高齢者と一括りにしても、1人暮らしや日常生活にも特に支障はなく、まだまだ現役で働かれている高齢者の方も多く見られますよね。
そんな、介護認定も受けておらず、自立して元気に過ごされている高齢者の方々のことを私たちは、「アクティブシニア」と呼んでいます。
現在はコロナ禍という事もあり、お子さんがなかなか帰省ができない状態が続いています。そんな時、もしも離れて暮らしている元気だったはずの親が突然介護が必要となった場合、みなさんはすぐに必要な行動を取れる準備はできていますか?
親が元気で過ごしている今だからこそ、もしもに備えた大事な話をご本人とご家族で話し合っておく事が大切になります。
今回は「わたしの看護師さん」代表の神戸と現役ケアマネージャーの引間さんで「コロナ禍におけるアクティブシニアと家族の生活」について対談しました。コロナに負けない、正しい介護の付き合い方をご紹介しておりますので、参考にして頂ければと思います。
後悔しないために、家族で「話し合う」ことの大切さ
引間:以前こういったことがありました。2人暮らしをされていたご夫婦で奥さまが亡くなってしまったんです。残されたご主人は介護が必要だったため、長男ご夫婦がたびたび帰省をされて遠距離介護をしていました。ですが息子さんは、お父さんが普段飲んでいる薬の名前や、通帳・印鑑などが入っている場所といった、大切な情報について何も知らない状態だったんです。とくに1番困ったことは、お父さんのかかりつけの医療機関がわからないということでした。
神戸:そうですよね。引間さんはご両親の持病や今までの病歴などは把握されていますか?
引間:私の両親は今も健在なのですが、何となく母が「あの時に手術していたな」、「婦人科にかかってたな」って思うくらいですね。父に関してはもっと思い出せないです。メモにも残していないので曖昧になっています。
神戸:そういうものですよね。私も、当時60代の父が急に倒れてしまって大変でした。親はたとえ具合が悪くても、離れて住んでいる子どもには心配をかけまいと、本音をなかなか言わないことがあると思います。
引間さん:そうですよね!
神戸:その時に私は「なんで黙っていたの?」と親に対して怒ってしまったんですよ。父が不整脈になっていたことや、血液をサラサラにする薬を服用していることも私は知らなかったんです。少し前にかけていた電話でも「変わりない」と言っていたので、妹を通して初めて様々な症状が出ていることを知りました。
私は父に、すぐに病院へ行くことを勧めました。けれど、保険証は母が管理していたので良かったものの、かかりつけの医療機関なども私は把握できていなかったんです。ましてや、生命保険などに関しては家族誰もがよくわからない状態でした。
その時に「こうなる前にもっと真剣に聞いておけば良かった」と反省したのを覚えています。
引間:本当にそうですよね。医師から「手術をしないと助からないかもしれない」など突然告げられた場合は、家族が手術をしない選択をするのは難しいと思います。その時に本人の意向を尊重してあげたいと思っていても、話し合いを事前にしていなかったのなら本人の意思がわからないので後悔しますよね。
これでよかったのか?後悔のない選択をするために今できること
神戸:こういった話ってすごく先の事だと思われがちですよね。でもアクティブシニアの方でも突然の心臓発作や脳出血が起きたり、大きな交通事故の影響で以前と同じように喋れなくなったということがよくあります。
そうなった時には、様々な選択や残された時間にできることをご本人ではなく、ご家族が決めていくわけです。例えば「胃ろう」を付けるかの選択をする場合、若い患者さんは意識が無くても10~15年も胃ろうを付けたまま生き続けられる事があります。それを幸せと感じるご家族の方もいますが、仕事を抱えながら介護をし続けるという点で負担を感じることもあり、本当に苦しんでおられる方も多いです。
反対に、胃ろうを付けたがために感染症を引き起こしてしまい、亡くなってしまったという例もあります。その時に付けることを選択したご家族は「これで正しかったのだろうか」と、自分をずっと責め続けることになってしまうこともあります。
引間:そうですね。その状況にならないとわからないこともあるし、本人の意思が変わることもあるかもしれません。ですが、事前に聞いておくことで正しく選択するためのヒントになるかもしれないので「話し合うこと」はとても大事なことですよね。
神戸:はい。改めて思いますが、何か起きた時に治療はどうしたいのか、寝たきりになった場合は自宅か施設どちらで過ごしたいか、などのご本人の希望がすごく大事になります。ご両親が元気なうちに、もしもの時はどういった選択を取ればよいのか話し合っておくべきですね。
引間:介護に関しては家族からの手助けがいるということに、ご本人が負い目を感じてしまことがあります。そのせいで、本音としては自宅で暮らしたくても、「家族に迷惑かけれないから」と施設を選択する方もいるんです。こうならないためにも、元気な時だからこそ、笑いながら本音が言い合える時間を大切にしてほしいと思います。
コロナに備えた、高齢者のための身に着けておきたいスキル
神戸:改めてこのコロナ禍と今の話がどう繋がるかというと、今は病院受診などでも県外からお子さんが帰省してくるのがタブーだと言われています。私たちが代わりに病院へ受診に付き添う際には、診察室からタブレットを使えばご家族とビデオでやり取りもできます。そうは言っても、いつもできるわけではありません。
何かを決めたりする場合にご本人に認知症などがあれば、ご家族の意向を聞かなければいけません。しかし、ご本人にすぐに連絡がつかない時などは、ご家族に連絡を繋ぐためのリレーがとても大変なんです。それでも今すぐに決めなければいけない時もありますし、入院することになると病棟にお見舞いにも行けません。ご本人だけで退院に向けた話をするのは難しいですよね。
なので、入院された場合の連絡手段なども今のうちに話し合いをしてほしいと思います。アクティブシニアの方であれば、今からでもスマートフォンやタブレットの使い方などを学んでおいた方が良いですね。
引間:いきなりは難しいので出来るだけ早い時期からそういうものを使いこなせたら良いですよね。
神戸:つい私たちも「高齢者はスマホなんて使えない」と頭ごなしに思ってしまうかもしれませんが、そんなチャンスを奪ってはいけないですね。
引間:機会があればもしかして出来るかもしれませんからね。
神戸:今、病棟で入院されている方でスマートフォンとかタブレットを使える方たちは、ご家族とずっとやり取りができています。何か欲しいものがある時も要望を伝えると、病院の受付までは差し入れを持ってくることができるので、情報と生活の質に格差が出ます。
引間:たしかに、今どきの60ー70代の方って結構ガラケーからスマートフォンに変わっていたりもしますよね。病院や施設にも持っていくことができれば、今の暮らしの延長で大丈夫そうですね。
神戸:そうですね。私の知っている認知症をお持ちの方の様子を見ていると、携帯を充電することさえも難しかったりしますので、そういった方はすぐに最新のものが使えるわけではないんです。
家族間の介護は平等に向き合い、情報の共有をしっかりしておくことが大切!
神戸:先ほどおっしゃったように、総務省のデータにも上がっていますが、30ー40年前までの日本の家族構成はいわゆる「サザエさん一家」のようなイメージが多かったです。家族の中でもしも介護が必要になった時に、まずは同居の女性たちが頑張っていました。ですが、ここ10年ほど前からは男性も頑張らないといけないというデータが上がってきています。
やはり女性の働き方改革もあり、女性が今まで通りに介護や育児に専念することは難しいです。以前は、親の介護は長男の嫁がする場合が多かったと思います。一方で、現在は息子さん自身や嫁がれた娘さんが介護をする場合が増えています。
その後に続くのが、子どもの配偶者や事業者になります。今の時代では女性にお任せというのにも限界があります。そもそも夫婦の間に子どもがいるとは限りませんし、少子化の影響で1人のお子さんが何人もの大人を介護することもあり得ます。もしそうなれば、自分の子育てさえ難しくなってしまいます。
引間:もしも親が突然倒れたりしたら、仕事はどうしようかと悩みますよね。いきなりだと「介護休暇」も取りにくいですし、有給休暇だけで補うのも難しいです。なので事前に情報収集をしっかりしておき、自分が仕事などで動けないことを想定しておくことが大切です。あらかじめ準備や心づもりをしておけばいざという時に慌てなくて済みそうですね。
神戸:そうですよね。介護休暇の取得条件などは企業によっても違いますからね。
引間:今回のアクティブシニアの話をするにあたって考えたことは、避難訓練のように少し前もって想定して置くことですね。とくに遠距離介護の場合はかかりつけ医や薬、普段の食生活などを把握していないと大変ですからね。
神戸:実は親について知らないことが沢山ありますよね。急に倒れた時、はじめに問診表を書かされることがあります。いつ病気をされたとか、日頃はどんな薬を飲んでいるのかとか、アレルギーの有無などです。自分の親のそういったことってご存知ですか?
引間:いいえ、むしろ平熱でさえも分からないですね。
神戸:自分の事でさえ分からないこともあるのに、親のことになれば尚更難しいですよね。介護は急に始まりますから、しっかり記録に残しておきましょう。
親の経済事情、介護の費用や手続きの仕方は早めに把握しておこう
引間:あとは、やはり「お金」の事ですね。親の年金や経済事情を把握しておくことはすごく大事です。その理由として私たちの介護サービスを調整させて頂く時に、1ヶ月や年間にいくらほど使えますか?と伺う事があります。そこを把握していないと、お子さんたちにも負担がかかってくるからです。まずはご本人が払える範囲で利用していかないと、いつまで続くかわからない介護費用をご家族が支払っていくのは大変になります。
神戸:親の介護が始まるお子さんの平均年齢は、40代半ばあたりと言われています。なので、高校生のお子さんがいる方も多い年齢であり、大学受験など大きなお金が動く時期です。そんな時に自分の親が倒れて介護が必要になった場合、親に負の資産があったり、認知症の場合は口座が止まってしまうこともあり得ます。そこはすごく大事なので、ある程度のことは今のうちに聞いておくことが大切です。ところで、引間さんは年金の支払日ってご存知ですか?
引間:偶数月の15日の事ですか?
神戸:そうです!私たちのような福祉や介護業界の人は知っている場合が多いかもしれません。ですが、お子さんの中には「親が年金をいくらもらっているか知らない」とか「年金の支払日がわからない」ということは実は多いんですよね。これくらい貰っていると思っていても、実は2ヶ月分の金額だったなんて事もあります。帰省した時に色々聞いておきたいところですが、このコロナ禍では近づいて話すことは難しいと思います。ですので、コロナが落ち着いてから、ゆっくりとお話が出来るようにしておくと良いですね。
引間:そうですよね。今は県をまたいで行動することが難しいけれど、介護というのは今日明日突然始まることがあります。なるべく早めに話をしておきたいですね。移動の距離だけではなく心の距離の問題もありますからね。いつまでも親子関係が良好とは限りませんので。
神戸:本当ですよね。介護になる危険信号・黄色信号が灯り始めたら親御さんが住んでいるエリアなどで情報収集し始めることが大切です。どこに相談をすればスムーズに介護保険の手続きが行えるか、事前に調べておくのも大事ですね。
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アクティブシニアの親がいつまでも元気とは限りません。介護は突然始まります。
コロナ禍で帰省などが難しい現状ですが、会えなくても家族間で連絡を取れる環境を作り、親の健康状態や必要な情報を元気なうちに聞いておくことで、急な介護にも慌てずに、前向きに向き合える環境を作っていただけたらと思います。
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