「高齢の親が老老介護、認認介護をしていて不安」「親が、子どもに迷惑をかけたくないと無理をして在宅介護を続けている……」と、心配する遠距離介護中の方も多いのではないでしょうか。
以前、私の夫の祖父も、長らく祖母の介護を一人で行っていましたが、ある日階段から転倒。祖父も寝たきりの状態になりました。
祖母は施設へ入居し、早期退職した義父が祖父の介護を行うことに。祖父が貯金をしていたため、費用は準備できたようですが、その時はかなり慌てたと、夫から聞きました。
老老介護、認認介護は、いつかではなくやがてくることと捉え、事前に家族で話し合い、準備をしておくことが大切です。
今回の記事では、老老介護、認認介護とは何か、介護が始まり慌てないための事前の備え、頼れる介護サービスをご紹介します。お盆で帰省する前に、介護への不安を解決するヒントを見つけてもらえると嬉しいです。
老老介護とは?介護中、起こりやすい問題
まずは、老老介護の現状を知り、どのような問題が起こりやすいのかを確認しましょう。
老老介護とは
老老介護とは、介護を行う人、介護を受ける人がどちらも65歳以上の高齢者である状態を指します。厚生労働省の調べによると、2022年時点の老老介護は63.5%で、2019年の59.7%から上昇しています。介護者の45.9%は同居の家族で、次に事業者が15.7%、別居の家族等が11.8%です。この結果からも、同居の家族が介護を行っている家庭が多いことが分かります。
老老介護が増えている背景
老老介護が増えている背景として、次の3つの要因が考えられます。
1.親と同居する家族が減少している
以前と比べて子どもが地元を離れて進学、就職し、そのまま結婚して生活するケースが増えました。
晩婚化で、育児と介護の時期が重なる場合もあります。離れた場所に住み家庭を持っている子どもに迷惑をかけたくないという気持ちを親が持っていることも、老老介護の選択につながっていると考えられます。
2.介護サービスの利用に抵抗を感じる
「介護は家族でするもの」という責任感や、他人が出入りすることへの警戒心から、介護サービスの利用にブレーキがかかってしまいます。また、排泄、入浴など、プライバシーに関わる介助も多いため、他人に任せることに抵抗を感じる方も多いです。
3.高齢者の貧困
日本年金機構によると、令和6年度の国民年金(老齢基礎年金(満額))の支給額は、月額68,000円となります(昭和31年4月2日以後生まれの方の場合)。基礎年金だけで生活をしている場合、介護サービスを受けたいけれど、経済的な問題から断念せざるを得ない状況があります。
老老介護で起こりやすい問題
老老介護では、介護する側に体力的、精神的に負担がかかり、様々な問題が起こりやすくなります。ここでは身体的リスク、精神的リスクに分けて説明します。
1.共倒れのリスクが高まる〜身体的リスク〜
介護では入浴、排泄介助などで、介護者の膝、腰、腕に負担がかかります。また介護のために、一日中家にいることで運動量が減り、介護者の筋力や身体能力が低下します。
介護者の入院や、ケガをして動けなくなった場合などに、介護する人がいなくなってしまう事態が起こります。
2.介護疲れから犯罪に繋がるケースも〜精神的リスク〜
介護生活が長引くと、身体的、精神的な疲れやストレスが蓄積していきます。真面目で責任感が強い人ほど誰にも相談せずに自分を追い詰めてしまい、介護うつを発症するリスクが高まります。介護疲れから、虐待や介護放棄などの犯罪につながるケースも多く発生しています。
このように、老老介護ではさまざまな問題が起こりやすくなります。
実際に「わたしの看護師さん」運営スタッフの実家でも、60代後半の母親が、93歳の祖母の介護を担っていました。しかし、突然母親が倒れ、それまでまかせきりだった祖母の介護を兄弟3人で分担することになったのです。
スタッフの母親は幸いにも無事回復しましたが、以前と同じように祖母の介護をするのは難しくなったそうです。その際に、介護サービスの利用や、兄弟と協力して介護を行うこと、事前にどのような介護を望むのかを家族で相談しておくことの大切さを感じたといいます。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
〜老老介護中の実家で介護者の母が入院!〜突然の介護に直面し見えてきた課題と事前に備えておきたいこと
これから先の暮らし方について家族、兄弟、姉妹で話し合う、専門家に相談するなどして、介護への備えをしておきたいですね。
参照:厚生労働省「国民生活基礎調査」
参照:日本年金機構「令和6年4月分からの年金額等について」
認認介護とは?介護中、起こりやすい問題
次に認認介護の現状と、起こりやすい問題について確認していきます。
認認介護とは
認認介護とは、介護を行う人、介護を受ける人がどちらも認知症の症状がある状態を指します。2022年の厚生労働省の調べによると、介護が必要となった主な原因の1位が認知症です。
遠距離介護中の場合、親の認知症に気づかず、いつの間にか老老介護から認認介護へ移行していることもあります。
認認介護で起こりやすい問題
日常生活で大きな支障をきたすことがない物忘れであれば、まだ問題ありませんが、物忘れが原因で命を落とすこともあります。ここでは、認認介護で起こりやすい問題を4つご紹介します。
1.服薬、食事の管理ができない
薬を飲んだことを忘れてしまい、薬を飲みすぎたり、飲み忘れたりします。食事をしたことも忘れてしまうため、低栄養の状態になり命に関わる事態を招きます。
2.お金の管理ができない
財布の場所や銀行口座の暗証番号が分からなくなり、お金が引き出せなくなります。必要以上に引き出してしまい、生活費が足りなくなることも。判断能力が低下しているため、高額な商品を契約してしまうなどの詐欺被害に遭いやすいといえます。
3.緊急の対応ができない
とっさの判断ができないために、災害発生時に逃げ遅れる危険性があります。火の不始末から火事が発生するリスクも高まり、それらの対応ができない場面も想定されます。
また、適切な温度管理ができなくなると、熱中症を引き起こす可能性もあります。体調の急変に気づき、対処を考えるなど、緊急の判断ができにくいことがあります。
4.介護放棄、虐待など犯罪へ発展
認知症は症状が進むと徘徊が始まる場合が多く、一日中目が離せない状況が続きます。暴力的になり、人が変わったように感じることも多くなります。
それらの状況が続くと、気持ちが休まらないため、介護者のストレスは蓄積するばかりです。介護疲れから、介護放棄、虐待などの犯罪へ発展するケースが増えています。
老老介護、認認介護で慌てないための事前の備え
事前に備えておくことで、老老介護、認認介護で問題が起きた場合でも、慌てずに対応することができます。準備しておくとよいことは次の4つです。
1.親子で話し合う
親と子ども、それぞれの介護についての希望をすり合わせておきましょう。
また、認知症が進行する前に、普段飲んでいる薬のこと、通帳、印鑑などの重要書類の保管場所も確認しておくことをおすすめします。親の資産で使えるお金がどれくらいあるのか、お金の話をしておくことも大切です。
2.地域包括支援センターに相談する
各市町村には、介護についての悩みを無料で相談できる地域包括支援センターが設置されています。近くで受けられるサービスがあるのかなど、介護に関する情報を集めておくと安心です。
3.介護費用に関する助成制度を調べておく
介護サービスを利用する際に、費用が足りるのか不安に感じている方も多いと思います。費用が多くかかった場合に、利用できる助成制度があるか調べておきましょう。
・高額介護サービス費
1か月間に払った介護サービスの費用が自己負担額を上回った場合、申請することで払い戻しが受けられる制度です。ただし、対象にならないサービスがあるので注意が必要です。申請手続きは各自治体で異なるため、一度問い合わせてみましょう。
・高額介護合算療養費制度
同一世帯内で医療保険と介護保険の両方を利用し、1年間の自己負担額の合計が限度額を超えた場合に超えた分が支給されます。自己負担の限度額は大きく70歳以上と70歳未満に分かれ、さらに収入によって異なります。ただし、同じ世帯でも別の医療保険に加入している場合は、合算できません。まずは、自治体の窓口に確認することをおすすめします。
4.成年後見制度を利用する
認知症と判断された場合、銀行の口座が凍結され、子どもであっても親のお金を引き落とせなくなります。その場合に利用できる制度が、成年後見制度です。ただし、手続きに時間がかかるため、その間の介護費用は家族が負担しなければなりません。
成年後見制度の中でも「任意後見制度」は、あらかじめ任意後見人を選んでおくことができるため、事前に手続きをしておくと安心です。
成年後見人制度や他の制度についてさらに詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
高齢の親の財産を凍結から守る〜認知症が心配な親の預貯金を、適切に管理するには
老老介護・認認介護で頼れる介護サービス
遠距離介護中の場合は、定期的に自宅の様子を見に行き、親がお互いに介護が難しそうであれば、施設への入所、介護保険サービスや介護保険外サービスの活用も視野に入れて検討しましょう。決して家族だけで抱え込まず、早めにSOSを出すことが大切です。ここでは、頼れる介護サービスをご紹介します。
1.介護保険サービスを利用する
介護保険サービスは、要介護認定を受けた方が利用できるサービスです。自己負担額は所得に応じて1~3割、サービスが使える上限額は、要介護度によって決まっています。主に訪問型、通所型、施設型のサービスが受けられます。
①自宅に訪問してもらう〜訪問型〜
・訪問介護
ホームヘルパーが自宅を訪問し、入浴、排泄、食事などの身体介助や、身の回りの家事などの生活援助を行います。ヘルパーに頼めない事柄もあるため、利用する際には注意が必要です。
②施設に通う〜通所型〜
・デイサービス
介護施設に通い、食事、入浴、排泄の介助、機能訓練などを受けます。自宅から施設までは、無料で送迎してもらえます。在宅介護をする介護者にとっては、介護から離れる時間をを持つことができ、休息をとることもできます。
③施設に入所する〜施設型〜
施設には、民間施設、公的施設の2種類があります。公的施設は、費用が安価ですが、入退去の条件が厳しい場合が多くあります。民間施設は、公的施設よりも費用は高いですが、サービスが充実しており、入居条件も緩やかです。介護サービスを受けながら暮らせる施設をご紹介します。
・特別養護老人ホーム
要介護3以上の方が入所できる公的施設です。(※要介護1~2の方も特例で入居できる場合があります)身体介護、生活支援などのサービスが受けられます。比較的安く入居できるため希望者が多く、空きが出るまで待たなければならないことも多いです。
・介護付き有料老人ホーム
介護、看護ケアが充実している民間施設です。主に介護専用型、混合型の2種類があり、混合型は要介護認定を受けていない方も、施設によって受け入れ可能です。介護保険の範囲内でサービスを受けることができます。
2.介護保険外サービスを利用する
介護認定を受けていない高齢者でも受けられる介護サービスです。ペットの世話や病院の付き添いなど、介護保険で提供していないサービスも受けることができます。費用は全額自己負担になります。「わたしの看護師さん」でも、病院付き添いサービス、訪問サービス等を提供しています。
以上のような介護サービスを利用し、専門家の支援を受けることが、安心して介護を続けることにつながります。
老老介護、認認介護の問題は、いつ起きるか分かりません。私の親も高齢なため、備えの必要性を痛感しています。
どのように介護を続けていくのか、介護の費用はどうするのかなど、お盆で親や家族と過ごす機会に、一緒に考えてみるのもいいですね。
老老介護、認認介護は、共倒れにつながる危険もあります。みなさんも問題が起きたときに慌てないために、親や兄弟、家族と相談しながら、準備をしていきましょう。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
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