親が言語障害になったとき、家族にできる在宅介護 〜障害を知ることから始めるコミュニケーションのコツ〜

高齢の親に「ことばが出てこない」「ろれつが回らなくなる」などの症状が現れると、これまで当たり前にできていたことばのやりとりが難しくなり、介護をする子や孫は戸惑うことも多いのではないでしょうか。

言語障害は脳の病気の後、突然起こることが多く、見た目にはわからない障害です。そのため、「何を言っているのかわからない」「会話にならない」と悩む家族も少なくありません。でも、一番不安で「どうして伝わらないんだろう」と、もどかしく感じているのは本人かもしれません。

ことばが不自由になったからといって、親の人格や家族を想う気持ちが失われるわけではありません。家族が言語障害に対する正しい知識を持って工夫をすることで、コミュニケーションは少しずつ楽になります。

この記事では言語障害の原因や回復に向けたリハビリ、在宅介護で実践できるヒントをわかりやすく解説します。まずは言語障害を知ることから始めて、親と想いを伝え合い、心をつなぐコツを身につけていきましょう。

言語障害はなぜ起こる? 言語障害の原因と脳の仕組み

言語障害の基礎知識

言語障害とは話す・聞く・読む・書くといった、言語に関する活動がスムーズに行えない状態を言います。主な原因には脳梗塞や脳出血などの脳血管障害、パーキンソン病やALS(筋萎縮性側索硬化症)などの神経難病、頭部外傷などがあります。

私たちは以下のステップを意識することなく行い、会話をしています。

<会話のステップ 〜ことばの鎖〜>
① 入力:耳で音を聞き、脳でことばを理解する
② 構成:言いたいことを脳の「言語の辞書」で組み立てて設計図を作る
③ 表出:設計図通りに口や舌を動かして声に出す

このステップを「ことばの鎖」と呼びます。言語障害は、この鎖のどこかが途切れてしまい、伝える仕組みが動かなくなった状態を指しています。言語を主に司る左脳がダメージを受けると、知能には問題がなくてもことばをうまく扱えなくなり、やり取りが難しくなるのです。

「失語症」と「構音障害」の違いを正しく理解しましょう

在宅介護でよく見られる言語障害には、失語症と構音障害があり、原因やリハビリテーションの方法が異なります。

失語症: 言語の辞書が機能しにくくなった状態

脳の言語の辞書が働きにくくなり、言語に関する活動が難しくなります。「ありがとう」の挨拶を例に、2つのタイプの失語症についてご説明します。

1.【ウェルニッケ失語症】 ことばを受け取るのが難しい失語症
スラスラと話せますが、言い間違いが多く、意味の通らないことばが多く見られます。そのため相手には、知らない外国語のように聞こえてしまうこともあります。例えば「ありがとう」が、「あたらふた」のように聞こえるなどします。

2.【ブローカ失語症】 ことばを出すのが難しい失語症
言いたいことが頭の中にあっても、ことばが喉に詰まったようになり、うまく出ていきません。例えば「ありがとう」が「あ…(沈黙)がう」のように聞こえる場合があります。

構音障害: 口周辺の筋肉がうまく動かない状態

ことばの理解はしっかりしていても、舌や唇の筋肉が麻痺してしびれたり、筋力低下により舌や唇の筋肉を動かす力が弱まったりして、発音がはっきりしない状態です。「ろれつが回らない」と表現され、例えば「ありがとう」が「あいやおう」に聞こえることがあります。

失語症と構音障害の違いは、身近にあるスマホに例えると理解しやすいかもしれません。失語症は、スマホに文字を入力したときに誤変換や文字化けが起きるなどの「スマホの中身(ソフト)」に障害のあるイメージです。構音障害は、入力したことばは正しく認識されていますが、スピーカーから出る音が割れたりこもったりするなど「スマホの外側(ハード)」に障害があるといったイメージです。

言語障害の困りごととリハビリテーション

言語障害によって「もう一生しゃべれないのでは」と絶望する必要はなく、リハビリテーションに取り組むことができます。日々の暮らしの中に起きる困りごとと、ことばや日常のリハビリテーションについて知っておきましょう。

<日常生活で直面する言語障害の困りごと>

・問いかけても返事がなく、家族は無視されたように感じる。
親にはことばが雑音のように聞こえていて、理解が追いついていない場合があります。

・「あれとって」と指差しても、家族になかなか伝わらないといった状態が続く。
親は不機嫌になり、家族も追い詰められてしまうことがあります。

・大勢で会話するときのスピードについていけない。
親は「自分はいないもの」と扱われているように感じて自信を失ってしまいがちです。

・「かゆい」「疲れた」などの親の訴えや体調が、家族に伝わりにくい。
ことばが通じにくいため、認知症と勘違いされることもあります。

言語障害の回復とことばのリハビリテーション

脳には壊れた回路を補おうとする力があります。言語障害の発症から半年間は「回復期」と呼ばれ、変化が表れやすい時期とされています。そのため、積極的なリハビリテーションが行われます。また、その後も生活の中で少しずつ回復していくケースが多くあります。

言語聴覚士(ST)は、医師や歯科医師などと連携し、言語障害のリハビリテーションを担当します。言語聴覚士(ST)によるリハビリテーションでは、元通りに話すことだけを目指すわけではなく、「残された能力を活かしながら、想いを伝える手段を増やす」という視点で、ジェスチャーや文字、道具などを使ったコミュニケーション方法を活用していきます。

日常のケアとリハビリテーション

在宅介護では、日常のケアそのものが言語障害の最高のリハビリになります。以下のチェックポイントを参考にしてみてくださいね。

▢ 口腔ケアを丁寧に
歯磨きやうがいは、食事や発話に必要な筋肉を動かします。毎食後のブラッシングを丁寧に行い、口を膨らませて「ブクブクうがい」をすることは、お口の衛生を保つだけでなく、お口の機能を維持する大切なリハビリです。

▢ 静かな環境を整える
言語障害がある人は雑音(ノイズ)の中から声を選び取ることが苦手です。大切な話をするときは、まずテレビを消しましょう。それだけで、脳の負担は減り、驚くほどスムーズにことばが伝わることがあります。

▢ 最後まで聞く、ゆっくりと話しかける態度をとる
言語障害がある親自身が話そうとしているとき、つい先回りをして答えていませんか?言語障害があると脳内でことばを探すのに時間がかかります。

心の中で5秒ほど数え、親のことばを待ってみましょう。そしてゆっくりと話しかけてみてください。相手のペースに合わせることは、親の「自分で伝えたい」意欲を支え、脳内の伝える回路をつなぎ直す助けになります。

▢ 歌の力を活用する
言語を司る左脳が傷ついても、音楽を司る右脳の機能が保たれていれば、歌えることがあります。親の好きな歌や童謡などを一緒に口ずさむことは、楽しみながら行う発声訓練にもなります。

▢ 家族の笑顔を大切に
リハビリテーションの専門家である言語聴覚士のように、「親に特訓しよう」などと家族が意気込む必要はありません。ことばの間違いを厳しく直すよりも、「間違えても大丈夫」という安心感が大切です。家族で楽しく会話して、笑顔を増やしていきましょう。笑顔は顔の筋肉の緊張をほぐし、自然な動きを導いてくれます。

コミュニケーションの取り方のヒント

話すことが難しいとしても、親の表情を捉えて手を握るなど、ことば以外のコミュニケーション手段に目を向けてみましょう。お互いのストレスを軽減するために、今日から取り入れられる工夫を紹介します。

毎日の暮らしのなかでの問いかけ方や道具の工夫

・質問の形を変える
日常生活では、「今日のお昼何食べた?」などと自由に答えられる質問をする場面も多くあります。しかしそのような問いは、言語障害がある親の脳への負担が大きくなります。

質問の形を変え、「今日のお昼、麺だった?ご飯だった?」と二択の選択質問や、「YES・NO(はい・いいえ)」で答えられる問いかけにするだけで、親はぐっと答えやすくなります。

・ホワイトボードやノートの活用
ことばが出にくいときに、1文字目だけを書くことが、会話の大きなヒントになります。身近な道具をコミュニケーションツールとして使ってみてくださいね。

・指差しシート(コミュニケーションボード)を取り入れる
「トイレ」「暑い」「痛い」などの文字やイラストを1枚にまとめたシートはおすすめです。あいうえお表(50音表)を使うよりも、パッと見てわかる文字や絵が失語症の方には伝わりやすいことがあります。

デジタルツールや写真で視覚的な情報を活用

音声だけよりも視覚的な情報があると、親は家族の伝えたいことを理解しやすくなり、意思を伝え合う助けになります。

・スマホの写真を共有する
例えば「何が食べたい?」と問いかける代わりに、スマホの写真を共有してメニューを指差すことで、親の希望する食事を知ることができます。

・メッセージアプリのスタンプを活用
発することばを選べなかったり、文字入力が難しかったりする場合も、感情に近いキャラクターのスタンプを選ぶことで、想いや体調を伝えることができます。リハビリテーションを行う言語聴覚士の間でも、LINEなどのメッセージスタンプの活用が注目されています。

<スタッフ体験記> 孫とスタンプでつながったAさん
以前から孫との電話を楽しみにしていたAさん。失語症のため電話で会話できなくなり、塞ぎこんでいました。

でも、あるときの訪問リハビリテーション中に応援スタンプが孫から届き、周囲の手助けを借りながらスタンプを選んで返してみたのです。次第にスタンプや写真のやり取りもできるようになっていきました。

孫に自分の想いを伝えられたことで、Aさんは笑顔と自信を取り戻したのです。

遠距離介護で役立つコミュニケーションのコツ

遠距離介護の場合は、ビデオ電話がおすすめです。表情や身振り手振りなどの視覚情報があると、お互いの意図を汲み取りやすくなります。画面越しに同じおやつを食べたり、風景や昔の写真を見せ合ったりすると、体験の共有につながり、ことばに頼りすぎない豊かな時間を共有できるのです。

また、写真やメッセージの受信ができるデジタルフォトフレームなどのテクノロジーを活用すると、親に予定を知らせることもできるのでおすすめです。離れて暮らしていても、家族とつながっている安心感が生まれます。

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言語障害は、ことばでのやり取りがうまくいかない状態です。言語障害のある親の言いたいことが伝わってこないと、まるで終わりのない連想ゲームのように感じ、イライラすることもあるでしょう。しかし、その感情はあなたが冷たいからではなく、「理解したい」「伝えたい」という愛情があるからこそ生まれるもどかしさです。

在宅介護を家族だけで抱え込まず、言語聴覚士やケアマネジャーといった専門家に困りごとを相談してみてくださいね。専門家の助けを借りながら、少しずつ工夫を積み重ねて、笑顔や成功体験を分かち合いましょう。

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