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介護に選択肢を。悲しい事件から考える、ヤングケアラー支援に必要なこと

とても悲しい事件が、また起こってしまいました。

「限界だった」たった1人の介護の果て なぜ22歳の孫は祖母を手にかけたのか
(毎日新聞2020年10月28日)
幼稚園教諭だった22歳の女性が、大好きだったおばあちゃんを手にかけてしまった、悲しい事件。親族の協力を得られず、介護の負担を一人で抱え込み、仕事との両立に苦しんだ末だったようです。

わたしが起業を決意したのは、介護を自分一人で抱える辛さ。そんな負担を子どもたちに背負わせたくないと今日まで走り続けてきましたが、まだまだ力及ばずだと悔しい思いも噛み締めています。

「介護は家族がするべき」

初めて介護をした20代の頃のわたしは、この常識に苛まされ本当に辛い思いをしました。今、少子高齢化でどんどん子どもの数が減っていく中で、高齢夫婦に子どもがいないとなれば、甥っ子や姪っ子が介護を担うケースも増えていくでしょう。

わたしの看護婦さんにも、40歳未満の若者ケアラーからの相談がたびたび寄せられています。祖母の介護を終えて一息つくと、次は自分の両親の介護が待っている。働き盛りの現役世代が背負う負担は、日を追うごとに増えているのではないでしょうか。

未来を担う若者に、介護のしわ寄せがいく社会。いったい、どうしたらいいのか。わたしたちにできることを考えたくて、ヤングケアラー/若者ケアラーの支援をされているYancle(ヤンクル)代表の宮崎 成悟さんにお話を伺いました。

「助けて」と声を上げられない社会。

かんべ宮崎さん、本日はよろしくおねがいします。まず、今回の事件は自分の経験とも重なったんです。わたしの看護婦さんを立ち上げたきっかけは、自分が20代のとき、親戚の叔父叔母の介護と子どもの育児が重なり、その全ての責任を背負う辛い時期を過ごした経験からでした。

育児も、介護もしなきゃいけない。待ったなしの状況の中で、誰かに助けてと言っていいものか。『家族が、女性が介護をすることが当たり前』という常識にもがき苦しんでいたんですね。22歳の女性に『家族以外が介護をする』という選択肢や世の中の情報をキャッチできる余力があれば起こらなかった事件なんじゃないかと、悲しい気持ちでいっぱいです。

宮崎本当に、色々な課題が詰め込まれた悲しい事件で、まわりに理解してくれる人が誰もいなかったんだなと感じます。親族からも、職場からも理解されず、誰にも相談できなくて、今回のような事件に至ってしまったんだと思うんです。

宮崎 成悟さん。16歳から難病の母の介護がはじまり、一度は大学進学をあきらめたり、就職先を3年で介護離職。若くして介護をする人たちの孤立や働き続けられない状況を変えようと、家族介護者の就職・転職支援をするYancle(ヤンクル)を創業。

 

かんべ:相談できなかったのは、いったいなぜでしょうか?

宮崎:本来であれば、ケアマネさんに相談できるはずなんですが、叔母から直接連絡をすることは禁じられていたーーと記事には書かれています。そこを止められていたのが、一番のネックだったんじゃないかと思います。それから、家族は親族で見るものだっていう考えが強くて。介護の負担を減らすために、例えば施設を検討するということもNGだったんじゃないでしょうか。

かんべ:わたしが介護をしていたときは、介護は家族、特に女性が担うべきだということが世間の常識だったように思います。それが今は、どうでしょうか?

宮崎:介護の相談は、どちらかといえば暗くなってしまう部分があってまわりに話しづらいと感じている人は多いです。更に若いとなると、まわりに同じく介護をしている人がいないだろうし、分かってくれるはずがないと、どんどん内側に閉じ込めていってしまいます。

介護は、中高年層が、80-90代の認知症や老衰の親を介護しているイメージがありますが、僕のように難病の母を介護していたり、交通事故や血管疾患の障害、いろんなケースの要介護者がいます。介護への理解が、世間で足りていないと感じますね。

かんべ:まだまだ、圧倒的に知られていない現実があるんですね。

宮崎:今回の事件で悔しかったのは、勤め先の幼稚園へ『介護が理由で休みたい』と言うと、「嘘つき」と言われてしまった、と。ちゃんと職場に受け入れられて、楽しい働き方ができていれば、最悪の結果には至らなかったんじゃないかと思うんです。

でも、嘘つきと言った人も、知らなかっただけだと思うんですよ。22歳で介護をしているなんて、本当に嘘だと思ったんじゃないか。若くして介護をしている人もいることを、企業にも知ってもらうことはとても大切だと思いますね。

ヤングケアラー。耳慣れない言葉かもしれませんが、家族の介護を行う18歳未満の子どものことを言います。埼玉県や大阪府で行われた調査では、高校生の20人に1人が病気や障害などのある家族の介護をしていると報告されています。

当人が疾患を抱えているわけではないため「ヤングケアラーの実態」はとても見えづらいのですが、1クラス20人とすればクラス内に1人はヤングケアラーがいる、というのが今の日本の現状なんです。

 

介護で生じる“感情”を受け止めてくれる場所はどこにある?

かんべ:わたし自身が20代で親戚の介護を経験したとき、一番の救いは理解を示してくれたケアマネさんでした。今でも当時の電話番号を登録しているくらい恩人だと思っていて。『介護は家族がやって当たり前』と思いこんでいたので、『介護ってしんどいな』ということを、なかなか親族に言うことができなかったんです。

そんな愚痴も、ケアマネさんが聞いてくれて。そこまで頑張らなくていいんだよ、こんな方法もあるよ、と教えてくださった。とてもラッキーな環境だったんですが、誰か一人でも、この女性の方を気にかける人がいたら、救われたんじゃないかという思いもあります。

宮崎:僕の場合は、ケアマネさんや看護師さん、色んな人が来てくれていたんですけど、僕自身のことを気にかけてはくれませんでした。ただ、往診の先生が来たときに『大丈夫?何かあったら連絡してね』と言ってくれて。その一言が、めちゃくちゃ嬉しかった覚えがありますね。

かんべ:本来、介護の相談窓口としては地域包括支援センターがありますが、20代の方々は学校や仕事をしていて、平日日中に相談ができるかというとなかなか難しいですよね。

宮崎:そうですね。もし相談ができたとしても、『こういうサービスを使ったらいい、こういう人もいるよ』とは教えてもらえると思うんですが、本人が抱えている介護による複雑な感情、ただ愚痴を吐くということは、中々やりづらいんじゃないかなと思います。

 

介護者に必要な、“第三者”という存在

宮崎:神戸さんにお聞きしたいんですが、この事件では、ケアマネさんに相談ができなかったじゃないですか。ケアマネさんが、介護をしている家族の方を心配するケースって少ないのでしょうか?

かんべ:そんなことは無いですよ。わたしは、ケアマネ=おせっかいな仕事だと思っていて、今回の事件はどうしてケアマネさんが救えなかったのか、とても不思議なんです。おばあちゃんの介護のキーパーソンは同居している22歳の女性の方です。叔母さまがケアマネに相談しちゃダメと止めていたそうですが、例え、事務的に対応をしていたとしても、家族構成や居住の様子から、気づくはずだと思うんですよ。

宮崎:彼女自身が愛情を持って介護をしていたので、ケアマネさんからは辛そうに見えなかったかもしれないですね。

かんべ:そうですね。あるいは、ケアマネさんが訪問する時間帯の多くは平日日中。女性が働いている最中なので、接触タイミングが少なかったかもしれません。

宮崎:前に聞いたヤングケアラーの話なんですが。認知症の祖父を祖母が介護していて、祖母とケアマネがもともと知り合いだったので、その2人が話していることに口を出せないと話していました。あくまで憶測でしかないんですが、叔母さんとケアマネさんがとても仲良くされていて、叔母さんの言うことを信じ切っていたこともあったかもしれません。

かんべ:それはあるかもしれないですね。わたし自身、福岡にいる父親が倒れて介護が必要になったとき、担当のケアマネさんが知り合いの知り合いだったりするわけですよ。すると、家族の事情までは恥ずかしいから包み隠さず話せないことがあって。他人だったら話せるかもしれないけど、知り合いすぎると話しづらいのはあるかもしれない。

宮崎:そういうケースもあるとしたら、第三者・中立的な目線で考えてあげられる人が大事だなと感じますね。

 

介護に、「家族がやるもの」以外の選択肢を。

かんべ:宮崎さんが行っているコミュニティは、どのような活動をしているんですか?

宮崎:ヤンクルコミュニティは、ヤングケアラー同士のオンラインコミュニティで、今年4月に開設しました。今では100人以上が集まって、主にチャットツールのSlackを用いて、日々活発に悩み相談が展開されています。

かんべ:オンラインだとスキマ時間や仕事の合間に打ち込んで、誰かに聞いてほしい、という思いに応えてくれるのがいいですね。

宮崎:Slackは、コメントへマークをつけられるじゃないですか。愚痴を言ったときに、「共感!」マークとか、たくさんマークが付いていると、それがすごく支えになると言われますね。

かんべ:宮崎さんは、介護に悩む人へどのようなアドバイスをされているんですか?

宮崎:こうした方がいい、こうしたら解決する、とは言わないんですよね。その人の話しを聞いて、選択肢を提示する、ということをしています。その人が見えていない選択肢を提供することで、ちょっと心が楽になったり、前にすすめると思うんです。

今回の事件は、あの女性の選択肢が限りなく少なくなっていたんだと思っていて。本来であれば、逃げる、ネットで誰かを探して相談する、たくさん選択肢はあっただろうけど、それを提示してあげる人が誰もいなかった。無我夢中で介護をやり続ける中で、あの事件に至ってしまったんじゃないか。だからこそ、選択肢の提示が大事なんだなと思っています。

かんべ:30、40、50代の子どもたちが自分の親や祖父母に手をかけてしまった…というニュースは決して珍しくないですよね。誰しも、介護に行き詰まりを感じているんじゃないかと思っていて、そこに、逃げる、相談する、頼る、いくつもの選択肢があれば、自分の人生を台無しにしてしまうようなことってなかったんじゃないかと思います。本当に、宮崎さんがされているような安心して悩みを吐き出せるコミュニティに繋がってほしいです。

“ヤングケアラー”という言葉を、一人でも多くの人へ。

宮崎:ケアの根本には、基本的には愛があると思うんですよ。最初は、その人を助けたいという思いからサポートしているんですけど、それがだんだん自分の自由が奪われていくと、『家族のために』が『家族のせいで』になっていって、ピュアな気持ちが歪んでいってしまう。

かんべ:わたしも、今まで育ててくれてありがとう、と親孝行の気持ちや愛情で介護ははじまると思うんですよね。

でも心と体に余裕がなくなったときに、愛が憎しみではないけど、変わっていってしまう。介護者自身も、その葛藤がとても辛くって、無理が生じれば、手を挙げたくなることも、言いたくない文句も言ってしまったり。だから、苦しんでいるお子さんたちの代わりに、わたしたちのような介護保険外サービスが介護を担うことだってできる。そうやって、家族とほどよい距離感をつくることも大事なのかな、と思っています。

宮崎:22歳の女性は、幼くしてご両親が離婚されていて、誰かに頼ることがそもそも苦手だったかもしれません。小さいときから児童養護施設や祖母の家を点々とし、いい子でいなきゃいけないと自分を押し殺して、いくら血が繋がっている家族といえども、甘えられないと思っていたのかもしれません。

その子に唯一届けられるのが、“ヤングケアラー”という言葉だと思うんです。

『ヤングケアラーという言葉に救われました』と、先日20歳の子から電話がありました。聞くと、父親がアルコール中毒と統合失調症。父親を殺すことを考えていたときに、父親が体調を崩して入院、その間に“ヤングケアラー”という言葉を知って救われました、と。

言葉だけでそれほどに救われるものなのかと思ったんですが、自分の状態をあらわす言葉さえ分かれば、『自分だけじゃない』と客観視できたり、調べることもできる。まずはこの言葉を一人でも多くの人へ届けることが、わたしたちにできることではないでしょうか。

いつか必ず、誰しもに家族の介護は訪れます。だからこそ、『わたしには関係ない』とは思わずに、『身近に起こりうることなんだ』と想像してみてください。決して他人事ではない介護の問題、まずはこの実態を知ること、伝えることからはじめてみませんか?

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