親が高齢になり「運転が心配」、「免許証返納の話をするけど、納得しない」など、親の車の運転や免許返納に不安を抱える方も多いのではないでしょうか。
一方、交通手段を奪ってしまうことで、「生活をしていけるだろうか」、「引きこもりにならないだろうか」という免許返納後の不安もありますよね。
今回は、親との免許返納についての話し合いがスムーズに進むポイントや、返納後、車のない生活でも買い物や周囲との交流を保つ方法を、実際に「わたしの看護師さん」のスタッフがサポートし免許返納に至った事例を含めご説明します。
親の認知の変化に気づいたら…
遠距離介護サービス「わたしの看護師さん」の訪問看護を利用してくださっている80代男性が、免許を返納するまでの過程をご紹介しながら、免許返納に向けた動きを見ていきましょう。
ご本人:80代男性、一人暮らし
ご家族:県外在住、息子さん一人
息子さんは、お父さんの記憶力の低下を帰省するたび感じ「免許証を返納させたいけど、車が使えないと生活をしていけるだろうか、周囲との交流がなくなり、引きこもってしまわないだろうか」と、数か月間葛藤していました。長年ともに過ごしてきた息子だからこそ分かるお父さんの変化を、敏感に感じていらっしゃったのです。
その後、帰省した際に、お父さんに付き添って病院を受診。認知機能検査の結果、お父さんは軽度認知障害と診断されます。医師からは、「絶対に免許を返納しなさい」という状態ではなく、「将来、自主返納する心の準備をしておいてください」と伝えられました。
ご本人は周りの人たちから見るととてもお元気で、訪問看護スタッフが1日中ずっと一緒にいると、「あれ?」と少し違和感を感じることはありましたが、一見すると著しい認知の衰えを感じることもありません。
その後、運転免許証の更新時期を迎え何事もなく免許を更新。この時受けた認知機能検査の点数は高得点でした。
しかし、免許を更新した直後、対向車と衝突する事故を起こしてしまいます。息子さんには心配をかけたくないと事故のことを伝えず、以前と同じ車を購入して運転を続けました。
息子さんは帰省した際、車が同じでもナンバープレートが違うことに気づき、事故のことを知ります。お父さんと免許返納について話し合いを持ちますが、「買い物や、サークルの活動にもいけなくなる」とご本人は納得せず、家族だけで話し合っても、らちが明かない状態に。
しかし事故を起こしたとなると流石に運転を黙認することもできず、息子さんと「わたしの看護師さん」スタッフで免許返納に向けた作戦会議を持つことになりました。
親を説得して、免許返納してもらうための6つのポイント
ここからは、息子さんが実際の免許返納に向けてとった動きとポイントを6つご説明します。
ポイント① 病院での受診に向けて事前に資料を作成する
普段の生活で見える認知機能の変化を、ご本人の前で医師に伝えると、本人のプライドを傷つけてしまいます。
息子さんが事前に、ご本人の状態について資料を作成し、医師に一読してもらい、認知検査や短時間の面接では見えない認知機能の低下が伝わるようにします。
ポイント② 医師から客観的な体の変化を説明してもらう
ご本人に加えて、息子さんと「わたしの看護師さん」スタッフも同席して受診。医師は、事前に渡した資料を読んだ上で、ご本人に質問やアドバイスをされました。
免許更新はできても、高齢になると確実に判断能力が低下し、黄色信号でブレーキを踏む判断など瞬時の判断や行動がおぼつかなくなること。加えて、運動能力の衰えについても説明があり、免許の返納を提案されました。
ポイント③ 免許返納後の交通手段を確保して、将来の生活への不安を取り除く
医師からの説得の後も、ご本人は「これからどうやって生活していったらいいのか」と不安を口にされていました。
そこで、免許返納後に実際にどれくらいの費用がかかるのかの試算や、利用できる福祉サービスをご説明して未来への不安を取り除いていきます。
この方の場合、
・週2回の買い物と月1回のサークルにかかるタクシー代は約月1万円で、運転を続けるより安全で、車購入や今後の維持費にかかる費用よりも安く済むメリットがあること
・買い物は、介護認定を受けてヘルパーさんに代行してもらう方法もあること
などさまざまなサービスを「わたしの看護師さん」スタッフよりお伝えしました。
ポイント④ 免許センターの相談員(看護師)との面接を利用する
息子さんと一緒に免許センターに行くことに同意しても、ご本人にはまだ返納を渋る気持ちがありました。
免許センターの相談予約をして、受診時と同じく、相談員と認知機能の状況を事前に共有しておきます。相談員は免許返納について経験も豊富で、ご本人の納得する形で自主返納できるよう導いてくださいました。
ポイント⑤ 事前に周囲の専門家に相談する
短時間で親と話し合いを持ち、返納を終えるのは難しい場合があります。今回は、息子さんが事前に「わたしの看護師さん」と相談し、帰省期間を有効に使ってどのように動くかを計画し、行動されました。その結果、お父さん、息子さんともに納得する形で免許の自主返納に至ることができました。
ポイント⑥ これからも安心して生活するために
息子さんは、お父さんがタクシーや福祉サービスを活用できる環境を整え、「わたしの看護師さん」との相談も継続しながら、離れた場所からでもお父さんの生活を支えていらっしゃいます。
また、車を処分することも考えておいてください。認知症が進行した場合、目の前に車と鍵があると乗ってしまうこともあります。
家族だけで抱え込まず、専門家のサポートを
親が納得して免許を返納し、新たな交通手段を確保して安全に生活できる、そして子も安心して見守ることができる。そのための免許返納に向けての準備や動きを解説しました。
車の免許返納にはさまざまな悩みや戸惑い、葛藤がつきものです。身内だけでなんとかしようと無理をしすぎることなく、医師・免許センターの相談員、訪問看護師などに相談することが解決の鍵です。福祉制度の利用など専門家の知見から、よりよいサービスをご紹介し、生活に取り入れていただけます。些細な困り事でも、ご気軽に相談してみてくださいね。
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