地震や水害などが相次いで発生している近年、災害への備えを行うことは非常に大切です。
特に高齢の親を介護している方は「何を準備しておいたらよいのだろう」、また遠距離介護中の方は「そばにいないときに災害が起こったらどうしよう」「誰に頼ればよいのだろう」と不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。
介護が必要な高齢者は、災害発生時から避難生活まで特に配慮が必要です。そこで今回は、介護中の高齢者に必要な災害の備えと、災害が起こった時に頼れる支援についてご紹介していきます。
災害はいつ起こるか分からないだけに、不安になるのは当然です。しかし、事前に備え、シミュレーションをしておくことで、不安を安心に変えていけます。どの備えも今日から実践できるものばかりです。いざというときに慌てずに行動できるように、準備していきましょう。
災害発生時に、介護中の高齢者が直面する4つの問題点とは
高齢者が災害時に直面する一番の問題として、自力での避難が難しいことが挙げられます。この他にも起こりうる問題があります。ここでは、4つのポイントに絞ってご紹介します。
1.自力での避難が難しい
杖や車いすを利用していると自力での避難が難しく、自力で歩ける場合でも、移動が長距離になると逃げ遅れる危険性があります。特に遠距離介護中で家族がそばにいない方は、近隣住民や自治体のサポートが必要になってきます。
2.介護生活に必要な物資が不足する
災害時は、水や食料と同じように介護用品も不足します。特に、介護生活に欠かせないおむつや介護用食品、命に関わる薬や医療品などは必要な量を確保しておきましょう。また、災害発生時に困ることの一つがトイレです。断水に備えて簡易トイレなどを準備しておくと安心です。
3.連絡がとれなくなる
特に遠距離介護中の方は、災害発生時に親と連絡がとれなくなる可能性があります。サポートをお願いしている近隣の方や、ケアマネジャーさんの連絡先を控えて、いざというときに連絡が取り合える体制を整えておくことをおすすめします。
4.避難所生活に適応しづらい
災害の種類や程度によっては、長期間避難所等で生活をしなければなりません。しかし、指定避難所はバリアフリーなどの設備が整っていないことが多く、在宅介護中の方は避難所生活に適応しづらいといえます。また、高齢者は環境の変化で心身に不調をきたしやすく、食欲の低下、身体機能の低下が起こります。結果、感染症の発症、転倒による骨折など災害関連死につながる恐れがあります。
介護中の高齢者に必要な災害への3つの備え
災害時の備えのポイントは「避難の仕方」と「備蓄品」です。今日から実践できる3つの備えをご紹介します。
1.避難方法を知る
ハザードマップなどで指定避難所、福祉避難所の場所を確認します。福祉避難所とは、特別な配慮が必要で、一般の避難所では生活が困難な方を受け入れる避難所です。福祉避難所に直接避難ができる自治体も増えているようですが、一旦一次避難所に避難するのか、事前に自治体に避難方法を確認しておきます。
2.自宅内の避難経路を確保する
スムーズに避難ができるように、自宅内の避難経路を確保しましょう。家具や冷蔵庫は、L字や突っ張り棒などで固定し、棚の上に重たい物が乗っている場合は、下におろしておきます。また、整理整頓と不要な物の処分を行い、逃げ道をふさがないようにしておきましょう。
3.緊急持ち出し用、自宅避難用の備品を準備する
特に介護生活に欠かせないおむつなどの介護用品は、準備しておきましょう。自宅で避難生活を送るためには、3日~1週間程度の量を目安に備蓄しておく必要があります。
災害前に準備しておくとよいものには次のようなものがあります。介護中の親の身体の状態に合ったものが準備できているかチェックしてみてください。
・薬とお薬手帳
糖尿病、高血圧などの疾患を持っている方は、継続的に薬を飲まなくてはなりません。そこで、かかりつけ医と相談してどの薬をどのくらい準備しておくべきかを事前に確認しておきましょう。また、お薬手帳があると、薬がなくなってしまった場合にスムーズに処方してもらえます。
・衛生用品
避難所は、不衛生になる場合もあり、感染症が流行しやすくなります。特に高齢者は感染すると重症化のリスクが高まるので、感染症予防が重要です。入れ歯洗浄液、歯ブラシ、マスクなどの口腔ケア用品や、食中毒、感染性胃腸炎予防のための手指の消毒液、ウエットティッシュを準備しておきましょう。
・普段食べ慣れている食品
避難所での食事は、おにぎりやパンなどが多く、嚥下機能が衰えている方は誤嚥性肺炎の危険性が高まります。そのため、普段食べ慣れている介護用食品や、お水やお茶に簡単にとろみをつけられる、とろみ剤を準備しておくと安心です。
・予備のバッテリー
電気式の医療機器を使用している方は、停電時の備えが必要です。内部バッテリーはあくまで非常用のため、長時間使い続けることができません。電力を賄う手段として予備バッテリーを準備しておくことをおすすめします。
遠距離介護における災害への備え。「避難行動者要支援者名簿」に登録する
避難行動要支援者名簿は、自力避難が困難な方(避難行動要支援者)を把握するための名簿で、災害発生時に避難支援や安否確認に活用されます。平成25年に災害基本法が改正され、市町村での名簿の作成が義務化されました。
ここでは、避難行動者要支援者名簿の登録手順と支援内容について説明します。
<避難行動要支援者名簿の登録手順>
・対象者
災害時に自力での避難が難しく、支援を必要とする方が対象になります。災害情報の取得能力、避難方法についての判断能力、避難する際の身体能力の有無に着目して判断されます。避難行動要支援者の対象者については、各自治体によって基準が異なるため確認が必要です。
・登録方法
各自治体の窓口で登録の手続きを行います。名簿には、氏名、生年月日、住所、連絡先の電話番号などを記載します。条例による特別の定めがある場合、または本人の同意を得ている場合は、避難支援等関係者(消防、警察、民生委員、自称防災組織等)に平常時から名簿の情報が提供されるため、迅速な支援に結びつきます。提供された情報は、秘密保持義務によって厳重に管理されます。
・支援内容
災害発生時、または発生のおそれが明らかになった時点で、名簿情報に基づいて指定避難所などへの避難支援と安否確認を行います。また、避難行動要支援者の生命を守るために特に必要があると認めたときは、事前に本人の同意が得られていなくても、避難支援等関係者に情報が提供されます。ただし、避難支援者(災害情報を伝える、一緒に避難するなどの支援を行う)の安全確保が前提での活動のため、災害時の支援が必ず保証されているのではないことを認識しておいてください。
日頃から心がけておくと災害時にも役立つこと
今回ご紹介した災害への3つの備えにプラスして、日頃から心がけておくと災害時に役立つことをご紹介します。
1.地域の人々との交流を深める
遠距離介護中の方は、親の近隣住民、親しい友人などを把握し、日頃からの見守りや災害時の避難のサポートをお願いしておくと安心です。帰省した際には挨拶に行くなどして、友好的な関係を築いておきましょう。また、いざというときに困らないために、ケアマネージャーやかかりつけの病院などの連絡先をまとめておきます。
2.点検を実施する
備蓄品の賞味期限の確認や、家の中に危険な場所がないかを点検します。在宅介護中の方で、電気式の医療機器や福祉用具を使用している方は、非常時でも機器が作動するよう、外部バッテリーを正しい方法で常に充電しておきます。また、外部バッテリーには寿命があるため、定期的に新しいバッテリーと交換しておきましょう。
3.シミュレーションを行う
通常は電動で使用する医療機器の中には、手動で動かせるものも多いため、動かし方を知っておくことで停電しても慌てずに対応できます。かかりつけ医、ケアマネジャー、取り扱いメーカーなどに事前に確認しておくと安心です。
2階で介護をしている場合は、1階に移動させるために人手がどれぐらい必要なのか確認しておきましょう。近隣の方にお手伝いをお願いしておく必要があるかもしれません。もしくは、部屋を1階に移動させることも検討してみましょう。
4.外部サービスを利用する
遠距離介護中の方は、高齢の親が住んでいる場所で災害が起こったときに、頼れる支援があるのか心配な方も多いと思います。信頼できるサービス、支援者を見つけ、日頃から相談しておくことが大切です。ここでは、介護について相談できる場所や、見守りサービスについてご紹介します。
・地域包括支援センター
各市町村に設置されており、介護や福祉などの相談が無料で行えます。65歳以上の高齢者の方と介護に携わっている方が利用できます。専門スタッフが必要なサービスを紹介して、適切な介護事業者や医療機関、行政機関などへの調整や橋渡しを行います。
・見守りサービスを利用する
遠距離介護中の方におすすめなのが見守りサービスです。利用者の自宅にカメラを設置し、健康状態や生活状況が確認できるカメラ型のサービスや、プライバシーに配慮したセンサー型の見守りサービスなどがあります。また、自治体によっては見守りサービスを実施しているところもあります。
今年のはじめに能登半島地震が起こり、災害への備えには、近隣住民や自治体とのつながりが大切なことを改めて感じました。能登半島地震が起きた際、高齢化率が約6割にも関わらず、地域のつながりが功を奏し、津波による死者が出なかった町があります。
私の住む地域でも、高齢の一人暮らしの方が多くおられます。日頃から挨拶をする、おすそ分けをしあい交流するなど、高齢の方のことも気にかけ、地域ぐるみでつながりを持つように心がけています。また、避難訓練の際には、近くに住むみんなで声をかけあって、一緒に避難をする訓練を行っています。この小さな積み重ねが、高齢者を含め同じ地域に住む人の命を救うことにつながるのだと思います。
家族だけでは不安な方、遠距離介護でそばにいられない方は、ぜひ自治体、ケアマネジャー、近隣の方などにサポートをお願いしてみましょう。日頃から備えておくことで、いつ起こるか分からない災害への不安が減り、いざというときに落ち着いて行動ができます。今回の記事を参考に、今日からできることを実践していきましょう。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
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