどうすれば良いのかについて「わたしの看護師さん」代表の神戸 貴子がアドバイスします。

葬儀のあり方、お墓についての考え方は時代と共に変わりつつある

昔と比べて、葬儀への向き合い方は変わってきていますか?

大きく変わってきていると思います。葬儀に出たことはあっても、ほとんどの方が喪主になった経験はないですよね。「私の看護師さん」の会員様からも「どうしたらいいの?」とよく相談されます。

昔であれば、地元の物知りなおじさんやおばさんが助言をくれたり、付き合いのある親戚に手伝ってもらったりすることもあったと思いますが、今は核家族化が進み、近所との付き合いが希薄になっていますよね。頼る先もなく、いざという時に困ってしまう方が多くなっているなと感じます。

親御さんが危篤状態になった時、病院や施設から「関わりのある葬儀屋さんはありますか?」と聞かれるかと思います。でも早くに地元から出たお子さんだと、「親御さんがどんな葬儀屋さんとお付き合いがあった」とか、「地元にどんな葬儀屋さんがあるか」などの情報を知らないことがあります。ですので、病院や高齢者施設とお付き合いのある葬儀屋さんから選ぶことになりやすいですね。

―確かに、お葬式を取り仕切る機会は早々ないので、いざとなると困る方も多そうです。ではお墓やお寺についてはどうでしょうか?

昔は、先祖代々のお墓は長男が受け継いでいくという考えが多かったかと思います。でも今は、そういう考えがなくなりつつありますよね。例えば「同居しているのは次男夫婦」とか「地元に残っている長子以外の子がお墓を管理している」とか。絶対一番上の子がやるものだという風習は今後さらになくなっていくと思います。

お寺側も変わってきていて、以前であればこの宗派で葬儀をしたいと思っても、檀家でなければ断られてしまうこともありました。でも今は、宗派に関わらず来ていただけるお寺、お坊さんもいます。自分の家の宗派を知っておくに越したことはないですが、いざとなれば葬儀の時だけのお付き合いのお寺やお坊さんを選ぶことができるようになり、昔よりも考え方が柔軟になってきていると感じます。

希望の葬儀やお墓にするために。親の思いと費用の確認は欠かせない

―葬儀にはどれくらいの費用がかかるのでしょうか?

親御さんが亡くなって悲しいという気持ちもありつつも、現実問題として葬儀にかかるお金の心配はしてしまうものですよね。葬儀の形態によって費用が変わってくるので、まず葬儀にまつわるお金を確認した上で、どんな葬儀にするのかを考えてほしいと思います。

例えば、親御さんが葬儀屋さんの互助会に入り、葬儀の費用を積み立てていることもあります。知らずに別の葬儀屋さんを利用すると、金銭的にもったいないので、自分の親がどのように葬儀に備えているのかを事前に調べてみてください。

ただ、葬儀屋さんの積立には注意が必要な点があります。それは親御さんが加入しているプランによっては、望んでいる葬儀ができない可能性があるということ。最近は家族葬が増えてきましたが、加入しているプランでは選択できないケースもあるので、確認してみてください。また事前に葬儀屋さんを選んでおくと、費用の負担を減らしてくれる場合もありますので、相談してみるのも手かもしれません。

―お墓や納骨について準備しておくことはありますか?最近は、様々な納骨方法の情報を目にする機会がありますね。

最近はお墓を建てることにこだわらず、樹木葬や、お寺に希望の期間だけ個別に遺骨を納めて、その後は合葬するという形を取るなど、多様な選択肢が出てきました。四十九日法要を経て納骨するのが一般的な考え方かと思いますが、中には納骨をせずに持ち歩くことを選択されるご家族もいらっしゃいます。

私が関わった高齢のご夫妻には「先に亡くなった夫の遺骨を、自分の遺骨と一緒に埋葬してほしい」と希望される方もいました。ご家族ごとに心地よく感じる納骨の方法があるかと思いますので、時期が来たからと慌てて納骨する必要はないですよ。

―そうなんですね。そういえば、私の母も「海洋散骨に興味がある」と話していました。本当に多様化してきていると感じます。

大切なのは、事前に親御さん、お子さん双方の希望を共有しておくことだと思います。例えば、「どんな形の埋葬方法を望むのか」「埋葬するなら、田舎が良いのか、子供が住んでいるところが良いのか」などについて。緊急の課題ではないですが、考えておくと良いですね。私も今のうちから「田舎のお墓とは、違うところに」とか「新しいお墓は、建てなくても良いな」というふうに考えていますよ。

遺骨をすぐに引き取れないときはどうしたら良いでしょう?

海外に住んでいるなど遠距離にお住まいで、危篤になったと連絡を受けてもすぐに向かえない方は、遺骨の一時保管場所を検討しておいてください

実家がある場合は良いのですが、住まいを処分してしまっている場合だと保管場所の確保が難しくなります。どこに預けられそうか、お寺にお願いできそうかなどを検討し、事前に依頼先に相談してみてください。また火葬されるタイミングが地域によって違うので、「自分の地元は葬儀前と葬儀後のどちらに埋葬するのか」を知っておくのも良いと思います。

大切なのはコミュニケーション。親が危篤になる前の準備を充実させる

葬儀屋探しのポイントはありますか?

お葬式について何の希望もなければ、病院や施設に相談したり、おまかせできたりする場合もあります。でも「こんな葬儀にしたい」という思いがあるのであれば、事前に準備をする方が親が望んだ形でのお葬式になります。できれば親が元気なうちに、ご家族で話し合っておくのが一番良いですね。

いよいよ体調が芳しくなくなってから、お葬式の話をするのは気持ちの良いものではありません。ですから、エンディングノートや今後のことを、笑って冗談が言えるような状態の時に「誰を呼びたい?」「どんなお葬式が良い?」と、聞いておくのが良いのではないでしょうか。希望を共有しておけば、実際にお別れの時が来ても、慌ただしい状況で故人を送り出すことがなくなると思います。

遠方に住んでいて、親が危篤になってもすぐに帰れない場合にはどうすればいいですか?

まずは病院や施設に、契約した葬儀屋さんの連絡先を伝え、親御さんが亡くなった際には、ご遺体の移送を葬儀屋さんに依頼してもらいましょう。

ここでの大切なポイントは、あらかじめ葬儀屋さんにご遺体を保管しておく冷凍室の設備があるのかを確認しておくということです。もし、そういった設備がない場合にはすぐに葬儀をしなければならなくなってしまいます。

また、棺に入る時の服装の準備も必要になります。すぐに帰れないことがわかっている場合はあらかじめ準備をしておいて、サポートをしてくれる方に病院や施設への持ち込みをお願いしておいてください。「わたしの看護師さん」でも服を預かって持ち込むこともあります。地元に頼る人がいない場合はサポートをしてくれるサービスを利用することもできます。

そして、病院や施設の部屋に置いていた私物の持ち帰りについても、考えておく必要があります。病院では看護師さんが荷物を片付けてくれますが、そのまま置いておくことはできず持ち帰らなければいけません。「私物を誰が持ち帰るのか」「どこに保管しておくのか」などを決めておくと良いですね。施設であれば、部屋を月契約している場合、その間は私物を保管してもらえます。どういう契約になっているのか、施設に確認してみてください。

遠方に住んでいる方は、親御さんの近場に住んでいる方よりも、様々な事前確認が重要になります。大変だと思いますが、親御さんのため、そしてご自身のためにも細やかに準備をするように意識してみてください。

親が亡くなることはできれば考えたくないものです。しかし、向き合おうとせず、いざ別れがやってきてから慌てて準備をするのでは結果的に心残りがある葬儀になりかねません。遠距離介護をしている方の中には、「親とコミュニケーション不足になりがち」「特に葬儀やお墓のことは話しにくい」という方もいらっしゃることでしょう。ですが、少しでも気持ちよく送り出してあげるためにも、たくさん会話を重ねてみてください。

葬儀やお墓に関することは事前準備や確認がとても重要です。一度にすべてのことを解決する必要はありません。少しずつ時間をかけて親子双方の考えをすり合わせ、希望に合わせて準備していくことで、遠距離介護を安心して続け、満足のいくお別れの時につなげていけると良いですね。


介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

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