日本人の平均寿命がのび「人生100年時代」という言葉をよく耳にするようになりました。長い人生の中で、生きがいや楽しみを見つけることは、生活に彩りや豊かさを加えます。旅行もそのひとつで、ご両親が旅行好きという方もいらっしゃると思います。しかし親に介護が必要になった場合、「長距離移動が大変そう」「体調管理が難しそう」という印象が強く、旅行を諦めてしまうケースも多いのではないでしょうか。
身体面、安全面で心配は尽きませんが、できることなら出かけたい場所に連れて行ってあげたいですよね。近年では、宿泊施設、観光施設のバリアフリー化が進められています。そのため、事前に確認や準備を行うことで、要介護者との旅行は実現可能です。
今回の記事では、介護が必要な親との旅行で確認すべきポイントや、旅行をサポートしてくれるプロのサービスをご紹介します。親と旅行に行きたいけれど、「介護が必要だから無理かな……」と悩んでいる方は、ぜひ参考にしてください。
高齢者が旅行で感じる不安とは?まずはバリアフリー情報をチェック
高齢者や要介護者の旅行状況
2016年の国土交通省の調査によると、日本人が国内で宿泊旅行する年間の平均回数は、 1.26回で、最も旅行回数が多い20代は、年間1.52 回となっています。しかし、70 代以上では年間1回にまで減少します。旅行回数が減少するのは、「加齢とともに体力が衰え、健康状態が悪化して、旅行に行けなくなってしまうため」と分析され、特に足腰の衰えによる歩行への不安が大きいと考えられています。
この調査では、要介護状態になる前後で、年に1回以上の国内宿泊旅行をしていた方の割合が約4割から1割未満に減少していることから、要介護状態が旅行へのハードルを高めていると考察しています。さらに、要介護者の旅行について次のような特徴をあげています。
旅行の現状
・旅行先は家族と車で行く「温泉」が最も多い
・旅行をした人の満足度は高い
・入浴・トイレ・移動の困難度は高い。特に入浴が困難
旅行に対する不安
・要介護者が旅行するための設備やサービスが不足
・設備やサービスに関する情報が不足
・旅行に対する過剰な不安から旅行をあきらめる人が多い
みなさんの悩みと共通するものがあるのではないでしょうか。一方で、実際に旅行をした人の満足度が高いことから、家族みんなで旅行を楽しむ方法があるともいえます。
「観光施設における心のバリアフリー認定制度」を知っておこう
観光庁では、積極的にバリアフリー対応に取り組んでいる観光施設を対象に「観光施設における心のバリアフリー認定制度」を設けています。認定された施設は、観光庁が定める認定マークを使用することができ、次の3項目を全て満たしています。
1.施設のバリアフリー性能を補完するための措置を3つ以上行い、高齢の方や、障害を持つ等が施設を安全かつ円滑に利用できるような工夫を行っていること
2.施設の従業員に対し、コミュニケーションやサポートの仕方に関する研修を実施するなど、バリアフリーに関する教育訓練を行っていること
3.自社のウェブサイト以外のサイトで、バリアフリー情報を積極的に発信していること
認定された施設は、観光庁のホームページに掲載されています。旅行の計画を立てる際の参考にしてみてください。
参照:国土交通省「車いす、足腰が不安なシニア層の国内宿泊旅行拡大に関する 調査研究」
参照:観光庁「観光施設における心のバリアフリー認定制度」
旅行の事前準備で確認すべき5つのポイント
介護が必要な高齢の親との旅行を計画する際は、次の5つのポイントを確認しながら進めてみましょう。
1.健康状態をチェックする
事前に親の健康状態を確認しておきましょう。特に遠距離介護中の方は、親の体調が把握しにくいなど、不安があればかかりつけ医に相談しておくことが大切です。毎日飲んでいる薬がある場合は、不足しないように予備を準備しておきます。また緊急時に備え、旅行先で受診可能な医療機関があるか調べておくことをおすすめします。
2.旅程は時間に余裕を持たせる
車いすや手押し車を使っての移動には時間を要するため、時間に余裕を持たせた旅程を立てることが大切です。予期せぬ体調不良に対応しやすくなり、トイレへ行く時間も確保でき不安を減らすことができます。ゆったりと適度な休憩を取れば、疲れからくる転倒を防ぐことにつながります。
3.移動はバリアフリーに対応した手段を使う
公共交通機関を利用する際、事前に要介護者の状態を伝えることで、乗降のサポートが依頼できます。新幹線には、車いすから移動して座席に座る「車いす対応座席」(移乗席あり)と、車いすに座ったまま利用できる「車いすスペース」(移乗席なし)を設置している列車があります。
飛行機では、乗降のしやすい座席の希望をリクエストすることができます。混雑状況によっては利用できないこともあるため、事前に確認、予約を済ませておくと安心です。
4.訪問地、宿泊場所の設備を確認する
宿泊施設や、利用したい場所のバリアフリー情報を把握しておくことは重要です。貸し出し用の車いすの有無、スロープやエレベーターの設置などホームページをチェックしておきましょう。食事をとる店も前もって予約を行い、車いすで入店可能かどうか確認をしておくと安心です。食事に対して特定の制限がある場合は、宿泊施設やレストランなどに対応可能か確認をしてみてください。
5.持ち物をしっかり確認する
眼鏡や入れ歯など替えがきかないものは、漏れのないように準備をし、特に薬を服用している場合は、絶対に忘れないでください。健康保険証やマイナンバーカード、おくすり手帳も持参しましょう。車いす対応トイレが利用できない事態に備え、紙おむつや携帯トイレの備えも必須です。荷物を少しでも減らしたい場合は、旅行先で介護用品をレンタルできるサービスも役立ちます。
要介護者との旅行をプロのサービスでより快適に
準備を重ねても、やはり家族だけでの旅行に不安を感じる方や、バリアフリー設備が充実している観光地や宿泊施設を探す時間がないという方もいらっしゃると思います。
サポートが必要な親との旅行を実現するには、介護のプロが提供するサービスを利用することも役立ちます。旅行中の不安やご家族の負担軽減に役立つサービスを2つご紹介します。
1.トラベルヘルパー付き旅行
旅行会社などが主催し、介護と旅の両方の技術や知識を持つ外出支援の専門家が付き添うタイプの旅行です。要介護者の症状を把握した上で、旅行プランの企画から宿泊の手配までを依頼することができます。旅行に必要な準備の多くを旅行会社が請け負ってくれるため、準備の時間が取りにくい方におすすめのサービスです。
2.医療、介護資格を持ったスタッフが同行するサービス
介護旅行のサポートに慣れた医師や看護師といった介護や医療のプロが同行するため、要介護者の様子に適切に目を配ってもらうことができます。介護が必要な親もご家族も、不安を感じたらすぐにスタッフに相談ができ、何かあったときでも対処してもらえるため慌てずにすみます。
中には、医師を中心とした介護旅行の専門家が介護旅行を計画し、サポートを行うサービスもあります。旅行先の医療機関との連携をとることができるため、万が一、体調に変化があったとしても迅速な処置につながるというメリットもあります。
弊社「わたしの看護師さん」でも、看護師がご旅行先へ同行し、車いすによる移動や食事、トイレ、入浴等のサポートを行っています。医療・介護の有資格者が旅行に付き添うことで、旅行中の不安やご家族の負担を軽減し、安心して旅行を楽しんでいただけるようお手伝いしています。
介護旅行をサポートするサービスは、原則、介護保険適用外です。利用料金もそれぞれ異なるため、内容や料金を確認して、それぞれのご家族に合ったサービスを選ぶことが大切です。
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以前は「高齢になると旅行は難しい」「親の介護が必要になった場合、気軽に旅行に行くことができない」というイメージがありましたが、状況は変化しつつあります。
私の父も旅行が好きです。最近は歩行の不安やトイレが近いことを理由に、外出の頻度が減ってきていますが、行楽シーズンにはよく出かけています。友人たちとのおしゃべりや、美味しいものを食べる時間は気分転換になっているようです。
近年、観光業界のバリアフリーの推進や、介護サービスの多様化や普及によって、高齢になって足腰が弱くなった、介護状態になったという場合でも旅行を楽しむことが可能になってきています。
とはいえ、介護を伴う旅行は気の抜けない部分も多いため、旅行を諦めている方も多くいらっしゃると思います。家族だけで悩まず、プロの手を借りることも検討してみてはいかがでしょうか。ぜひ、楽しい旅行を計画して、ご家族の素敵な思い出と笑顔を増やしてください。
介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。
家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。
「わたしの看護師さん」は、東京・愛知・大阪・兵庫・鳥取・島根・広島・長崎など各地に拠点があります。お気軽にお問合せください。
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