遠距離介護をしていると、「高齢の親の傍に常にいることができないため心配」、「遠距離介護中の親が加齢によって歩きにくそうにしている、転倒が心配……」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。
介護が必要になった原因として多いのが骨折・転倒。厚生労働省の「令和4年国民生活基礎調査」でも第2位にあげられています。高齢者の転倒は、大怪我に繋がりやすく、寝たきりになるリスクが高まります。
加齢による身体機能の低下、薬の副作用、障害物や段差のある生活環境などが、転倒の原因です。今回の記事では、転倒が高齢者に与える影響、転倒しやすい場所や転倒を防ぐための対策をご紹介します。
転倒が高齢者に与える影響
高齢者の転倒は、身体の怪我だけではなく、精神的な不安や社会的な孤立にもつながることがあります。
骨折などの重傷な身体の怪我につながりやすい
高齢になると、筋力や運動機能の低下によって、ちょっとした段差につまずいたり、転んだりしやすくなります。また、加齢に伴い骨密度が低下し、転倒しただけで骨折してしまう可能性も高くなります。
一度の転倒で、背骨や股関節など身体の重要な部分を骨折して入院、手術が必要になることも少なくありません。深刻な場合、入院やリハビリ生活が長引くことで体力が低下し寝たきりになってしまうこともあるため、注意が必要です。
転ぶことへの恐怖が悪循環を生んでしまう~生活の質(QOL)の低下~
高齢者にとって転倒やそれに伴うケガは、大きな恐怖体験となります。再度、大きな怪我をしてしまうのではないかと心配になり、日常生活を制限してしまうこともあります。怖かった体験は記憶に残り、恐怖の対象物を避けたり、そのときの状況を振り返ると不安になったりするものです。
万が一転んでしまって周囲に迷惑を掛けてしまうのではないかと外出を控えてしまうこともあります。住み慣れた自宅とは違い、慣れない外出先には予期せぬ危険が潜んでいるからです。一人で外出したくても、サポートしてくれる人が付き添っていないときは、すぐ助けを求めることもできません。
外出を控えることによる運動不足や社会的な孤立は、認知症やうつ病の発症リスクを高め、生活の質を低下させてしまう可能性があります。
そのため、日頃から身体を動かし鍛えるなどして、身体機能を維持することが何より大切です。恐怖のあまり活動量が減少してしまうと、さらなる転倒のリスクが高まってしまいます。
転倒を防ぐためにできること<室内編>
自宅で転倒が起こりやすい場所とその原因
まずは、どのような場所に転倒の危険があるのかを確認してみてください。東京消防庁の調査では、高齢者の転倒の多くは住み慣れた自宅で発生しています。自宅内のどこに転倒の危険が潜んでいるのか、具体的な場所3つと転倒につながる主な原因をまとめてみました。
1. 居間・寝室
・カーペットの端や電気コードに足が引っかかる
・新聞紙やチラシを踏んで滑ってしまう
2. 玄関・勝手口
・靴を履こうとして、バランスを崩してしまう
・段差が大きいと足腰に負担がかかりつまづきやすい
3. 廊下・縁側・通路
・照明が暗いと段差や障害物に気づきにくい
・滑りやすい材質の床が多い
室内での転倒を予防するためのポイント
転倒の原因となる場所を確認できたら、次は転倒を防ぐ対策を考えていきましょう。転倒防止のポイント4つをご紹介します。
1. 住宅リフォームを検討しましょう
自宅内の危険な箇所を確認して、手すりの設置や段差の解消などの修繕が必要な場所は、リフォームを検討することも一案です。リフォームにかかる費用については、工事内容によっては介護保険制度で給付の対象になる場合があります。
介護保険制度を利用するためには、要介護認定を申請する必要があります。
詳しくはこちらの記事をご覧ください。
要介護認定とは?介護保険サービスを利用するためにまずは申請を〜申請方法をご紹介〜
2. 介護用品を活用しましょう
介護用品には手すりや滑り止めマットなど転倒の予防となる用具があります。福祉用具の貸与やレンタルも介護保険制度で、給付の対象になっている用具もあります。住宅リフォームほど大がかりでなくても、補助具があるといいなと考えている方におすすめです。ベッドや手すり、スロープ等、幅広くありますのでぜひ検討してみてください。
<参考>
厚生労働省|「福祉用具の貸与」
厚生労働省|「特定福祉用具販売」
3. 歩行の妨げとなる物は床に置かないようにしましょう
高齢になると視力の低下によって床に置いてあるものに気づきにくくなることもあるので、電気コードや新聞、おもちゃなどは床に置かないようにすると安全です。高些細な障害物が転倒の原因になってしまいますので、室内の整理整頓が大切です。
4. 照明を十分明るくしましょう
暗い場所では危険な箇所が見えにくくなるため、歩行する際には室内の照明を十分明るくしておくことがポイントです。人の動きを感知し自動で点灯するセンサー付きのライトもおすすめです。
転倒を防ぐためにできること<屋外編>
社会とのつながりを保つために外出は重要ですが、外出先は住み慣れた自宅とは異なる環境のため、転倒のリスクについてもよく考えておく必要があります。屋外で転倒の危険性が高い場所3つとその原因をご説明します。
外出先で転倒が起こりやすい場所とその原因
1. 道路や歩道
・段差や舗装されていない道路でつまずきやすい
・雨の日や積雪があるときは、マンホールや白線上で滑りやすい
・強風によってバランスを崩しやすい
2. 店舗や施設
・雨の日は店頭の入口付近や店内の床が滑りやすい
・カートや商品などに接触してしまう
3. 駐車場や公園
・車止めや側溝につまずく
・ベンチや遊具に衝突してしまう
外出先で転倒を予防するためには
・時間に余裕をもって行動しましょう
時間に余裕がないと焦って普段より早足になったり、周りの人や環境に目を向けることが難しくなったりします。特に高齢になると、素早く動くことが難しくなるため、気持ちに余裕をもって周囲を確認しながら行動することが大切です。
・自分にあった靴を選びましょう
歩きやすい靴を履いて出かけることはとても大切です。靴選びのポイントをまとめたので、参考にしてみてください。
・滑りにくい加工がされている(靴底に滑り止めがついている)
・足にフィットして、伸縮性があり歩きやすい
・重すぎない
・靴底がすり減っていない
・つま先がそり上がっている(段差につまずきにくい)
靴屋さんで実際に試着して、ご自分の足に合っているか検討してみるのもおすすめです。
・シルバーカーや杖などの歩行補助具を使用しましょう
日頃から気を付けていても、高齢者は少しの衝撃でバランスを崩すことがあります。外出の際にはシルバーカーや杖などがあると歩行を補助してくれるため安心です。足腰に不安がある方は積極的に活用してみてくださいね。
転倒を防ぐためにできること~家族・周囲のサポート編~
・親と積極的にコミュニケーションをとりましょう
遠距離介護はメリットもある一方で、日頃の様子を把握しづらいというデメリットもあります。高齢の親と頻繁に連絡をとることで、心身の小さな変化に気づき、早期に対応しやすくなります。
また、帰省したときに、近隣の方やかかりつけ医など周囲の人たちとコミュニケーションをとり、いざというときに助けてもらえる体制を整えておくと、親の孤立を防ぐことができます。
・介護予防に取り組みましょう
日本には、高齢者の方が住み慣れた地域でいつまでも暮らしていけるよう、介護保険制度が充実しています。これまでにご紹介した住宅改修費の支給、福祉用具のレンタル、購入以外にも、さまざまなサービスがあります。
その一つ、訪問による介護サービスでは、専門の職員に自宅を訪問してもらい、身体介護やリハビリテーションを受けることができます。訪問リハビリテーションは身体機能の維持、回復のために、専門のスタッフからサポートを受けることができます。
高齢の親の心身を不安に感じ介護予防に取り組みたい方は、お近くの地域包括支援センターや担当のケアマネジャーにご相談ください。
・ご家族の形に合った介護サービスを検討しましょう
介護保険サービスは介護保険法で利用基準が定められているため、提供されるサービスが限られてしまう面があります。介護保険サービスではまかなえない部分をサポートしてくれるのが、介護保険外サービスです。
例えば、介護保険外サービスは、病院付き添いにも対応しています。「外出時の転倒が心配なので、親の通院に付き添いたいけれど遠距離で難しい」、「病院に付き添って診察室で医師からの説明を親と一緒に聞いてくれるサービスを探している」という場合に、役立ちます。それぞれのご家族のニーズに合ったサービスの利用を検討してみてください。
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高齢者の転倒は、ご本人やご家族にとって生活を大きく左右しかねない出来事です。入院や介護が必要な状態になってしまうと、生活が一変してしまう可能性もあります。そうならないためにも、住まいの環境を整える、必要な補助具を準備するなど、転倒の危険性を理解して予防策をとっておくことは非常に大切です。
今回、さまざまな転倒の防止方法を紹介しましたが、ご家族だけですべてを行おうとすると、時間の制約や身体の負担から限界を感じる方も多くおられると思います。行政の支援制度や介護サービスを活用して、周囲の方と協力することが安心、安全な介護につながります。
高齢の親も、ご家族もいつまでも自分らしく楽しく暮らせるように今日からできることをはじめてみませんか。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。
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