高齢者の心身の健康に動物の力を! 〜動物とのふれあいがもたらすセラピー効果とは〜

人生100年時代。親には、生きがいや楽しみをもって、元気に過ごしてほしいですよね。動物とのふれあいもそのひとつで、親が動物好きで飼っているという方も多いと思います。動物との散歩は運動になり、ふわふわした体をなでると、心も癒されます。動物とのふれあいは、高齢者の心身によい効果をもたらすことが確認されており、アニマルセラピーを取り入れている高齢者施設も増えています。

しかし、一人暮らしの親に介護が必要となった場合、動物を飼うことは難しくなります。「親と動物がふれあえる機会を作りたいけれど、遠距離介護のため難しい」と悩んでいる方も多いのではないでしょうか。今回の記事では、動物とのふれあいがもたらすセラピー効果、フレイル予防との関係、動物とふれあう機会を作る方法についてご紹介していきます。

アニマルセラピーとは 〜どのような効果が得られるの?〜

アニマルセラピーと聞くと、高齢者施設で行われているレクリエーションを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。ここでは、アニマルセラピーの活動の種類、セラピーがもたらす効果についてご紹介します。

アニマルセラピーの種類

アニマルセラピーは、人と動物とのふれあいを通じて医療や介護、教育の現場などで広く活用されています。目的に応じて、以下の3種類の活動が行われています。

1. 動物介在活動(Animal Assisted Activities:AAA)
動物とのふれあいを通じて、心の安らぎや活性化、生活の質の向上などを目的とした活動です。高齢者施設などでの実施が増えています。

2. 動物介在療法(Animal Assisted Therapy:AAT)
動物介在療法では、動物との関わりが治療に役立てられます。医療従事者の主導で行われる活動で、治療を受ける方に合わせて目的が設定され、治療後は治療効果の評価が行われます。治療のサポートとして、病院やリハビリテーション施設で実施されています。

3. 動物介在教育(Animal Assisted Education:AAE)
主に学校において、動物が子どもたちの教育に役立てられます。動物とのふれあいを通して、命の大切さや思いやりの心などを育む活動です。

アニマルセラピーで期待できる3つの効果

高齢者が動物とふれあうことで、心身へのさまざまな効果が期待できます。ここでは、代表的な3つの効果をご紹介します。

1. 幸福感を高めストレスを緩和
動物をなでたとき、喜んでいる姿を見ると嬉しくなりますよね。心地よい環境でのスキンシップは、幸せホルモンと呼ばれるオキシトシンの分泌を増やします。幸福感が高まり、ストレスの緩和、抑うつ症状の改善に効果的です。

2. 動物への愛情がリハビリの支えに
「動物にもっと触れていたい」「もっとお世話をしたい」という意欲が、高齢者自ら体を動かすきっかけを作ります。一緒に散歩をすることが目標になり、歩行のリハビリの支えになったというケースも。座ったままでも、抱っこしたり、なでたりすることで手や腕を動かすため、筋力の維持につながります。

3. 動物の話題が会話の糸口に
普段はあまり会話をしない人も、動物とふれあうことで「かわいい」など、自然と言葉を発する機会が増えます。動物を飼った経験があれば、動物という共通の話題が周りの人との会話の糸口にもなります。

動物とのふれあいは、フレイル予防にも効果的

高齢者が抱える問題のひとつにフレイルがあります。動物とのふれあいが、フレイル予防にも効果があるということをご存知でしょうか。

フレイルとは

年齢とともに心身の機能が低下し、要介護のリスクが高くなった状態のことです。予防や回復のためには、早めにフレイルの状態に気づき対策を行うことが重要です。

フレイルの入り口は人それぞれですが、社会とのつながりの減少が、最初の入り口になりやすいと言われています。フレイルはさまざまな要因がサイクル的に循環することで、進行します。

フレイルを進行させるサイクルの例
1. 外出の機会が減り、社会とのつながりが希薄になる
2. 孤独、孤立により、活動量が減る
3. 孤独、孤立や高齢のため活動量が減り、食事の量も減る
4. 栄養不足、筋力の低下により、基礎代謝が落ちる
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フレイルを予防するには、このサイクルを断ち切る必要があります。そのために、動物と過ごすことも効果を発揮します。

フレイルを予防するための3つの柱~動物とのふれあいを取り入れてみましょう~

フレイルの悪循環を変えるために、次の3つの柱を意識しましょう。動物とのふれあいをうまく取り入れることで、楽しみながらフレイル予防を習慣化できます。

1. 食事
食事は、1日3食を決まった時間に食べるようにし、バランスのよい食事を心がけます。魚、肉、大豆食品など、筋肉の元となるタンパク質を多く含む食べ物や、乳製品などでカルシウムを摂取するようにしましょう。

2. 運動
定期的な運動で筋力の低下を防ぎ、骨折による寝たきりのリスクを回避しましょう。近くに動物とふれあう場所がある場合、「動物に会いにいってみない?」と外に出たがらない親に声かけをすれば、一緒にでかけてくれるかもしれません。

3. 社会とつながる
高齢者施設に入所していて、普段部屋に閉じこもりがちの方も、アニマルセラピーの日は積極的に参加しているという事例もあります。動物とのふれあいは、自然と会話のきっかけを与え、周りの人とのコミュニケーションを円滑にします。

<スタッフ体験記> 地域とのつながりのきっかけは「ヤギ」
私は数年前、自宅の庭でヤギを一頭飼っていました。しばらくして、近所の子どもたちや、隣に住む一人暮らしのおばあちゃんが遊びに来てくれるようになりました。「昔はヤギの乳を飲んで育ったのよ」など、思い出話に花が咲きます。それをきっかけに、野菜をおすそ分けし合うなどの交流を深めることができました。

また近くに住む私の義父は、ヤギの餌にと草刈りで収穫した葉っぱを持ってきてくれるようになりました。義父は運動の習慣があまりなかったため、体を動かす目的ができて良かったと感じています。

動物とのふれあいを増やす

動物が好きだけれど、高齢のため飼うことを諦めている方も多いと思います。ここでは、外出先で動物とふれあえる場所、外出できないときのアイデア、動物とふれあう際の注意点についてお伝えしていきます。

動物とふれあえる場所

動物とふれあえる場所として、動物園、牧場などが挙げられます。近年、高齢者施設を動物と共に訪問し、レクリエーションを実施する活動が増えています。中には、施設でヤギを飼うケースも。高齢者施設でアニマルセラピーが実施される場合、主に次のような活動が行われています。

・動物の名前を呼んだり、話しかけたりする
・動物の体や頭をなでたり、抱っこしたりする
・ボールやおもちゃを使って遊ぶ
・一緒に散歩をする

しかし、アニマルセラピーは、すべての施設で実施されているとは限りません。そのため、高齢者施設でのアニマルセラピーを希望する人は、事前に実施の有無を確認しておくとよいでしょう。

動物の動画を観るだけでも癒しの効果が得られる

「遠距離介護中で、出かけることが難しい」「利用している介護施設で、アニマルセラピーの活動を実施していない」という場合もあると思います。直接ふれあえなくても、かわいい動物の動画を観るだけでも、不安感が軽減されることが分かっています。スマホやタブレット、スマートテレビなどを用意して、親と一緒に過ごす時間にお気に入りの動画を見つけてみるのもおすすめします。

動物とふれあう際の注意点

動物とふれあう際は、特に次の3つのポイントに気をつけるとよいでしょう。

1. 本人の気持ちを尊重する
本人が動物とのふれあいに意欲的でない場合、無理に勧めることはよくありません。体調不良や疲れているとき、また疲れてしまうほどの長時間の活動は控えましょう。あくまでも、本人の気持ちを最優先に考えることが大切です。

2. 衛生面に気をつける
セラピーに参加する動物は、各種予防接種などを行っています。しかし、高齢者は免疫力が低下しているため、ケガや感染症のリスクが高まります。動物が直接口をなめないように気をつけるなど、予防と対策が必要です。また、ふれあった後は必ず手洗いを行いましょう。

3. 動物にも配慮する
動物に食べ物をあげたいと思うこともあるかもしれません。例えば、ホースセラビーで活躍するポニーは、りんごや梨を好んで食べます。でも、キャベツやチョコレートはポニーの体に害になってしまいます。また、ヤギは草食動物ですが、全ての植物を与えてよいというわけではありません。庭木のナンテン、レンゲツツジなどは、ヤギにとって有毒な植物です。動物に餌を与える場合は、与えてよい食べ物を確認しましょう。

高齢の親が動物好きであっても、家族と離れて暮らしている場合、自宅で動物を飼い続けることは難しくなります。私の母は猫が大好きで2匹飼っています。しかし「猫も自分も高齢だから、今飼っている子で最後かな」と言っています。そのときの寂しそうな表情を見て、いくつになっても猫と過ごす時間を作ってあげたいと思いました。

私自身、動物を飼う中でたくさんの出会いをいただき、心が救われる経験をしました。動物が持つ癒しの力を信じています。もし、近隣にふれあえる施設があるなら、少しでも交流の時間を設けてみましょう。遠距離介護中などで出かけることが難しい場合は、動画を観せてあげるだけでも良いかもしれません。親が動物とふれあいながら元気に過ごせるように、ぜひご家族にあった方法を探してみてください。

介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。

「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。

「介護に関するお役立ち情報」を随時更新しています。ぜひ介護のお困りごとの参考にご覧ください。

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