「高齢者が身近にいない」若者の介護意識の変化

現役世代の多くは都市集中型のライフスタイルで、夫婦での共働きも多くの世帯で見られます。加えて核家族化も進み、10代や20代の若者は「高齢者が近くにいない」環境で育つことも決して珍しくありません。そうなると、必然的に「介護」と触れる機会も少なく、「親の介護」についての認識も変化しつつあるようです。

こういった介護環境の変化に、若者は「親の介護」についてどう考えているのでしょうか?今回は、若者を取り巻く介護環境の変化。そして、10代から20代の若者に「親の介護」について話を聞いた内容を紹介します。

若者を取り巻く介護環境の変化

日本における合計特殊出生率(1人の女性が生む子どもの平均値)は、この50年で随分と低下しました。1940年代には、その値が4を超えていたにもかかわらず、今ではわずか1.4程度です。一方で、2021年において、日本の総人口は1億2557万人。2025年には、65歳以上の方ひとりを20歳の方1.8人が支えることになると推計されています。

こうした少子高齢化が進む背景の中には様々な問題が潜んでいます。ここではその問題のいくつかや、若者への影響について紹介します。

日本における三世代家族の減少について

三世代家族とは、祖父母世代、子世代、孫世代という三つの世代が同居している家族のことを言います。日本ではこれまで、この家族形態が一般的でした。しかし、出生率は年々減少していることに加え、都市型一極集中により、三世代家族の全体数が減少しています。その結果、今の若者は「身近に高齢者がいない」環境で育ち、高齢者に対する理解が低い人も増えてきています。

高校生の福祉・介護への関心

広島県が高校1−2年生に向けて行った調査によると、福祉・介護の仕事をみたり体験したことは「ない」と回答した人が半数以上でした。

(平成27年:若者の「福祉・介護」に関する意識調査より)

また、私たちが公立鳥取環境大学とともに実施した「若者世代の介護意識調査」では、

若者の3割が「介護保険制度」を「知らない、わからない」と回答。介護について相談できる「地域包括支援センター」の存在も多くが知らないと回答があり、介護に関する知識や親自身の介護に関する希望、資金、きょうだい間の分担など、事前準備が不十分なまま親の介護を迎える可能性が示唆されました。

このように、若者にとって福祉や介護は遠い存在なのが現状です。

毒親や複雑な家族関係により、介護を拒む若者たち

ここ最近、ネット上では「僕は親を捨てました」といった目を疑うような見出しの記事が発信されたり、「家族を捨てること」をサポートするサービスもあるようです。

(参考:「僕は親を捨てました」30代男性が告白。カネの無心に追い詰められて)

その背景には、一体何があるのでしょうか。

ひとつは、幼い頃に劣悪な家庭環境を体験したということが挙げられます。例えば、両親のどちらかが不倫を繰り返し、夫婦喧嘩が絶えなかった。あるいは、父親が母親にDVを繰り返し、誰かが傷つく姿を目にしていたということもあるかもしれません。そういった見たくない過去を連想させるような親に対して、子どもは介護をしようという気になるでしょうか?

おそらく、「あの頃を思い出したくない」、「あんな親の面倒をみてやるもんか」と、もつれ絡んだ家庭関係を終わらせたいと切望する人も少なくないはずです。こうした気持ちになってしまえば、弱りきった親に対して優しくする義理はないと、遂には家族じまいになってしまうことも想像に難くありません。

ほかにも、虐待や酒癖の悪さ、ギャンブルや仮面夫婦など、決して良いとはいえない要因が親の介護を拒む理由になります。

もうひとつは、自分の親が「毒親」であることも挙げられます。

毒親とは?過干渉や暴言・暴力などで、子どもを思い通りに支配したり、自分を優先して子どもを構わなかったりする「子どもに悪影響を与える親」のことを指す。

毒親によって、自分の意見やプライバシーをコントロールされていた経験があったり、過度に依存されていたりと、「親のせいで人生を狂わされた」と感じている人もいます。こうした人は、大きくなっても親と接することに強いストレスを感じることがあります。大人になるにつれて親を恨んだり、親と関わりたくないと思うようになると、絶縁することを選択する人も出てくるのです。

若者から見た介護のイメージ

では、実際に若者から見た介護に対するイメージとはどのようなものなのでしょうか?今回は、10代、20代の若者に「介護について」意見を聞いた事例を紹介します。

テーマ

・介護についてどのようなイメージを持っていますか?

・介護をしている人、または受けている人は周りにいますか?

・もし突然、あなたの家族に介護が必要となった場合あなたはどうしますか?

・高校生Kさん(16)

介護と聞くと、第一に面倒くさそうだと感じます。私自身が高齢者と接するのが苦手なので、良いイメージを持ったことはありません。また、私の周りには介護に携わる人もいないので、介護に対して馴染みもなかったです。テレビなどで介護従事者の姿を見てストレスが溜まりそうだなと思っていました。自分が介護するのは嫌なので、施設を利用することを検討します。

・大学生Nさん(19)

私の祖母が介護を受けているので、今までも介護について考える機会がありました。もし、家族に介護が必要になったら、第一に家族で相談します。今の私だと経済的に厳しいので、大学卒業までは両親に委ねて、休日は兄弟と分担して自分も積極的に介護します。けれど、両親に介護が必要になると、家族内に働き手がいなくなるので、親戚と話し合ったり、大学を辞めて働きながら介護をするという選択肢を取ると思います。

・大学生Tさん(20)

介護の仕事は素晴らしいと思うものの、体力・精神的にも厳しいイメージがあります。私の祖父がヘルパー介護を受けており、介護は身近に感じていました。けれど、自分が介護をするとなると嫌だなと思います。親の介護を支援できる経済力があれば、施設に入れたりもしたいけど、その時に家族の意見を尊重することを一番に考えたいです。

このように、若い人の介護に対するイメージはネガティブな意見も多いものでした。ですが、自分はできるだけ介護はしたくない、施設に入れたいという思いがある一方で、「親の意見を尊重したい」や「大学を辞めて介護をする」と、家族に寄り添いたいという意見もありました。

まずは「介護」について知ることから

これまで、若者の介護観について紹介してきましたが、縁遠い介護もいつか必ず訪れます。今の若者は何に気をつけ、どのように介護に備えるといいのでしょうか?最後に、介護に必要な心構えや事前準備について紹介します。

介護に対する向き合い方

介護は突然やってくるものです。そのため、早めの準備が重要なのです。特に意識しておきたい心構えとして、「自分一人や家族だけで抱え込まない」、「頑張りすぎない」ということが挙げられます。

介護はとても大変なものです。しかし、真面目な人ほど頑張りすぎてしまう傾向があります。困ったときは誰かを頼ること。一人で解決しようとせず、誰かに相談する勇気を持つことが大切です。

次に、事前準備として経済的な備えをすることをお勧めします。若いうちから、親の介護費を貯めておくということは難しいかもしれません。もし、親が自分たちの介護費を自分たちだけでまかなえる余裕があるならば、その必要性は低いと思います。親の経済事情について、知っておくのも大切なことです。いきなり計画的な貯金をするより、まずは、親と「お金の話」をすることから始めてみてはいかがでしょうか?

情報収集の大切さ

今からすぐにでもできること、それは情報収集です。多くの若い人に共通するのが、介護に関する知識があまりにもないということです。もし、あなたが介護と関わらないといけなくなったとき、まずは何をすべきでしょうか?誰に相談をするか、どこにいくべきか、基本的な知識を持っているだけでも、介護の捉え方は全く違ってきます。

自分の親のかかりつけ医、実家の近くの老人ホーム、住んでる地域の包括支援センターの窓口。こうした身近なところから、親の周囲に何があるか?に目を向けて「親の介護について事前に知っている」状況をつくることは、間違いなく将来のあなたを支えてくれます。

「わたしの看護師さん」では、介護への向き合い方や制度情報について解説しています。当サイトの記事をご覧いただくか、あるいは介護が必要な状態になればお住いの「地域包括支援センター」へご連絡の上、計画的な介護準備を進めていきましょう。

いかがだったでしょうか。「高齢者」が身近な存在で無くなったことによる、若者の介護意識の低下。一方で、「家族に寄り添う気持ち」の大切さを実感している人も少なくありません。誰しもに必ず訪れる「介護」。人生最後の親孝行に前向きに向き合うためにも、今できることから、頑張りすぎず、まずは情報収集からはじめてみてください。

介護にまつわる悩みやお願いごとは、「わたしの看護師さん」にご相談ください。

介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。

「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。

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