経済産業省の調査によると、2030年には家族介護者833万人のうち、ビジネスケアラーは約4割の318万人になると予想されています。「親のそばで介護をしたいけれど、生活のために仕事を手放せない」と、遠距離介護を選択する方も少なくありません。
介護をしながら仕事をしているビジネスケアラーの中には、「自分の介護スタイルに合った知識を得たいが、必要な情報を選ぶ時間がない」という方もおられると思います。
そこで今回は、ビジネスケアラーの実体験が書かれたおすすめの本を3冊ご紹介します。読書によって遠距離介護のリアルな声が聞けるとともに、しっかりと介護の知識を身につけることができます。書籍に紹介されている体験談や、記事の最後で説明するビジネスケアラーの現状や遠距離介護のポイントを参考に、ご家族の形にあった介護のあり方を見つけてください。
おすすめの介護本①
親とのコミュニケーションのズレによるストレスを軽減したい方に
『介護のことになると親子はなぜすれ違うのか ナッジでわかる親の本心』(神戸 貴子、竹林 正樹、鍋山 祥子 著)
高齢の親に「〇〇してほしい」と説得しても、思った通りに行動してくれないと悩んでいませんか?
人間の行動や心理には、「認知バイアス」という共通のパターンがあります。認知バイアスとは、自分に都合よく解釈を歪めてしまう習性のことです。高齢になると、現状を好み変化を嫌うようになる「現状維持バイアス」が特に強くなります。
そこで高齢者でありがちな認知バイアスに対し、行動を変えやすくする仕掛け「ナッジ」に注目したのがこの本です。「頭では分かってはいるけれど、行動できない」という親の心をくすぐる仕掛け「ナッジ」を解説しています。
8つのエピソードを元に、親に合わせた「ナッジ」を設計
本書では「介護認定を受けるように提案したら怒りだした」「介護は家族がするものという固定概念がある」「免許返納を進めるも口論になる」など、8つのエピソードを元に、認知バイアスの特性に合わせた「ナッジ」を設計して、親の行動をうながす方法を提案。
親と口論になったり、かみ合わなかったりした場合に、認知バイアスが働いているからだと考え方を変えるヒントを得ることや、「ナッジ」でアプローチすることで、親とのコミュニケーションによるストレスを軽減することができます。
<「私の看護師さん」スタッフレビュー>
介護の専門家がすぐに実践できるヒントをアドバイス
私も実際、80代の父親が免許返納をしてくれないため困っている一人です。「何か起きてからでは遅いと分かってはいるけれど、親子関係が悪くなることも怖い」、そのようなモヤモヤを抱えていたときに出合ったのが、この一冊でした。現在も免許返納の話は平行線のままですが、家族で「ナッジ」でアプローチしながらの説得を試みています。
この本は、親と家族の対話形式で進み、共感するエピソードが多いためどんどん読み進められます。3人の専門家が、介護者に寄り添った具体的なアプローチ方を提案しており、すぐに実践できるヒントがつまっています。
おすすめの介護本②
遠距離介護のリアルな体験談を知りたい方に
『遠距離介護の幸せなカタチ 要介護の母を持つ私が専門家とたどり着いたみんなが笑顔になる方法 』(柴田 理恵 著)
俳優の柴田 理恵さんが、東京に暮らしながら富山のお母さんの遠距離介護をした体験談や専門家と柴田さんの対話を一冊にまとめた本になります。お母さんとの関わり方、事前に知っておけばよかったことなどリアルな声を聞くことができます。
遠距離介護はどうすれば上手くいくのか、在宅介護や医療が必要になった場合にやるべきことは何か、介護にかかるお金の問題についても詳しく解説されています。
「遠距離介護中で、仕事を辞めて実家に帰るべきか、親を呼び寄せて同居すべきだろうか」「どのようにすれば離職せずに介護ができるのか」「介護にかかる費用、介護保険サービス、介護保険外サービスの利用の仕方がわからない」などを悩んでいる方に役立つ一冊です。
<「私の看護師さん」スタッフレビュー>
親のそばにいなくても幸せな介護はできる
柴田さんの体験談を通して、仕事を続けながら、遠距離介護を実践する方法を知ることができます。お母さんが一人でも暮らせるように行った準備や具体的な介護費用も書かれているため、遠距離介護をイメージしやすくなっています。
特に印象的なポイントは、柴田さんが日頃の会話を通じて、お母さんの考え方を理解されていること。「延命治療は必要ない」「いつまでも自分の家で暮らしたい」といった、親の希望や大事にしたいことを把握しておくことが、介護方針を決める上でとても重要だと感じさせられる一冊です。
おすすめの介護本③
親の近くで介護できないことに悩むビジネスケアラーに
『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(山中 浩之、川内 潤 著)
編集者の山中 浩之さんが、東京で仕事を続けながら新潟で暮らすお母さんの「遠距離親不孝介護」に挑んだ実体験を綴っています。
親不孝介護とは「介護=親のそばにいて面倒をみること=親孝行」というイメージを払拭して、親に近づきすぎず適切な距離を取ることでストレスを軽減しながら、介護に取り組む姿勢を指します。
遠距離介護に取り組んだ5年間を「NPO法人 となりのかいご」代表の川内 潤さんと振り返りながら、学ぶべきポイントが分かりやすく解説されています。会社員やビジネスケアラー
が介護をするために役立つノウハウがぎゅっとつまっています。
<「私の看護師さん」スタッフレビュー>
離れて暮らしていても親孝行
親孝行で始めたはずの介護が、関係が悪化して虐待などの犯罪につながってしまうことは避けなければなりません。遠距離介護を親不孝のように感じる方もいますが、適切な距離をとることでかえってストレスが軽減し、お互いが穏やかに暮らすことができる場合も。
この本を読んで、離れていても親孝行はできるという考えに触れることで、親のそばで介護をするべきという常識を切り替えるきっかけを得ることができるのではないでしょうか。すでに同居中で距離をとることが難しい方へのアドバイスも書かれており、働きながら親の介護を行うノウハウを知ることもできます。
介護のことを勉強すべきと頭では分かってはいるけれど、まだ考えたくないと先延ばしにしている方や、介護を始めたけれど、親に厳しい言葉を投げかけてしまうなどして自分を責めてしまっている方にぜひ読んでもらいたい一冊です。
仕事を続けながら遠距離介護に取り組むポイント
今回の記事では、実際に介護を体験したビジネスケアラーの書籍をご紹介しました。最後に、ビジネスケアラーが抱える悩みや、遠距離介護が始まる前にしておくとよいことについて解説します。
ビジネスケアラーが抱える悩み
1.肉体的・精神的疲れ
ビジネスケアラーは介護と仕事の両方を担うため、肉体的負担が大きくなります。親の体調によっては、急に仕事を休まなければならないこと場合があり、遠距離介護中であれば、帰省にも時間を要するでしょう。
また、責任感が強い人ほど「親の面倒は自分がみなければならない!」と自分を追い詰めてしまい、離職を選択するケースも。経済産業省の調査で、2020年はおよそ7万人が介護離職したとの報告があります。
2.経済的負担
遠距離介護では、親の居住地との距離が離れるほど、帰省する際の交通費は高額になります。また見守りカメラの設置など、設備面での費用も発生しやすくなります。介護保険サービスに加えて、介護保険外サービスを利用する場合は、介護費用がさらに増加してしまいます。
遠距離介護のポイント
いざ遠距離介護が始まったときに慌てないために、次の2つのことを心がけておくとよいでしょう。
1.事前に介護に関する知識をもっておくこと
介護の問題は、ついつい先延ばしにしがちですが、突然始まる可能性もあります。何も知らない状態では、「何をしてよいのか分からない」とパニック状態に陥ることも。今回ご紹介した書籍でも、早めに介護の知識をもっておくことの重要性を伝えています。
2.相談窓口や介護の専門家に早めに相談をすること
各自治体には地域包括支援センターが設置されており、介護に関する不安や悩みを無料で相談することができます。介護が始まる前から、介護認定や介護サービスのことなどの情報を得ておくと安心です。
少しでも親の様子に変化を感じた場合は、早めに親の居住地の地域包括支援センターや信頼できる介護の専門家に相談しましょう。
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介護の問題は、夏休みの宿題のようについつい先延ばしにしがちです。私も介護の専門書を手に取りながらも、向き合うことができずにいました。しかし、親の介護は、明日突然始まるかもしれません。
今回ご紹介した3冊は、難しい介護の専門書とは趣が違って、体験談が多く書かれているため、身構えることなく読み進めることができます。知っておいてよかったと思う内容が多く含まれていて、介護に対する不安が軽減されました。すでに遠距離介護を実践中の方も、悩みを解決する糸口を見つけるきっかけになればと思います。
いざ親の介護が始まったときに慌てないために、今回ご紹介した3冊を読むことからはじめてみませんか。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。
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