「ヤングケアラー」という言葉をご存知ですか?「ヤングケアラー」とは「家族の介護その他の日常生活上の世話を過度に行っていると認められる子ども・若者」のことです。
2021年、国の実態調査で、中学2年生の約17.5人に1人が「世話をしている家族がいる」と回答したことが公表され、社会に大きなインパクトを与えました。最近ではCMやポスター、チラシなどで目にする機会も増えています。子ども自身の現在と将来に様々な影響が考えられるヤングケアラーへの支援は急務です。
「N.K.Cナーシングコアコーポレーション合同会社」(以下、「N.K.C」)では、ヤングケアラー支援を始めて5年目を迎えます。この記事では、支援を進めていく中で、何が必要なのか、足りないのか、少しずつわかってきたことを、神戸 貴子がお話します。
あなたが、今、一緒に考えてくださることが、支援の大きな第一歩です。わたしたちのヤングケアラー支援をぜひ知っていただきたいと思います。
参照:子ども家庭庁「ヤングケアラーについて」
参照:文部科学省「令和2年度調査研究(概要)」
「なんとかしたい!」すべてはそこから始まった。個人のTwitterアカウントでの「ヤングケアラー」相談
-ヤングケアラー支援として、どのようなことを行っていますか?
神戸:最初は、私個人のXアカウント(旧Twitter)で相談を受け付け、業務の合間や深夜帯に小さく取り組んでいました。
ちょうどその頃、全国的にも、徐々にヤングケアラーに特化した相談窓口が立ち上がり始めたんです。でも、電話相談や来所が必要な窓口ばかり。子どもたちにとって身近な相談場所には思えませんでした。
そこで考えたのが、LINEを用いた相談窓口の開設とオンラインサロンの運営です。鳥取県が実施する「公民連携推進事業」にエントリーし、児童相談を管轄する部局につないでいただき、2021年8月に実証を開始しました。
約5か月の運営で登録者88名、30名を越える子どもたちが相談の声を寄せてくれました。翌年度からは県の委託事業として、「鳥取県ヤングケアラーLINE相談」窓口とオンラインサロンを開設し、出前授業、相談対応や支援者向けの研修などに取り組んでいます。
-それぞれの支援内容を具体的に教えてください。
神戸:LINE相談は、毎日午後6時から11時まで対応していて、24時間365日受け付けています。相談に応じているのは、元ヤングケアラーや看護師、ケアマネージャーなどの資格を持った経験豊富なスタッフです。
オンラインサロンは、Zoomでつながるイベントです。匿名参加・顔出し無し・チャットで質問・スマホ参加もOK 。毎月1回程度、ヤングケアラー同士がおしゃべりしたり、悩みや経験を共有したりしています。
出前授業とは、私たちが学校に伺って、子どもたちを対象に、ヤングケアラーや「家族のケア」への理解を深めてもらうために行う特別授業のことです。
相談対応や支援者向けの研修は、ヤングケアラーを支援している人、支援をしたいと思っている人をサポートする事業になります。具体的には、講師対応、研修・シンポジウムの企画運営、ヤングケアラーSNS相談窓口の立ち上げ、運営、オンラインサロン等の企画運営です。子どもたちと直接関わる活動ではありませんが、子どもたちの生きやすい社会、応援団作りのために重要な支援だと思っています。
参照: 日本経済新聞「ヤングケアラー支援手探り 鳥取のNKCがLINE相談」
「私も同じだった」ヤングケアラーとの出会いが教えてくれた気づき
-どうしてヤングケアラーの支援に取り組むようになったのですか?
神戸:N.K.Cを起業して5年〜6年の頃、スタートアップ起業家さんと関わる機会がありました。そこで、「ヤングケアラーをどうにか支援したいと言っている方がいる。神戸さん、話を聴いてあげてくれない?」と相談を受けたんです。
そしてコロナが流行する直前の時期に、その方とお会いすることになり、話を聞きました。すると、16歳から20代の現在まで親御さんの介護をしているという彼の話と、かつて介護をしていた20代の自分の苦労がピッタリと重なったんです。
過去の精神的にも身体的にも、本当に辛かった感覚がよみがえりました。「あの時代に、ヤングケアラーという言葉があれば、私も同じだったんだ」と思ったんです。
実は、私は20代で親戚の介護に直面して、看護師としての知識や経験はあったのですが、どこに相談すればよいか分からず、一人で抱え込んで苦しみました。介護事業を立ち上げた根底には、「そのときの自分を解放したい、救いたい」という思いもあったんです。
彼との出会いで、「介護とは、年齢に関係なく、世代を越えていつ出会うかわからないものなんだ。大人を支えることに特化した介護事業でなくてもいいんだ」と思いました。そこで、「ヤングケアラーの支援をしてみよう。ヤングケアラーだった私のためにも」と考え、現在に至るわけです。
子どもたちに寄り添うことを何より大切に。連携によって実を結ぶ支援を
-これまでの支援活動のなかで、どのような事例が生まれていますか?
神戸:LINE相談窓口に、「歳の離れたきょうだいのケアをしています。私がひきこもりがちということもあって、家にいるんだったらきょうだいの面倒見なさいって、親から言われています」という相談がありました。
仮にAさんとしますが、Aさんは、やりたいこともあるし、進学もしたいと思っているけど、精神的にも辛くてどうしていいかわからないと話してくれました。一人で抱え込んで絶望し、追い詰められた様子でした。
勇気を出して相談してくれたAさんに、具体的な支援が必要だと判断し、自治体の支援機関につなぐことを提案したんです。Aさんはそれを受け入れてくれ、直接的に支援が可能な機関につなぐことができました。
週末の夜に相談を受け、土曜・日曜の対応となったのですが、迅速な支援ができたのは、当直の方に動いていただけたからです。支援機関が、もともとAさんのことを気にかけていたという事情もありました。翌日には、直にAさんの話を聴き、医療につなげることもできたということでした。
これは、連携によって支援が実を結んだうれしいエピソードです。子どもたちの生きづらさを1つでも軽くしてあげたいと願っています。
LINE相談を24時間365日受け付けていたことが功を奏しました。特に、子どもたちが一人で考え込みやすい午後6時から11時を対応時間に設定していたのは、本当に良かったと実感しています。知らない大人に対面や電話で相談するのは、子どもにとって勇気が要るし、抵抗もあるはず。だからこそ、いち早くLINE相談を立ち上げたことが、切実なニーズにマッチしたのだと感じています。
私たちの役割は、「話を聴いて少しでも心を軽くしてあげることと、支援機関や制度などの選択肢と子どもたちをつなげることだな」と、あらためて思いました。
学校、医療機関との連携 ~未来を変える2つの柱~
-これからどのようなことに取り組んでいきたいですか?
神戸:「子どもたちの間では、ヤングケアラーの認知度がまだすごく低いな」と感じています。子どもたちが、日常生活の中で一番長い時間を過ごしている学校で、ヤングケアラーについて学ぶ機会をもってもらえるようにしていきたいですね。
他県に出前授業に行ったとき、子どもたちの反応がすごく良かったことがありました。その学校の先生はとても前向きで、ヤングケアラーに対するアンケート調査を出前授業の直前に行ってくれていたんです。それで子どもたちは、「ヤングケアラー知ってるよ」と興味をもって、私たちの話を聴いてくれたのだと思います。事前に学びの機会がなかった子どもたちに出前授業をすると、「ヤングケアラーって何?」という感じになってしまうことも多いんですよね。
ヤングケアラーに限らず、家族のケアや、それを1人で抱え込まないなどの知識を学ぶ場があってほしいと思っています。子どもたちを守ってくれるのが、知識や情報なんです。今はケアラーではない子どもたちも、10年後、20年後、30年後にケアに向き合う日のためにも、「誰かに頼っていいんだよ」と知ってもらえたらと願ってやみません。そのために、出前授業をもっと広めていきたいと考えています。
また、医療機関と情報を共有し、必要な支援機関との連携も進めていきます。ヤングケアラーの子どもたちや、元ヤングケアラーの話を聴くと、かなりの割合で、親御さんが難病やがん、精神疾患を抱えているというケースがみられます。
退院や通院の際の支援に関わる方は、患者さんのケアとともに、ご家族にも思いをはせてもらいたいです。そして、何か気づくことがあったり、心配があったりするときには支援機関につなぐという体制作りをしていきたいと思っています。自治体によっては、ヘルパー派遣をしてくれる場合もあります。不安なとき、困ったときに利用できる支援や相談窓口を、患者さんやご家族に伝える仕組みを医療機関と連携して作りたいです。
する側、される側、介護はみんなの問題 ~「頼っていいんだよ」を当たり前に~
-連携や支援を広げるために必要なことは、何でしょうか?
医療機関や医療従事者向けにも、ヤングケアラーについての研修を行いたいと考えています。しかし、関心が高くても、忙しさから勉強会に足を運ぶのはハードルが高いといった場合もあるようです。だからこそ、研修を受けたら、評価上のポイントがつくような制度設計が必要だと思っています。
人生経験の豊富な大人でも、追い詰められ、孤立しがちになるのが介護です。それを子どもが一人で背負うことの重さを社会で共有しなければなりません。医療、介護、学校、周りの大人がアンテナを高くして連携し合うことが、子どもたちの今と未来を守る方法です。
「何となく不安そうにしている。困っているのかもしれない」と気づいたら、みんなで連携する方向へ一歩踏み出してみませんか?「もう一人でがんばらなくていい、周りの人に頼っていいんだよ」というメッセージを、子どもたちに届けていきましょう。