企業における介護休業・介護両立支援の導入事例を解説します

仕事をしながら介護を行うビジネスケアラーの数は増加しています。一方で、介護休業・介護両立支援制度等の利用率は低く、介護を理由に離職する「介護離職」が問題となっています。これをうけて、育児・介護休業法の改正が行われ、2025年4月より新ルールが施行されました。新ルールでは、全企業を対象として、介護と仕事の両立に向けた取組みを強化していくことが求められています。

企業はどのような対応をすればよいのでしょうか。本記事では、介護休業制度の概要をご紹介し、介護休業制度に関する先進的な事例と介護休業制度の導入・活用のポイントを解説します。

介護休業・介護両立支援制度を取り巻く状況と普及が進まない理由

介護休業・介護両立支援制度の現状

介護休業などのビジネスケアラーをサポートする制度の利用は、企業内で浸透していないというのが現状です。2022年に総務省が行った調査では、仕事をしながら介護をしている人はおよそ364万人、そのうち介護休業等制度を利用した人はおよそ37万人となっており、介護制度を利用する人の低さが窺えます。

例えば、制度の中の一つである介護休業は、家族が要介護状態になった場合に、労働者が一定期間休業することができる制度です。該当する家族一人につき、従業員は通算93日間の休業を取得することが出来ます(3回まで分割取得も可能です)。また、休業中の従業員は介護休業給付金という国の制度を利用して、賃金の67%相当の補償が受けられます。その場合、従業員が雇用保険に加入していること、休業後に職場復帰を予定していること等の条件があります。

介護休業は、労働者に対して実際に親や家族の介護を行う機会を提供するだけではなく、仕事と介護を両立するために、介護施設やケアマネージャーなどと連携して、介護の体制づくりを行うための期間でもあり、介護を担う従業員にとって有用な制度なのです。

介護休業・介護両立支援制度等について詳しくはこちらをご覧ください。
参照:厚生労働省|「介護休業制度」

わたしの看護師さんの記事でも詳しく解説しています。
ビジネスケアラーの介護離職を防ぐ〜企業で介護支援制度や福利厚生を充実させるには〜

介護休業等制度の普及が進まない理由と介護離職

ビジネスケアラー支援の有効な手段にも関わらず、介護休業・介護両立支援制度等の利用率は低迷しています。その背景となっているのは、企業における制度整備の遅れ、介護休業等制度に対する認知の低さのようです。厚生労働省の実態把握調査で、従業員が介護休業や介護休暇を利用しない・利用しなかった理由として以下の事項が指摘されています。

・介護休業制度が整備されていない
・代替要員がいない
・介護休業制度を知らない
・介護休業制度を利用しにくい雰囲気がある

こうした職場環境の中で、介護を理由に離職するビジネスケアラーも増えています。介護離職する主な年齢層は、50代、60代の熟練した従業員です。こうした人々が職場を離れていくことは企業にとって大きな損失であり、近年、「介護離職」は社会問題となっています。

これをうけて、「育児・介護休業法」が改正され、2025年4月1日より段階的に施行されます。新たな法改正では、介護当事者に対する個別説明の義務化、従業員全体への情報提供の義務化など、制度の利用促進を強化するための対応が求められることになります。

今回の法改正で対象となるのは全ての企業です。介護休業が当たり前の社会へ、社会全体が舵を切りつつあるタイミングなのです。それでは、それぞれの企業はどのような対応をすべきなのでしょうか。次章では、介護休業・介護両立支援制度等の利用にまつわる課題を乗り越え、企業・従業員の双方にメリットを生み出した事例をご紹介します。

参照:総務省|「令和4年就業構造基本調査」
参照:厚生労働省|「令和3年度仕事と介護の両立等に関する実態把握のための調査研究事業」

企業と従業員にとってメリットを生んだ先進事例〜介護休業等制度を利用しやすい組織へ〜

介護休業・介護両立支援制度等の導入に際して、企業が直面する3つの問題があります。それは「人材確保」、「柔軟な働き方ができる環境の整備」、「介護についての理解を促すこと」です。これらの課題に対して先進的な取り組みを行い、効果を生んでいる企業の事例をご紹介します。

1. 人材を確保する

まずは、人材確保の問題を解消する必要があります。「自分が介護のために休暇を取得すると代わりの人がいない」「同僚の負担を増やしてしまう」と考えてしまい、介護休業等の取得に消極的な従業員は多く見られます。こうした心理を生み出す原因は、職場における人手不足や人材確保の難しさです。

<事例>業務内容をシェアして「代わりの人がいない。介護したくても休めない」を解消

同じ業務を複数の従業員が担当することで、急な欠員にも上手く対応することができます。その人でなければできない業務がある状態、いわゆる「仕事の属人化」が進むと、代替人材の確保が難しくなります。専門性の高い業務では、ある程度仕方のないことかも知れませんが、仕組みを工夫することで解決できる問題もあります。

一人の従業員が複数の業務を担当できるように、日々のシフトを組んだり、人事計画を立てたりしている例もあります。ある業務について、主担当と副担当をつけることで業務内容をシェアすることも可能です。ほかにも、業務マニュアルを整備する、ノウハウ共有の機会を設けるなどの施策によって、「その人がいないと仕事が進まない」という状況を回避するための工夫がなされています。

同じ業務に複数の人員を充てることは、一見すると非効率に思われるかも知れません。けれど、これらの取り組みが上手く機能すると、自分の業務の周辺についての知見が広がり、各人の業務の質が向上します。その結果、企業全体として生産性を上げることもできるのです。

2. 柔軟な働き方ができる職場環境を整備する

<事例>テレワークを導入して介護と両立できる柔軟な働き方を

現在は、従来のように全員が出社して全ての業務を完結させるという発想では人材確保が難しくなっています。家庭で介護を行っているビジネスケアラーに対してもテレワークや短時間勤務などの柔軟な働き方の仕組みを整えることが求められています。

テレワークの推進はその代表的な取り組みです。要介護者に体調の変化があったときや通院の必要があるときなどにすぐに要介護者のもとへ行けるということは、介護中のビジネスケアラーにとって、大きな安心感を生みます。テレワークができる仕組みを作ることによって、従業員が安心して勤務を続けられるのです。テレワークについては、2025年4月1日から施行される法改正で取り組むべき努力義務と位置づけられています。この機会に導入を検討してみてはいかがでしょうか。

その他にも、アウトソーシングや短時間バイトの活用、定型業務について積極的にAIを導入するなど、柔軟な働き方ができるようにすることで、従業員も働きやすくなり、会社としても人材不足を解消し適切に業務を遂行することが可能です。

3. 介護について理解を深め共に支え合う企業風土を作る

介護休業等制度の普及には、組織全体で介護休業等制度を利用しやすい雰囲気を作っていくことが不可欠です。そのためには、経営層や管理職が介護やビジネスケアラーの問題について深く理解し、知識を得ておくことが必要です。また、介護休業や介護休暇の必要性が従業員のあいだに浸透していないと、介護当事者の孤立を招くことになります。先進企業はどのようにして介護についての問題意識の共有を行ったのかご紹介します。

<事例>数字を示して介護問題を実感〜シミュレーションやアンケートを活用して〜

従業員の家族の年齢をもとに、10年後にはどれくらいの人が介護に直面するようになるかをシミュレーションした企業や、介護に関する実態を把握するためにアンケートを実施した企業もあります。こうした調査を行ってみると、介護支援へのニーズが予想以上に大きく、経営陣を驚かせるといったケースもあります。調査結果を従業員に示すことで、会社全体で介護への意識を高め、介護休業等制度の利用を促進するきっかけをつくることが可能です。

<事例>「介護カフェ」の実施〜従業員同士が介護について話し合う場所を提供〜

「介護カフェ」などの名称で、従業員同士が介護について自由に意見交換する場所を設けている企業があります。業務時間外に行われている場合もあれば、業務時間内に行う場合もあります。「介護カフェ」には、介護の経験者も未経験者も参加することができます。介護経験者には自分の状況を周囲に理解してもらえる、未経験者には将来に向けて今から準備をすることができるというメリットがあります。また、社内の介護をサポートする制度を設計する社内の担当者にとっては、従業員の生の声を吸い上げることができる貴重な場となっています。

さまざまな事例をご紹介しましたが、このように、介護休業等制度を積極的に設けている企業には共通点があります。それは、介護を行う従業員だけでなく、多様な背景を持っている従業員全体のワークライフバランスの実現に力を入れているということです。

介護や育児などのライフイベントは、一定期間職場から離れなければならないという点で同じような構造をしています。ビジネスケアラーだけでなく、子育て中の方など、どの世代の従業員にとっても、ワークライフバランスを整えることは重要です。先進的な企業では、介護休業等制度のほかにも、子育て支援や更年期世代のサポートなどにも力を入れています。

ワークライフバランス全体に目を配り企業として取り組むことで、介護世代だけでなく、子育て世代など他の世代の従業員からも、介護休業等制度の利用についての理解が得やすくなるでしょう。

参照:愛知県|「仕事と介護の両立モデル事例集」
参照:東京都産業労働局|「企業の取組事例」

介護休業・介護両立支援制度等の導入と活用のポイントを解説

ここでは、企業が自社の状況に合わせて介護支援制度を設計する際のポイントを4つのステップにわけて解説します。

1. 実態把握とニーズの確認

まず従業員の家族構成や年齢層を把握し、潜在的な介護ニーズを確認することが重要です。これにより、制度設計を検討するための基礎データが得られます。また、従業員に対するアンケートやヒアリングなども有効です。

厚生労働省は、プリントアウトして使用できる「実態把握調査票」を公開しています。こうしたツールを利用すれば、コストをかけずにアンケートを実施することができます。

2. 制度の設計と見直し

調査で分かった実態とニーズをもとに、自社にとって採用可能な制度を設計します。その際、どのようなメンバーで制度を設計するかも重要なポイントになります。権限をもった役員を責任者にすることで、実現性の高い制度設計が可能になるでしょう。あるいは、従業員からなるチームを編成することで、従業員にとって納得感のある制度設計も可能です。それぞれの企業の社風に合わせたチーム編成を行うことがポイントです。

3. 従業員の状況に合わせた情報提供

制度設計が出来たら、従業員の立場に合わせて情報提供を行います。役員や管理職クラスに対しては、制度の重要性、部下が介護に直面した場合の対応方法などを十分に理解してもらいます。そして、権限をもった人材が積極的に発信することで制度の普及を促進することができます。

介護を行う可能性が迫っている世代には、具体的な情報提供を行ったり、実際に介護休業を取得した経験者の体験談を伝え、介護に対する抵抗感を軽減してもらうことが大切です。若い世代についても、将来介護を担う必要が生じた際の働き方が想像できるような研修を行うことが重要です。

弊社「わたしの看護師さん」でも、介護支援に関する研修を企業向けに実施しています。
法改正に向けて「仕事と介護の両立支援セミナー」を開催しました

4. 介護に直面した従業員への制度利用支援

介護に直面しているという申し出があった従業員に対しては、自社の介護休業・介護両立支援制度等について個別に周知、意向の確認をすることが必要です。ポイントとして、介護休業は単に介護に従事するためのものではなく、仕事と介護を両立するための体制づくりの期間であることについて理解を促すことが大切です。あわせて、休業中に受け取ることができる介護休業給付金や介護保険制度についても説明できるようにしておきましょう。

参照:厚生労働省|「仕事と介護の両立支援~両立に向けての具体的ツール~」

高齢化社会の進行によって介護の必要性が高まる一方で、職場では人材確保が年々難しくなっているという現状があります。このような流れの中で、介護と仕事を両立できるような、新しい働き方を社会全体で模索していかなければなりません。

介護というライフイベントにあたっては、介護をする側もされる側も、我慢し過ぎない日常を送ることが大切なのではないでしょうか。そのためにも、社会全体で知恵を出し合い、納得感のある働き方を目指していきましょう。

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