認知症の人の世界と正しい声かけ

「認知症の母の介護をしています。「ご飯を食べたかしら?」と何度も同じことを聞かれて疲れてしまいます。そんな母にイライラしてしまう自分が嫌になります」

という声をご家族の方からお聞きすることがあります。在宅で認知症の人の介護を続けるのはホントに大変ですよね。知識がなく間違った声かけや対応の仕方をしてしまうと症状が悪化して暴力に発展する可能性もあります。

僕は、介護歴13年以上の現役の介護士で、多くの認知症の利用者さんと接してきました。

そして、たくさんの失敗を繰り返し学びを得てきました。

今回は、在宅で認知症の人の介護を続けるご家族向けに、認知症の人の世界を解説するだけでなく、正しい声かけを事例とともに紹介していきます。

簡単に自己紹介させてください。

こんにちは!「しんぶろぐ〜介護ノート~」を運営しているしん(@shinbloger)です。

・13年以上の介護経験がある現役の介護士です。
・介護福祉士と福祉用具専門相談員の資格を持っています。
・現在はデイサービスの管理者をやってます。

事例1 何度も同じことを聞く

“在宅で母の介護をしています。母は、軽度の認知症で週1回デイサービスへ通っています。母は、私に「今日はデイサービスへ行く日かしら?」と繰り返し繰り返し聞いてきます。何度も同じことを聞かれて「さっきも言ったでしょう!明日です!」と口調がきつくなってしまいます。いけないとはわかっているんですが。答えるのも嫌になり最近は返事もしないことも多くなってます。”

認知症の人の世界

認知症で最も多いのがアルツハイマー型認知症です。アルツハイマー型の症状には、短期記憶の障害があります。もの忘れが増えたりもの覚えがわるくなったりします。

何度も同じ質問をするのは、短期記憶に障害があるからではありません。「ちゃんと覚えていたい」「人に迷惑をかけたくない」という思いから、繰り返し繰り返し聞いて覚えようとしているんです。

正しい声かけ

認知症の人は、忘れてしまうことへの不安を抱えて頑張って覚えようとしています。その思いを理解して、不安な気持ちに寄り添ってあげてください。何度聞かれても初めて聞かれたように答えることが大切です。

また、説明の言い回しを変えることで記憶に定着することがあります。例えば、「明日です」ではなくて、「○○日です。デイに行く日はカレンダーに〇を書いておくね」など、言い回しを変えてみると記憶にのこることがあります。

他には、「私がおぼえておくから大丈夫だよ」と不安に寄り添う声かけをしてあげると安心してもらえます。

「大丈夫ですよ」

この言葉、介護士はよく使います。不安に寄り添い安心させることが、一番いいと知っているからです。ぜひ使ってみてください。

事例2 声をかけただけなのにビックリされて怒られた

“学校から帰ると祖母がリビングでソワソワしていました。キョロキョロと不安そうな様子だったので「おばちゃん、どうしたの?」と肩をたたきながら声を掛けたら、ビックリされて怒られました。”

認知症の人の世界

認知症の人は、脳の障害により「覚える」「覚え続ける」「思い出す」といったことが苦手になります。そのため、「ご飯を食べたかしら?」「財布はしまったかしら?」「掃除はしたかしら?」と、自分の身の回りのことで頭がいっぱいになり、視野がギューッとせまくなっています。そんな時に、横から声をかけるとビックリされたり、怒られたりしてしまうんです。

正しい声かけ

まずはおばあちゃんの視界に入り、手を振って認知してもらうこと。認知してもらったら、笑顔で目線を合わせて話しかけましょう。認知症の人がソワソワしていたり、キョロキョロしている時は不安を抱えているサインです。

重度の認知症になるにつれて視野はどんどん狭くなっていきます。例えるなら真っ暗やみで一人でポツンといる状態です。そんな時に、いきなり声をかけられたらビックリするのは当然ですよね。

介護士は、重度の認知症の人には、必ず正面から声をかけることを心がけています。

事例3 孫を忘れてしまった母

“母は、老人ホームに入所しています。最近息子をつれて母の面会に行きました。すると母は、娘である私のことは覚えていますが、孫のことがわからず「初めまして」と挨拶するんです。息子もショックを受けたようです。”

認知症の人の世界

認知症の症状である見当識障害がおこると時間や場所だけでなく、人の顔も認識することが難しくなります。そして、認知症の人は過去の世界に戻っていることがよくあります。女性なら自分が子育てしていた20代~40代に戻っていることが多いです。事例のケースで言うと、自分は40代に戻っているので娘はまだ10代、孫はいないという世界観にいるのかもしれません。そのため、孫を認識できなかったんです。

正しい声かけ

誤りを指摘すると、さらなる不安につながるので、無理に訂正はしない方がいいです。本人は40代の世界観にいるので、孫の存在を認識することは難しい状態にあります。なので、一時的に話を合わせるようにするといいです。事例のケースだと「初めまして。友達の○○です」といったように応えると、娘の友達だと判断してすんなり受け入れてくれるかもしれません。

自分の存在を忘れられるのは辛いことですよね。しかし、誤りを指摘せず認知症の人の世界に寄り添うことが、認知症の人と接する上で大切になります。

さいごに

今回は、認知症の人の世界と正しい声のかけ方を事例をもとに解説しました。

認知症の人の言動を理解するのはとても難しいことです。理由が分からず悩んでいる人、対応の仕方に困っている人も多くいます。

そこで、大切なのは認知症の人の気持ちを理解することです。

認知症の人はどんな状態なのか、どんな世界観で生きているのかを想像することで、正しい接し方が見えてきます。

介護士はいつも考えています。認知症の人は病気や障害により、どんな不安を抱えているんだろう?何に困っているんだろう?そんなことを想像しながら、どう接するべきかをいつも模索しています。

この記事が、認知症の人の気持ちを理解するための一助となれば幸いです。