がんばりすぎない車いす介護 〜家の中の環境作りと安全に外出を楽しむためのヒント〜

在宅介護で車いすを利用する高齢の親との生活では、これまで当たり前だった動作の一つひとつに工夫が必要になります。「家の中や外出時の移動が大変で、親が部屋に引きこもりがちになった」「力任せに介護をしてしまい、お互いに疲れてしまう」、そんな悩みを抱える方も少なくありません。

介護は筋力や気力だけで乗り切るものではなく、物理学の知恵を活用して身体の使い方に意識を向け、身体の負担を少なくすることも大切です。また介助しやすい環境に室内を整え、サポートとなる道具やサービスに頼ることも立派な介護です。

この記事では、車いすで生活する高齢の親と、介護を担う家族のどちらにも無理のない介護の工夫を解説します。家の中のレイアウトや外出時の移動方法にちょっとした工夫を加え、親子で心地よく暮らすためのヒントを探してみませんか?

一人で抱え込まない、親子共に笑顔で過ごす毎日を

相手にも自分にも優しい介護を意識する

車いすからベッド、ベッドから車いすへ移乗の際、力だけに頼った介助をしてしまうと、介護者に負担がかかるだけでなく、介護される親にも痛みや恐怖感を与えてしまうことがあります。

大切なのは、いかに両者が楽に動作できるかが大切です。移乗をサポートするときの基本的な手順とポイントを確認しておきましょう。

①まずは足を肩幅ほどに広げしっかりと腰をおとします。これにより自分の体が安定し、支えやすくなります。

②次に体をできるだけ密着させましょう。介護される親と自分との間に距離があると、腕の力に頼るだけの介護になりがちです。体を密着することで、全身の力を使って介護しやすくなります。

③移乗するときはなるべく、親の体を持ち上げないようにしましょう。持ち上げる動作には、より力が必要になります。力が入りすぎると、骨折につながることもあるので注意が必要です。なるべく高い所から低い所へスライドさせるように、車いすからの移乗をサポートすることがポイントです。

介護用ベッドを使用している場合は、高さを調整することができます。ベッドから車いすに移乗する時は、ベッドを車いすより高くして介護しましょう。逆に車いすからベッドに移乗する時は、ベッドを車いすより低くします。このように高さを調整すると、移乗時の負担を減らすことができます。

力が弱い方でも介護しやすい方法

体格差がある親を介護するときや、力の弱い方が介護を担うときは、介護技術だけでは補えない負担がかかります。そんなときは道具を使うことをお勧めします。

・スライディングシート
ベッド上での移動や体位変換を、小さな力で行うための補助用具です。体とベッドの間の摩擦を減らし、スムーズに体を動かすことができます。

・スライディングボード
ベッドと車いすの間を、座ったまま滑るように移乗するための補助用具です。こうした補助道具を使用することで、より力を必要とせずに介護を行うことができます。一人で無理をせず、適切な道具に頼ることも介護の大切なポイントです。

過ごしやすさの中にいつも家族を感じる、家をそんな空間に

寝室はなるべく生活の中心に

車いす生活をする親にとっては、移動距離が大きな障壁です。ベッドから車いすへの移乗に時間がかかる上に、そこから車いすで移動するため、歩く場合と比べ何倍もの時間と労力を必要とします。トイレやリビングへの移動を考えて寝室の場所を選びましょう。

・トイレからの距離
移動距離が長いと、トイレに間に合わず失敗してしまうことがあります。これは親にとって大きなストレスになり、介護者にも更衣介助の負担がかかります。なるべくトイレの近くに寝室を配置し、移動距離が短くなるように工夫しましょう。また、ポータブルトイレを置いても邪魔にならない部屋を選ぶことも必要です。

・リビングの位置
リビングになるべく隣接している部屋を寝室に選ぶことも大切です。車いすでの生活では、自由に移動することが難しい場合もあります。声をかけてすぐに誰かを呼ぶことができる環境は、親にとっても介護者にとっても安心につながります。何より家族の存在を近くで感じることができます。

車いすで動きやすいレイアウトに

・車いすのための余白を作る
車いすでの移乗や方向転換にはある程度のスペースが必要です。必要最低限の物だけを置くようにして、なるべく余白を確保しましょう。車いすへ移乗するため、ベッドの片側に車いすをつけられるようなスペースを確保してください。車いすで回転する時に当たらないよう、家具等はなるべく壁際に配置することをおすすめします。

・扉や床材を見直す
車いすでは、開き戸の開閉が非常に難しく、開けるために一度バックしなければなりません。引き戸への変更か、カーテンやアコーディオンカーテンでの仕切りにするだけでも移動がスムーズになります。

また、床の素材にも注意が必要です。毛足の長い絨毯などは車いすのタイヤが取られて動きにくく、つまずいてしまう可能性もあります。フローリングかクッションフロア、薄手で床に吸着しやすいタイルカーペットなどに変更しましょう。

工夫と準備と人の手と、外出を彩る選択肢

坂や段差、溝がある場所で気を付けるべき注意点

<下り坂>
下り坂の時は基本的に後ろ向きで移動しましょう。前向きで降りると、車いすに乗っている親が転落、転倒する危険性が高まります。また、放り出される恐怖感を与えてしまう可能性もあるので、介護者が先頭に立ちゆっくりバックで下るのが鉄則です。

<段差>
段差を上がるときは車いすの足元に付いている「ティッピングレバー」を踏み、前輪を浮かせて乗り越え、最後に後輪を押し上げます。下る時は後ろ向きで、後輪を先に地面に着地させます。

<溝>
溝に車いすがはまってしまったときに、無理に前に押し出してしまうと、前倒の危険性が高まります。まずは前輪を浮かせて、後方へゆっくりと引き抜くようにしましょう。

車いすを押すスピード、人混みや雨への備え

<適切なスピード>
車いすを押すスピードは、自分の歩く速さの半分以下程度を心掛けましょう。乗っている人は目線が低くなるため、スピードを速く感じやすく、恐怖感につながることがあります。「早くない?」「疲れてない?」などと、こまめに声をかけながら進みましょう。

<人混みでの周囲への配慮>
人混みでは、車いすは高さが低いため歩行者に気づかれにくく、急に前を横切られることがあります。無理に人混みをかき分けて進むのではなく、壁際や端を移動しましょう。また、車いすの目立つところに、目につきやすい明るい色の物を、装着しておくと、周囲に気づいてもらいやすくなります。

<雨への備え>
雨の日に片手で傘を差し、車いすを押すのは危険です。親には足元まで覆える車いす専用レインポンチョを着用してもらい、介護者はレインコートを着用しましょう。

外出時に便利な携帯グッズ

おすすめのグッズをご紹介します。チェックリストを参考に、外出時に取り入れてみてください。

▢ ウエットティッシュ
 外出時は泥や汚れが車いすに付いてしまう可能性があるため、携帯しておくと便利です。
▢ S字フック
 ハンドルに荷物を掛けることができます。
▢ 膝掛け
 夏の冷房や冬の寒さ対策に役立ちます。

「付き添いサービス」を利用する

介護保険外サービスの「付き添いサービス」を利用するのも、外出手段として有効です。看護師、ヘルパーなどの介護の専門家が、趣味のための外出や病院付き添いなどに幅広く対応してくれます。介護のプロなので安心して任せることができ、ご家族の負担軽減にもつながります。

高齢の親を在宅介護で支えることは容易ではありません。時には、介護者が自分のことを見つめ、自分を大切にする時間を作ってみてはいかがでしょうか。

車いす生活になると、これまで見ていた景色が一変し、あらゆる面で新たな方法を取り入れる生活が始まります。便利なアイテムの活用により力に頼りすぎない介護をする、車いすの動きやすさを意識した環境作りを取り入れる、外出時に付き添いサービスを利用するなどすると、介護を担うご家族の負担が劇的に変化する可能性があります。

最も大切なのは、在宅介護を行うあなたが自分一人で抱え込まないことです。便利な道具などを取り入れることや、周りの方に頼ることは決して手抜きではありません。共倒れを防ぎ、親の笑顔を守るためにも必要なことです。あなたの心に余裕が生まれることが親にとって何よりの安心材料になります。

また車いす生活は工夫次第で、新しい景色を見せてくれる機会にもなり得ます。不便になることもあれば、周囲の方に移動を手伝ってもらうことで感じるぬくもり、目線の位置が変わることで見える世界など、知らなかったことに気付く瞬間がきっとあります。無理のないペースで親子ともに心地よい毎日を紡いでいきましょう。

介護保険でカバーしきれない病院付き添いや単身で暮らす親御さんの見守り、介護相談などを行っています。

家族に代わって親御さんや親戚の介護をできる人を探している方、遠距離のため思うような介護ができないとお悩みの方、ぜひ私たちまでご相談ください。

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